第30話:小物界隈の大物

「どうされましたか大殿?」

「うむ……段とやらが上がったらしい。そのほうらには聞こえなんだろうが、どうやらネクロマンサーとして何か格があがったという事なのだろうな」

「キキ、さもありましょうなぁ。なにせ、あのように死人を大量に黄泉還がえらせたのですから、驚きですわ」


 ミリーも何度も頷きそれに同意する。


「それにしても信長の頭の声ってなんなのでアリマスかね?」

「さて……それは余が一番知りたい事よ」

「まぁいいではありませぬか。それにより俺様もまた生き返る事が出来たんやから」


 そう言うと、藤吉郎サルはジョニーの頭のうえに座ると寝転がる。前世よりなんとも自由になったものよ。

 そう思いながらも、ミリーと一緒に乗り込み街へと戻る道中、サルの話しの続きをする。


「それなんだが、なぜ藤吉郎そちはそこまで自我があり、まるで昔のままなのだ?」

「キキキ……そうやねぇ。俺様は先程の薬学王たちとは違い、死ぬ前の感情や記憶が普通にありますやん? きっと特別なんでっせ!」


「ミリーもそう思うでアリマス。お猿さんの素体になった、モッファーエイプは精霊の中でも上位と言われている特別な存在。それがあんな場所に現れ、攻撃して敗れ去ったのにも意味がある気がしてならないのです」

「意味……か。確かに余は藤吉郎サルと会いたいと強く願った。その結果だとしたら、願いの力により、ネクロマンスの内容も変わるのかもしれぬな」


 それを聞いた藤吉郎サルは「大殿様ぁ」と涙目で喜ぶ。まったく、都合のいい時だけをつけるクセは死んでも治らんとみえるわ。

 憶測は続き、気がつけばレグザムの街が見えてきた。


「まぁその事は後回しだ。もう街が近いからな」

「はいです。じゃあこのまま冒険者ギルドへと向かうでアリマスよ」

「うきき。これで奴らも思い通りですやん」


 藤吉郎サルの言葉に軽く頷き、「あぁ狼煙は上げられた」と口角を上げる。

 ほどなくしてギルドに着くと案の定、蜂の巣をつついた騒ぎになった。



 場所は冒険者ギルドの入り口付近。

 受付嬢が驚きの叫びをあげる――



「――っ!? こ、これ全部上級薬草ですか!!」

「しかも高品質なんてもんじゃない、最上級だぞ!!」


 そう声を張り上げたのは、ミリーの友人であるセルフィと査定師の男だ。

 

「うむ。かなり良いものだろう? なにせ名のある男が育てたものを、貰ってきたのだからな」

「な゛!? 嘘だろ、上級薬草は栽培は出来ないはず……いやだが、この根の張り方は確かに栽培もの……信じられない」

「の、信長さん。もしそれが本当なら、薬学界隈で革命を起こすものですよ! それで安定的に手に入れる事は可能なのでしょうか?」


 食い気味に押しかけるセルフィに、ミリーが「落ち着くでアリマスよ!」と彼女を押す。

 すると「すみません、興奮しました」と、恥ずかしそうにセルフィが引き下がる。


「多分大丈夫だとは思うが、近いうちに確認をしてこよう。それで依頼は完了したとみてよいか?」


 そう言うと、セルフィと査定師の男は満面の笑みをうかべ、「もちろんです!!」と声を揃えた。


「そもそもただの薬草集めの依頼でしたが、まさかその上。しかも最上級の品質の薬草を集めてくれるなんて、本当に凄いです!」

「ん? 上級じゃないのか?」

「ええ、うちの鑑定師さんが言うのだから間違いないです。これは最上級の薬草だと認定します!」

「そうだぞ? よくやってくれた信長。そして引率として頑張ったなミリー」


 恥ずかしそうにミリーは鑑定師の男に、「信長の功績でアリマスが、自分の事みたいに嬉しいのです」と頬を染めて微笑む。


 そう言うと、セルフィは薬草の依頼書に〝最上級品〟と付け加えた。

 それを見ていた野次馬は「「「おおおお!!」」」と叫び、素直にたたえる者と、インチキだとヤジを飛ばす者とで分かれる。


 見ると明らかに敵意を持っている視線が、ミリーへと突き刺ささる。

 刺す視線の男をよく見ると、先程〝太陽への翼〟が二階より降りてきた後に来た、打撲痕があるキズだらけの男だった。


「ふっ……」

「? どうされましたか信長さん?」

「いやなんでもない。それよりこれからもう一つの依頼を受けたい。ミリー例のものを」

「はいです! じゃあコレよろしくねセルフィ?」


 その依頼書を見て、先程のミリーみたいに驚くセルフィ。

 当然、無理! 無謀! 無茶です!! と止められるが、ここでも薬草効果が期待できよう。


「ふむ。では問うが、この品質の薬草をゴールドランクの〝太陽への翼〟は集められるのか?」

「そ、それは……」

「であろう? なれば余とミリーの力は奴らを凌ぐというものぞ。だから安心して依頼を出すがよい」

「うぅ~ん……じゃあ無理だと思ったら、すぐに逃げ帰る。これが絶対条件です!」

「承知した。全てミリーと余に任せるがよい」


 しぶしぶ依頼書にサインを書くセルフィ。それを見ながら、尻目にいるキズだらけの男を意識しながら思う。

 さて、狙い通りに動くか? そんな事を考えていると、藤吉郎サルが耳元で「動き出しましたぞ」と教えてくれる。


 どうやら思惑通り、どこかへと小走りに去っていく。

 小物だらけの池にいる大物がかかるかどうか。さて、楽しみになってきたと言うものよな。

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