第6話:ココロのキズ
――信長たちが大虎の森を出て一日後の昼。
冒険者の街レグザムに近い村にて、二人は休息をとろうと立ち寄る。
日ノ本の村と随分と違うものだと、信長は異世界へと来たのだと心から思う。
それというのも、大きな風車三基が風に吹かれて回り、家々は丸太で作られた物が並ぶ。
遠くには大きな山が壁となりそびえ立ち、西洋風の光景を見せた。
「おおお! ミリーよ、人里が本当にあったな!!」
「うん、うん! あの山脈の方向に
「そちの勘が当たって良かったのぅ! はっはっは!!」
喜び合う余とミリー。そんな二人にジョニーは、「
「あぁ~? ジョニーが呆れているでアリマスよ」
「良いではないか。大空を枕に野垂れ死に。これぞ旅の醍醐味というものよ」
「ミリーは野垂れ死にたくないのです……って、あれは火事!? た、大変でアリマスよ!」
「ふむ、原因は
村の中心から煙が立ち昇っていたが、近づくにつれて火事だと分かる。
しかもそれが二つ、三つと増えていき、村人が逃げ惑っていた。
その原因は不始末からではなく、人為的なものだとすぐに理解した。
「あれは……ッ、盗賊でアリマスか!?」
「やはり賊か。ほぅ、異世界にもああいう輩がおるのか」
「ど、どうするでありますか? 武器は信長の太刀しかないであります。ミリーはその……役立たずですし……」
「役立たずかどうかは余が決めると昨夜言ったであろう? ジョニーよ、全速力で村へと向かえい!」
余の言葉と同時に、前足を上げながらジョニーは「ギャヒー!」と返事をしつつ走り出す。
あいも変わらずの不気味な声にこめかみに汗が浮かぶが、ミリーを見るとそんな気も失せる。
昨日の夜、食料にと持ってきた大虎の肉を、ミリーがドルイドの魔法で作った焚き火台で調理して食べた。
その野性味あふれる味。そう、これこそフランス人が言っていたジビエと言うものだろうと、歯ごたえがある食感と、肉汁あふれる食事に満足した時だった。
ミリーは「焚き火くらいならなんとか」と苦笑いをしていたが、余からすれば無から焚き火を作り出す能力に舌を巻く。
魔法とはかくも便利なものなのかと思ったが、いかんせん当の本人が「こんな事くらいしか」と下を向く。
人生とは心の鏡だ。その鏡が曇って自分の真の姿が見えないほど、この娘が過ごした
今も下を向いたまま、ジョニーの手綱をギュっと握りしめ固まるミリーの頭へ、手を優しくのせる。
「大丈夫だ。余がついているからな」
「信長……」
「余も口うるさい
「よく分からないですが、そのお二人は苦労されたのでアリマスな」
ミリーはそう言うと少しだけ顔を上げるが、また下げてしまう。
困った奴だが今はその話は後だ。
「だから前を見よ。人生よそ見をしていると――」
前方よりミリーめがけて矢が飛んで来たのを、頭に載せた手でぐいっと下げてかわす。
すぐそこを飛び抜ける矢の独特の風切り音は、いつ聞いても心地よい。
「――風穴が空いてしまうからな」
「ひゃ!? は、はいでアリマス!」
「さて、おいでなすったようだな」
村から五人が馬に乗って駆けてくる。
装備は統一性がなく、手には剣と手斧を持ち、防具は皮の鎧に獣の皮をその上に着込む。
「うむ、あっぱれ! 見よミリー、あれこそが盗賊然とした姿よな!!」
「へんな事に感心している場合じゃないでアリマスよ! って、来たッ!?」
なんとも見事な盗賊共だろうか。
そのなかでも、これまた見事な盗賊が好む眼帯をした男が、両刃の斧を担ぎやって来た。
「時にその方ら――」
村の被害状況を聞こうと思ったが、そこへ被せて眼帯の男が被せる。
「――殺れ」
「へい! 死ねやあああああ!!」
「どうやら人語を介さぬ馬鹿共であったか。なら遠慮はいらぬな」
「ひぅ!? の、信長どうするでアリマスか?」
ミリーの言葉を背に受け「是非も無し」と言いながら、襲いくる先頭の騎馬へと飛び移る。
自分でも驚くが、あまりの身軽さに万能感すら感じつつ盗賊の一人の首をハネ飛ばし、そのまま隣の馬へと移る。
「な、なんだ!? いきなりヌジの首が??」
いきなり仲間の首が飛んだ事で、パニックになる盗賊共。
だがすでに盗賊が乗る馬の尻に着地しており、「驚く暇は無いぞ?」と言い残し次の馬へと移る。
背後から「は、ぇ?」とマヌケな声が聞こえたと同時に、元の足場していた馬の主は地面へと落馬。
さらに一気に斬り伏せて、ものの十二秒ほどで四騎を駆逐した。
ちなみに秒とは、ミリーに教えてもらった便利な時の感覚だ。
うむ、日の出と日没を基準とする不定時法とは比べ物にならぬほど便利じゃわ。
そう思いながら、最後に残った隊長格の眼帯の前に立つ。
「な、なんだテメエ!? 一体何をしやがった!!」
「次に生まれてくる時は人語を話すが良い」
「なッ?! テ、テメェェェェェ……え?」
両刃の斧で胴を薙ぎ払いに来る眼帯の賊。
それを半歩、背後へと動いてずらして避けたと同時に腰を落として斬り込む。
たかが半歩。その程度でも十分な力を溜めた脚力は稼げるものだ。
一気に眼帯の賊の首を斜め下より斬り上げて、音もなく落とす。
くるり、くるりと回転しながら落ちるソレは、何が起きたのか理解できずに「景色が回る?」と言い残して沈黙した。
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