第7話:鉄と頭はアツイうちに討て

「信長、大丈夫でアリマスか?!」

「見ての通りよ。ふむ……状況はかんばしくないな。ゆくぞミリー」

「はいです! でもどうするですか? まだ逃げ惑っている村人が居るということは、多分……」

「うむ、どうやらまだ村に賊が残っているようだな。問題はあやつらの気性よ」


 ミリーは「気性でアリマスか?」と言いながら、ジョニーを村へと向かわせる。

 荷台へと飛び乗り、立ったまま腕を組みながら説明をした。


「賊には二種類の気性があってな。自分らが有利だと思っていると油断するものよ。しかもマヌケなほどにな」

「なるほど。ではもう一種類は?」

「もう一つは――」


 村の中心部が見え始めた頃、賊共がこちらに気が付き、あたふたとしながら大声でかしららしきヤツが指示を飛ばす。

 それを抜いた鬼切丸で指し示しながら「――ああなるのよ」と答える。

 見れば賊の総数は二十三人。いささか面倒な数であると思いながら状況を観察。

 すると村人が中央へと集められ、武器で脅されていた。


「人質でアリマスか!?」

「そうじゃ。ここからは脅すか逃げるのどちらかにうつるが、まぁ脅しにくるだろうな」

「しかも、あの人数をどうしたら……」


「確かに不利よな。まぁあの程度どうと言う事はないが、村人に万が一があってもつまらん」

「じゃあどうするでアリマス?」

「まぁ見ておれ。ああいう烏合の衆には、共通の攻略法があるのよ」


 フンと鼻息を吐きつつ賊が集まる場所へ到着すると、予想通りの小物が吠える。


「オイ、テメェら! 随分な事をしてくれたじゃねぇか!? この落とし前どうつけてくれんだ? アアン?!」


 ヤレヤレとため息を一つ。鬼斬丸を右肩に担ぎつつ顔を斜めにして返答をくれてやる。


「たかが賊如きが……この織田信長に対し落とし前だと? 誰にモノを言っているのじゃ? オオン?!」


 眼力をコレでもかと込めつつ太った賊の頭らしき男へと凄むと、顔を真っ青にして「ひぅッ!?」と後ずさる。

 同時にミリーも「ひぅッ!?」とビクついた後、「盗賊より盗賊らしいでアリマスな」と顔を引くつかせた。誰が盗賊じゃ、解せん。


「クッ、テメェら! こいつらがどうなっても良いのか!? 大人しくしねぇと、皆殺しにするぞ!!」


 馬車から大虎のマントをなびかせながら飛び降り、肩に担いだ鬼切丸を奴らに向けて言い放つ。


「勝手に殺りゃいいだろう」

「なッ!? テ、テメェ舐めやがって!! 村人全員殺っちま――」


 所詮は賊。そう来るわな。だから言い終わる前に駆け出しつつ言葉を遮る。


「――が、殺れるものならな?」


 頭は「え?」と、最後のセリフが疑問符ぎみになったと同時に首が飛ぶ。

 と同時に、ヤツが掴んでいた人質になっていた娘を引き寄せつつ、首のない体を蹴り弾く。

 娘は「きゃ!?」と驚くが、自分が助かったことに気がついたのか安堵の表情を浮かべつつ、「あ、ありがとうございます」と礼をいう。うむ、素直でいい娘だ。


 さて、ここからがキモじゃ。ここをしくじると面倒なことになる。

 まずは転がる頭だった遺体を指差し、ざわめく寸前の空気を大声で一喝。


「聞けい賊ども! キサマらの頭は死んだ! 大人しく捕まるならよし。抵抗するなら……」


 そう言いつつ、鬼斬丸を勢いよく真横に一閃。

 何もない空間だが、空気を斬り裂く音が暴発寸前の賊共の耳に浸透し、その動きを止めたと同時に続きを話す。

 ここだ。ここで一気に余が日ノ本でよく使っていた、圧力を練り込みながら言い放つ。


「こうなる覚悟のある者だけ余に挑むがよい!!」


 案の定、賊共は震えながら武器を落としつつ「こ、降参しやす」と膝から崩れ落ちた。


「うそ……この人数なのになぜ? 信長は凄いです!! 一体どうやってあの人数を黙らせたです?」

「なに簡単な事よ。頭を潰し、あとは圧で押しつぶすだけだ」


 ミリーは「口で言うほど簡単な事じゃないでアリマスよぅ」と驚くが、今ならその理由が分かる。


 と言うのも余は日ノ本に居た頃から、知らず知らず言葉に魔力を練り込んでいたらしい。

 そのせいだったのだろう。よく家臣が青ざめたり、下手したら恐怖で泡を吹き気絶したものまで居たしまつ。


 異世界に来た今ならその原因が魔力だと分かるが、これを叩き込まれたら並の人間なら怯むのは経験から分かっていた。 

 だから思い切り魔力を載せた脅しを放つ事で、統率者を失った隙を利用し、烏合の衆だった賊を一気に制圧できたのだ。


「その潔さやよし。村人よ、賊共をふん縛れいッ!!」


 賊の集団へ鬼切丸を向け、村人たちへと指示を飛ばす。

 すると「え……」と一瞬困惑するも、「は、はい!!」と若い男が中心となって、縄で賊共を縛る。

 未だに青ざめた賊共は、抵抗もなくあっさりと拘束された。


 見事な連携に「うむ、見事なり村人よ」と頷いていると、「あ、ありがとうございます! なんとお礼を言ったらよいか……」と背後から声がする。

 振り向くと白ヒゲの老人が、頭を下げつつ涙を流し感謝をしていた。


「なに気にするな。それよりも火を消さねばな」

「あ!? そうでした! 皆のもの賊を縛った後、すぐに消化じゃ!!」

「ですが村長、あの勢いではもう……」


 村長はじめ、途方にくれる村人たち。見れば確かに火の勢いは止まらぬだろうし、時間が経てば隣にも火が移るだろう。

 そんな様子を尻目に捉えつつ、ドルイドの魔法でなんとかならぬかとミリーへと話す。

 

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