第58話 ヤンヤン、戦いを終わらせる!
いやあ、三度目の対戦になります、大きいMC。
ちょこちょこバージョンアップしてて、今回のは決定版っぽい感じなんだよね。
砂色に塗装されてて、色合いは今までで一番渋い。
それがなんか、向こうの言葉でわやわやと言った。
「同盟の共通語は分かりませーん」
私もオープン回線で伝える。
それでちょっと考えた後、連邦語で「同盟、言葉、分からない」とたどたどしく伝えた。
『ふざけたやつ』
あっ、むこうも連邦語で返してくれた!
やっと言葉が通じたなあ……。
不思議な感動。
「戦場、私たちだけ。勝負する。早く」
あー、連邦語難しいなあ!
単語でしかおしゃべりできないよ。
『ふふふ……! あなたも早く戦いたかったのね。私たち、気が合うのかも知れない。戦場ではないところで会えていたら、もしかしたら友達になれていたかも』
「小難しい言い回し。戦う? 戦わない?」
『あはははは! やる気じゃない! いいわ、やってあげる!! ゴモラー!!』
あっ!
なんか難しい言い方してるけどどういう意味です? 戦うとか戦わないとかそういう意味です? って聞こうとしたら!
挑発になってしまったー。
いやあ、コミュニケーションって本当に難しいですねえ。
相手の大きいMCは、今自己紹介してくれたのでゴモラーと言うのだと分かった。
おおー、なんか背負ってる砲台が自律して飛び上がったんだけど。
あれ、私のバックパックと同じ多重推進機で制御されてるのね。
ゴモラーとは長いコードで繋がってる。
で、ゴモラーも内蔵火器みたいなのをみんな出してきた。
ばりばり撃ってくる。
ほいほい、回避回避。
弾幕なんか、必ず通れる隙間が空いてるんだよね。
ほらあった。
スッと隙間に入ったら、今度はそこを目掛けて射撃してきた。
うひゃー、危ない。
私はひょいっと浮かび上がって回避する。
『誘い込んだのに、それを避けて見せる!? まさかわざと! 本当に面白いやつ!!』
何を言ってるんでしょうねえ……。
よし、こっちも反撃だ。
パイルランサーを二本携えて、弾幕をひょいひょい避けながら遡る。
『ウグワー!』
『ウグワー!!』
『近づけん!! ウグワー!!』
『化け物……ウグワーッ!!』
こっちの戦いに介入しようとしてた、ゲルマとか首長国のMCが弾幕に触れて次々落とされてる。
いやあ、物騒ですねえ……。
私は燃料消費は控えめに、滑空しながら弾幕をくるくる回転しつつ回避。
どんどん近づく。
『どうして当たらない!?』
「隙間ある。簡単」
『あはは! 私も大概人間をやめたと思ってたけど……あなたも化け物ね!』
「おー、化け物、ひどい言い方」
化け物くらいは分かるぞ!
ひどーい!
私はぷんぷん怒りながら、背後に回ってきていた砲台を後ろ手にしたパイルランサーで破壊した。
コードをプチっと千切って、砲台の使えそうな辺りを手にする。
『ゴモラーの砲台を奪う!?』
「ユニバーサルデザイン! 便利!」
『戦場でユニバーサルデザインをフル活用できるパイロットなんて、あなたしか見たことない!』
砲台を一発ぶっぱなしたら、壊れてしまった。
だけどその一発で、別の浮遊砲台も破壊した。
私は爆発に乗って、シューッとゴモラー目掛けて急加速。
『速い……!! なんて加速!!』
一瞬でゼロ距離になった。
いやあ、新しいスアの機動力は凄いなあ。
パイルランサーを叩きつけて、ゴモラーの胸板を貫いて引っ剥がす。
あっ……ここでパイルランサーの一本が壊れましたねー。
かなり頑張ってくれたからね!
ゴモラーがあちこちから火を吹いた。
攻撃じゃなく、内部爆発が起きてるっていう意味ね。
こうなると……中の人が出てくるわけだ。
ゴモラーのお腹の辺りが内側から破裂するように吹き飛んだ。
『やっぱり、MCは身軽じゃないとね……!! 行くわよ!!』
飛び出してきたのは、砂色とグレーのなんか地味な色の……ああ、いつもの中の人!
