第31話:黒い思い

「さて、我らは依頼をこなしに出立する。征けジョニーよ!」

「ギョヒー!!」

「「「な、なんだ? 馬???」」」


 驚く冒険者たちをかき分け、ジョニーは歩き出す。

 そんな光景に「さもあろう」と哀れみを感じつつ、馬車は北門へと向かう。

 目指すは全天候型ダンジョンと呼ばれる、森が迷路になった場所。

 その名も〝人喰いの樹海〟へと向かうのだった。



 ――その頃、ゴールドランクの冒険者たる〝太陽への翼〟の元へと、子飼いの男が茶色い馬で走る。

 場所は偶然にも信長たちが向かう、人喰いの樹海の入り口だった。


「この情報さえありゃあサンダーさんも喜ぶはずだ」


 先程の失態を挽回すべく、男は馬を走らせる。

 すると人喰いの樹海の入り口に、目的の男たちがたむろしていた。そう――サンダー達三人であった。


「あん? 誰かくるぜサンダー?」

「あれって役立たずクンじゃない?」

「どれ……あぁ本当だな。チ、何しにきやがったんだ」


 どうやら彼らは機嫌が悪いらしい。そのワケは、男が馬から降りた事で判明する。


「間に合っ――ぶべぇぇぇえッ!?」

「間に合ってねぇよクズ! テメェから聞いた話しじゃ、熊ヤロウはこの森に逃げ込んだらしいじゃねぇか? それが全く見つからねぇ」


 サンダーは男が馬から降りたと同時に、ケリを顔面へと食らわせて吹き飛ばす。

 哀れな男は、震える体を起こしながら「ま、待ってくださ――ぶべッ?!」まで言うと、今度はドッヂに張り倒されてしまう。


「ボクはこんな所まで来て疲れたぞ? お前にはその腹いせをうけてもらう」

「ちょ、ちょっとお待ち下さいドッヂさ――ぶべっふぉ?!」


 涙と鼻水で汚い男の顔へと、氷の塊が直撃して鼻を大きく凹ませながら男は吹き飛ぶ。

 その原因たる氷の塊を作り、それを投げたリザが呆れたように話す。


「ハァ。その汚い顔をせめて氷で引き締めなさい。ホント汚物なんだから。それで何しに来たのよ?」

「そ、それなんですが、ミリーの奴がまずい事をしでかしやがったんです!」

「まずい事だと? 詳しく話してみろ」

「は、はいサンダーさん。実は――」


 男は見たことをありのまま話す。

 すると驚きの内容であり、その内容は看過できないものであった。


「――するとさっき俺らがギルドで会った奴が、最上級の薬草を集めたってのか?」

「ええそうです。ミリーが集められる訳が無いのは、皆さんが一番知っていると思いますが、やつが主体となって依頼を登録した以上、ミリーに名声が集まります」


「チッ、せっかく奴ら亜人の評判を落としてきたってのに、それをあの能無しが一気にひっくり返そうってのか?」

「それだけじゃないわよ。もし今後安定的にそんなモノが持ち込まれたら、無能の象徴としてミリーを追い出したアタシらの名にキズがつくわよ?」

「なにい? ボクはそんな事を許さないぞ! こうなったら街中だろうが引き裂いてやるッ!!」


 怒り心頭な三人に、男は震える声で話す。


「お、落ち着きください。実はもう一ついいニュースがあります」

「あん? 言ってみろ」


 サンダーがアゴでしゃくり上げて先を促すと、男はニヤリとしながら話す。


「ミリーらが向かった依頼先が実はココ、人喰いの樹海なんですよ。つまりここで待ち伏せしていれば、奴らはもう……」

「ほほう。それはナイス情報じゃねぇか。なぁお前たち?」

「うんうん。街中で引き裂かなくていいのはボクは嬉しいぞ」

「それにもう一つ。ミリーが死ぬのは確定だとしても、死ぬ間際に最上級薬草の生産地を聞き出せば、アタシたちも儲かるわよ」


 リザの言葉にサンダーは「違いない」と盛大に口角を上げて犬歯をむき出す。

 どうやら彼らの次の目標は決まったらしく、頭からすっかりと熊の獣人の事は抜け落ちた。

 なぜなら、自分の弟とはいえそれ以上に〝やらなくてはいけない事〟が存在したのだから。


「よし、じゃあ早速ミリーを歓迎してやろうじゃねぇか」

「ええそうね。今度こそ亜人の無能さを知らしめないと」

「どうでもいいけど、ボクはミリーを早く引き裂きたいぞ」


 三人の思惑は大本は同じだった。それは亜人を社会から完全に抹殺すること。

 それが彼らを動かす原動力だったのだから……。

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