第39話 ヤンヤン、支部に帰還する!

 グワンガンの通信機が回復というか、新たに設置されたので支部との連絡が無事に回復した。

 二ヶ月ぶりくらいに連絡したので、向こうはめちゃくちゃびっくりしてたらしい。

 飛行駆逐艦以降は目撃情報すらなかったらしい……。


 それは、私たちが世界の屋根伝いに移動してたから空からも発見しにくかったためだもんね。

 そして南部大陸同盟のガザニーア共和国と接触し、賞金をもらった……!


 ということで、賞金の件は知らんぷりをして帰還するグワンガン。

 何しろ、旧式だし色々な機能が壊れてるから、こういう記録を物理的に取ることができないのだ!

 グワンガンの足取りは完全に不明。


 突然ガンガルムと合流し、生存が確認されたことになる……らしい?


「我々は軍規違反なんだが、だが売国という特大の違反をやらかしたワダルクミンがいたからな。そいつと連なるスパイを炙り出したのは、結果的に我々のお陰ということになる。内部監査室のツィン大尉……いや、少佐からそう連絡をもらっているぞ」


 食堂にクルーを集めて、艦長が説明をしている。

 ほえー、あのイケメン女子、出世したんだなあ!


 ちなみにこの間の空中駆逐艦の中佐、この人は普通に行方不明になってるらしい。

 華国方面までブーンと飛んでいって、そのまま消息を断ったとか。

 何をやっているのだ……。


 なので、グワンガンの詳しい状況を知る人はいない。

 支部に到着して、ちょっと物々しい感じで出迎えられた。


 英雄なのか?

 反逆者候補なのか?


 判断がつかない感じ。

 まあ、艦長や副長はちょっと窮屈な思いをするかも知れないけど……。


「俺も昇格するかなあ」


 いや、艦長かなり楽天的な感じだぞ。

 なお、私たち現場のクルーは基本的に自由。


 一応全員に一通りの聞き取り調査みたいなのがあるみたいだけど。

 機関部の人たちも船を降りられるということで、みんなせいせいした顔をしている。


「いやな、日がな一日機関室にいるとなあ……もうなんで俺は生きてるんだろうなあ……とか考えちまうわけよ」


 機関長がなんか言ってる。

 だが、それはそれとして仕事は好きなので、グワンガンのエンジンを強化してもらえないかお願いしたりするつもりではあるらしい。


 そして私は……。


「やあ、久しぶりだね子猫ちゃん」


「ヒェー! ツィン少佐! ご、ご出世おめでとうございます……」


「ははは、子猫ちゃんのお陰だよ。ありがとうヤンヤン伍長。そして残念なお知らせだ」


「な、なんでしょう」


「君たちグワンガン隊は軍規違反で全員が一段階の降格となる。そして嬉しいお知らせだ」


「な、なんでしょう」


「君たちグワンガン隊は華国本部奪還の功績で、一段階の昇格となる。つまりプラスマイナスゼロというわけさ」


「な、なんと……!」


 私は伍長のままらしい……!

 それに聞いた話だと、ポプクン艦長をグワンガンから下ろしても、今更あの旧式陸上戦艦を指揮できるような艦長が存在しないらしい。

 スタッフもグワンガンに特化してるので、だったら押し付けてやれ、という話にまとまったようだ。


「実は民間では、グワンガンは英雄視されていてね」


「そ、そうなんですか!?」


 立ち話もなんだということで、施設の中にあるカフェに誘っていただいたのだ。

 うおお、おしゃれな飲み物!

 トロピカルな色のジュースにフルーツが刺さってる!


「お、おいしぃー」


「トロピカルジュースでそんなに喜んで貰えるとは……」


 ツィン少佐の目が優しい。


「君たちが公式な記録に描かれていないとしても、誰かの目がそれを見ているものだ。ガリア軍壊滅、コサック軍先遣隊を壊滅、そして単機でのコサック軍華国要塞の攻略。さらにバトーキン自治区では謎の虎縞MCが暴虐を働いた華国MCを駆逐して回った報告が……」


「なななななななななんのことでしょうねえ」


 私はダラダラ汗をかいた。

 そ、そんな情報まで来てるのー!


「民衆にとって、君たちは正しく英雄となっている。連合に所属する国々が、皆君たちの活躍を喜んでいるのだ。罰することなどできまい」


 そんなことに……。


「中立都市を守っての戦闘、及び南部大陸同盟の新型MCとの二度に渡る交戦記録もこちらに届いている。今、君の機体の記録をコピーさせてもらっているところだ。どうしてあれで勝てているのか、戦術教導隊の面々も頭を捻っていたな」


「ははは、たまたまです、たまたま」


 私は上手く誤魔化した。

 言葉にできないからね!

 説明できないものはできません!


 こうして、私はツィン少佐に個人的な尋問というか質問をたくさん受けて、答えられる範囲で必至に答えたのだった。

 生きた心地がしなかったよ……!


 私たちグワンガン隊は、ここでしばらく休息を取ることになった。

 色々イカれて来ていたグワンガンも、メンテナンスをする。


 陸上戦艦もユニバーサルデザインなんだそうで、装甲を外した後はあちこちをパカパカ入れ替えればいいらしい。

 グワンガンは一番頑丈なパーツを使われてるみたいで……。

 倉庫の奥に眠っていた古くて重いのを、大型MWたちがひいひい言いながらくっつけていた。


 おおー、見慣れたグワンガンがちょっと綺麗になった気がする……。

 なお、スアは全体的に分解メンテナンスされただけで、後はそのままだった。

 これは、なんでこの機体が大活躍できているのか、誰にも解析できないからだって。


 ちょっとでも手を加えてバランスが変わるのが怖いらしい。


「賢明だ。俺らだってなんでなのかさっぱり分かんねえんだからな」


 整備長がそんな事を言ってたそうだ。

 それで、こんな感じのゆったりした日々が続くかなーと思ってたら……。


「子猫ちゃん、これは今日中に連合全体へ通達する内容だけど……。コサック軍が威信を賭けて、恐らくは軍の90%の戦力を率いて華国本部を取り戻しに来る……そういう情報が入った。本部に入っていた華国の連中はもう、反抗する気もなく逃げ出し始めているよ」


「ひえー」


 なんか凄い話になってきたのだった!


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