ちょっとずつこっちもバージョンアップしてるのね。
スアと同じ、あちこちに噴射口のついたバックパックを背負って、カクカクっと空中を変な動きで迫ってくる。
それ私もできるー。
スアもバックパックのエンジン点火だ。
何度も向こうの機体と交差する。
その度に、パイルランサーと向こうのナイフがぶつかり合う。
あんまガンガンやると、パイルランサーが壊れちゃうなあ。
でも、今は飛び道具無いし、この人コクピットを狙っても避けるもんな!
私のコクピット狙いを避けられるのは、前の黒いMCとこの人くらいだ。
いやあ、世の中には強い人がいるものです。
「あ、その武器いただき」
横にゲルマのMCがいたので、手首を蹴って壊して武器を奪った。
その後で、盾にしたら向こうの人がゲルマのMCをナイフで切り裂いた。
『ウグワーッ!!』
『盾を使う!? あの速度で飛び回って、よくやる……! でも、カグンも負けない!』
あっ、カグンと言うらしいです!
「カグン。私、スア」
『スア!? それが虎の名前なのね! 良かった。倒す相手の名前を知ることはとても大切だから。記憶に刻み込んであげるわ!』
「おー、記憶大事。私覚える」
『ふふっ、私を倒したら、あなたも覚えていてくれるってこと? いいじゃないいいじゃない!』
カグンがさらに上空に飛び上がる。
頭上を蓋するみたいに立ち塞がった飛行巡洋艦だけど、カグンがその滑走路に降り立つ。
そこでは燃料補給のために降り立っていたゲルマのMCがいて、その武器をカグンも奪う。
「うわー、そっちも銃を使うの? よっしゃ撃ち合いだー」
私は飛行巡洋艦の艦橋をパコッと蹴って壊し、その中に着地してバリバリカグンを射撃した。
向こうも撃ち返してくる。
うひゃー、足を止めての撃ち合い楽しい!
お互いの狙いが正確なので、機体にガンガンと弾が当たる……んだけど、実はスアは装甲の下がスカスカなので、動力部だけ避ければどれだけ当たっても問題ないんだよね。
『弾が通じない!?』
「装甲の下なにもない」
『ジンだとでも言うつもり? でも、例えあなたがジンだろうが殺してみせるわ!!』
撃ち尽くした銃を捨てて、再び飛び上がるカグン。
とにかく速いんだよなあこの人。
小回りも利く。
まあ私ももっと速いんですが!
いきなりトップスピードに加速する私。
一瞬でカグンを通り過ぎて、『!?』背後にパイルランサーを突き出した。
『~~~~!!』
相手の左腕をふっ飛ばしたらしい。
『まだっ!! その槍は持っていく!!』
「おー、槍こわれた」
ランサーを抜くよりも早く、刺さった腕を捻ってパイルランサーの根本が歪んでしまった。
これ、バックパックを応用してるから何気に繊細な武器なんだよね……。
おお、手ぶらになってしまった。
あ、いや。
一つだけ武器が残っている。
それはスアの基本武装である、キックだ。
カグンは右手にナイフを下げて、私の周囲を旋回し始める。
私もまた、逆回りに旋回することにした。
猛烈な勢いの二つの螺旋があるみたいな感じなので、何度も何度もカグンとぶつかり合うことになる。
ナイフを避けて、いかにキックを叩き込むか……!
うーん、避けるだけなら全然イケるんだけど……。
下手にキックして切り裂かれてもなあ。
ここで私の頭脳に電流が走る!
「これ、相手のナイフを狙って蹴ればいいんじゃ?」
コクピット狙いばっかり考えてきた日々だったけど、初めて相手の武器を狙うというのを思いついだぞ!
何度目かの交差で、そのチャンスが来た。
『避けるのだけは上手い……!! お互い、燃料切れを狙うつもり……!?』
「ここで終わり」
『!?』
私のキックが、カグンのナイフの腹を正確に撃ち抜いた。
ナイフが真横からへし折れ、刃を失う。
そこから速度に乗ったスアの二段目のキックが、カグンの胸板をえぐりながら蹴りぬいた。
『があああああああああ!!』
叫び声が聞こえる。
カグンの軌道が狂った。
ジグザグに、でたらめな飛び方になる。
なんかコクピット近くを壊したな。
まあ、私も無理をしたのでスアの片足がつま先をなくしちゃってるんだけど。
追いかける?
いやいや、まさか。
私は振り返ると、ゲルマの飛行巡洋艦群を確認した。
よーし、全部落としちゃいましょう!
飛行巡洋艦をミサイルにして、首長国の陸上戦艦に片っ端から落としてやろう!
私はこの思いつきを全部実行してやったのだった。
戦場、とってもきれいになりましたよ!
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