第59話 ヤンヤン、戦後を迎える!

 ゲルマ共和国は虎の子の飛行巡洋艦を半分失い、首長国も陸上戦艦を大部分失った上にMCも失い、しかも戦艦に乗ってた偉い人も死んだらしい。

 世の中が、しばらくは戦争するだけの元気を失った状態!


 やったー!!


「いやあ、本当に平和になったなあ」


「世界中の戦力を削りまくりましたからな」


 艦長と副長が、食堂でお酒を飲んでる。

 お昼ですお昼!


 陸上戦艦グワンガンは当座の任務すべてを終えたということで、グエン共和国支部に帰るところだった。

 支部にはリー元帥も戻ってきてるそうで、この人がアヤコ少将を説き伏せ、私たちの一階級ぶんの昇進は確約させたらしい。

 つまり、戻ったら偉くなる!


 ……そうなんだけど。


「私はここで降りようと思います!」


 南部大陸同盟の土地を抜けたくらいのところで、私は宣言した。


「そうか。本当に行ってしまうんだな……」


 なんかしみじみと艦長が呟いた。

 私が船を降りるという話を聞きつけて、船中のみんなが集まってきた。


 副長に、オペレーター三人娘に操舵手の人に、整備長、整備士さんたち、機関長と機関部のみんな、シェフとお手伝いさん、それからウーコンとサーコン。


「大体戦争が終わったので! 私は婚活を終えて家庭を築きます……!!」


「これまでの分の給料は配達させるから、ちゃんと住所が決まったら連絡するんだぞ」


「あっ、はい! お店を開くので、すぐ分かると思います!」


 優しい副長なのだ。


「先を越された悔しいおめでとう!」


「一番若いのに一番最初なんて幸せになってね!」


「遊ばないうちに家庭に入るの正道なのかって私もちょっと思っちゃってつらいがんばってねヤンヤン!」


「三人とも本音が!! ありがとうー!」 


 オペレーター三人娘さんたちの今後が幸せでありますように!

 整備長と整備士のみんなからは、色々ジャンクを送ってもらった!


「いやあ、たった四ヶ月だったけど、面白かったぜ。俺の軍人としての人生で一番濃い時間だった……。ま、たまには顔出しに行くからよ!」


「ヤンヤンがいなくなると静かになっちゃうなあ」


「元気でな、ヤンヤン!」


 シェフは大きなお弁当をくれた。


「悪くなる前に食べちまえよ! 最後まであんま料理が上手くならなかったお前だが、あれだ。結婚生活はこれからがスタートだからな。ちょっとずつできるようになれ」


「分かりましたシェフ!」


「シェフじゃねえ!」


「っす」「す」


 ウーコンとサーコンもなんか言ってた!

 ありがとう!


「まあ、なんだ」


 最後は艦長だった。

 私の肩をポンポン、と叩いて、


「この小さい肩に全世界の戦力を叩き潰すという使命が乗ってたわけだな。いやあ、本当にお疲れさん。だが、ヤンヤンにとってはこれからが人生の本番ってもんだろ?」


「はい! だってこっからの方が長いですもん!」


「だよな。頑張れよ! 長生きしろよ!」


「艦長、私この中で一番年下なのに、気が早いです!」


 ドッとみんな笑った。


 その後、私はスバスさんが運転するMWに乗ってグワンガンから離れた。

 さらば、私の婚活!

 私の仲間たち!

 私の楽しい職場!


 こうして私は婚活を終えた。

 身の丈くらいの相手は、スバスさんくらいがちょうどいいのだ。

 うんうん、こういうのでいいんだよ、こういうのがいいんだよ。


『ソウジシマスオソウジシマス』


 ルクナフが荷台でぐるぐる回っている。

 早く広いところに下ろしてあげるからねー!


 ※


 ヤンヤンがいなくなり、ちょっとだけ静かになったグワンガン。

 ガチャガチャと移動していたら、見覚えのあるMCが擱座(かくざ)しているのが見えた。


 機体の周辺には、山賊か何かだろうか?

 そんな連中のMWが残骸になって転がっている。

 MCの肩の上で、まだ幼さを残す少女が立って手を振っている。


「艦長、あれ」


「あ、ヤンヤンと最後にやりあったMCじゃないか。まあ戦争は終わったし、平和になったら助け合いが大事だからな」


 グワンガンが停止し、少女を船に迎え入れる。

 

「まさか、この船に助けられるなんて」


 流暢な連邦語だった。

 彼女は船に乗り込むなり、運命の皮肉に笑い出した。


「我々環太平洋同盟所属、陸上戦艦グワンガンは君を受け入れるぞ。俺は艦長のポプクンだ。君は?」


「マリーヤ。所属はないわ。元々軍属じゃないの。実験動物みたいなもの。だけど、完全に負けちゃったし、カグンはあの有様」


 格納庫に運び込まれる、南部大陸同盟の技術の粋とも言える機体。

 これの研究が行われれば、環太平洋連合の技術力は向上することだろう。


 彼女はカグンを見に格納庫まで向かい、そこに佇むスアを見上げた、


「やっぱりいた。ねえそこの人。この機体のパイロットはどこ?」


 ちょうど通りかかった双子の男が、ああ、と声を漏らした。


「ちょうど婚活を終えて船から降りたっす」


「軍人を引退したすよ」


「はあ!?」


 思わず大きな声を出すマリーヤ。


「なにそれ!? なんで降りてるの!? っていうか降ろしたの!? あんな……間違いなく世界最強の腕を持っているパイロットを、そんな呆気なく……」


「いやあ、だって……ヤンヤンは婚活するために乗り込んできてたっすからなあ」


「目標を果たしたので、降りたすよー。全然執着とか無かったす……」


 やっぱあの娘、意味分からんよなーと話し合う双子。

 マリーヤは彼らの言葉に混じった名前に、耳を疑った。


「ヤンヤン……!? 彼女がスアのパイロットだったってわけ……? そんな、そんなことある……!?」


 呆然と、永遠に主を失った世界最強のMCを見上げる。

 全世界のMCを打ち倒し、両手の数では数え切れぬほどの艦船を落とし、ついには一度も撃墜されることなく戦いを終えた機体。

 それそのものが、伝説と化した機体。


 環太平洋連合の虎は、短くも濃厚な戦いの日々を思い返しているかのように、悠然と佇んでいた。



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