第8話:信長様。昨日の夜は激しかった……です

「昨日の夜、ミリーの財布を斬った時に財布は復活したが、金は斬られたままだったろう?」

「うぅ。実験のためとはいえ、ひどい目にあったのです」

「うむ。となると家の中身までの復活は無理か」


 余のネクロマンサーの魔法で建物自体復活はできようが、今の余では家具など中身は無理だというのは分かる。

 それと言うもの馬車を復活させた時、麻袋は斬れたままだったからだ。

 個別に復活はできようが、一気に復活させるのは魔力がもたぬ。


 その経験を元に、昨日の夜にミリーの財布を斬って検証したのだが、個体に付属するモノ意外は復活出来ない。

 だから金は財布の中身として収まっているが、所有権がすぐに変わるからか、復活出来なかった。


 例えば家と認められる物。柱・扉・畳などは復活するのだろうが、家具は復活しないと思う。

 逆に剣で斬られた遺体があったして、故人は復活するのは当然だが、その者が来ていた衣類も故人の一部として復活するはずだ。

 なにせジョニーの切れた手綱は復活したからな。


 そんな事を思いだしながら村を見れば、賊の馬鹿共に数棟家が燃やされている。

 その全てを余一人で復活させるのは無理。だからここはミリーに期待するとしようか。


「ミリーよ。昨日聞いた話ではドルイドの魔法の中に、木々を再生するものがあったな?」

「え? あるにはありますが、ミリーの力では燃えた木は復活できないでアリマスよ?」

「そこは任せよ、そちは家の外壁に使われている丸太の活性を高めるだけでよい」


 余たちの会話を聞いていた村長と呼ばれた老人が、「それはどういう?」と不思議そうにしていたが、今は説明の時間が惜しい。

 いくら丸太の家とはいえ、そのうち中まで燃えだすだろうからな。


「ではいくぞミリー。余がネクロマンスを施すから、同時にそちの魔法をかけよ」

「よく分からないけど、信長がそう言うなら分かったでアリマス」


 ミリーはそう言うと、何やら不思議な呪文を紡ぎ出す。

 それと同時にネクロマンスの呪文をかける準備にはいる。


「木々の精霊さんミリーの願いを聞いておくれ。あの日の若芽の息吹をもう一度その身に起こせ――リ・ジェシス!!」

「よいぞミリー! 燃え盛る家どもよ余が命ずる……在りし日の姿を取り戻せ!!」


 瞬間それは起こる。

 まずミリーの魔法で活性化された乾いた丸太が生きている樹木へと変わり、耐火性が出るほどにみずみずしくなる。


 が、燃え盛る炎の威力には勝てずに徐々に燃えだす。

 そこに燃え死んだ木にネクロマンスをかけることで、予想通りに余の魔力を大幅に節約した状態で復活できた。

 しかも火も消え失せ、完全復活となったのは狙い通りだな。


「こ、これは……一体何をしたです? 信長の魔法は、完全に破壊された物だけ復活出来ると思ったでアリマスが?」

「うむ。それなんだがな、ミリーが丸太を活性化したであろう? それ自体がある意味木材の復活となったわけだ。そこにネクロマンスで死した部分を復活させたのよ」

「なるほど、でもなぜ火まで消えたでアリマス?」

「それは向こうの家を復活させながら話すとしよう」


 向かいながらミリーの疑問に答える。

 からくりは簡単。余の魔法はモノの完全破壊、もしくは死した者にしか効果がない。

 つまり丸太全体が燃え落ちないと復活は無理だった。


 が、ミリーの魔法により活性化した丸太は水分を多く含んだ状態に戻り、外の皮だけが燃え出す。

 その部分のみ、焼けて死んだ状態と生木の生きている状態に別れ、ネクロマンスの判定上は別物あつかい・・・・・になったのだろう。


 つまり、燃えた部分のみが死した状態となり、少ない魔力でネクロマンス出来たというわけだ。

 と同時に活性化が復活した部分にまで浸透し、生木が火を受け付けないまでにネクロマンスで再生してやればいい。

 あとは生木の効果で火の勢いが弱まった事で、勝手に鎮火するのを待つだけ――


「――というわけじゃな。まぁ多少コゲがあるだろうが、そこは愛嬌よ」

「な、なるほど? よく分からないけど、分かったでアリマス」

「鳥頭は健在よな。まぁよい、この家もさっさと片付けるぞ」

「はいでアリマス!!」


 ミリーの協力のもと、残りの家々も中まで燃える前に食い止めることに成功した。


「ミリーよ、よくやってくれた。丸太の壁だった事が今回の策に功を奏したが、なによりの功労はミリー。そちの魔法による所が大きい。褒めてとらす」

「え!? そ、そんなミリーは大した事をしていないでアリマス……この程度の事しか出来ませんし……」


 そう言うとミリーはまたしても下を向いてしまう。

 そんなミリーの頭に手を載せつつ静かに話す。


「この信長が認めるのだ。日ノ本なら勲一等ものぞ?」

「ほぇ!? そ、そんな大層なものじゃないでアリマスのに」


 暗く沈んだ顔が少しだけ表情が戻る。

 やれやれ、ここまで自分に自信が持てない……いや、持たせないようにした者共がいる。


「そんな輩には思い知らせねばなるまいな」

「え? それは一体誰の事です?」


 ミリーの質問にニカリと口角をあげると、後ろから村人たちが走ってくる。

 その表情はどれも明るく、ミリーに「そちが勝ち取った笑顔だ。受け取れ」と背中を押す。

 困惑するミリーは村人に囲まれ礼を言われる。


 どうやら礼を言われるのに慣れていないらしく、しどろもどろに対応する姿が微笑ましい。

 そんな姿を眺めつつ、余の異世界初の家臣である娘を、ここまで卑屈にした存在に会うのが楽しみになってきた。


「……待っていよ馬鹿共。今この織田信長が参上してやろう」


 もうすぐ日が暮れる茜色の空を眺めつつ、ミリーの元仲間への思いが加速するのだった。

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