第9話:酒宴とダークエルフという種族
「ミリー様にと信長様へ感謝を込めて、乾杯!!」
「「「かんぱーーい!!」」」
「はぅぅ信長なんとかするでアリマスよぅぅ」
村長はじめ、村人が感謝の気持ちを込めて酒宴を開いてくれた。
もちろん主役は余ではなくミリーという事にする。
なにせ此度の余の活躍は、ミリーの補佐とも言えるからな。
そしてなんと言っても、この信長の臣下として自信を取り戻してもらわねばならぬ。
だからミリーが全てにおいて指示を出したと村長へ言ってやったらこうなった。実に愉快な眺めよな!
「はっはっは! そちが頑張った結果よ。素直に喜ぶがよい」
「そ、そんなぁ……はわわ。ご、ごちになりますぅ」
かわるがわるミリーへと酌やごちそうを持ってくる村人。
今までこんな経験がなかったのだろう。嬉しさと困惑が共同する面白い変顔になっておる。
これを見ると思い出すのが雑兵だった部下だ。雑兵が大将首を落として、大手柄を取った時と、今のミリーは似ておるな。
「ああいう時の新人は見ていて爽快なものじゃが……不快な話もあるな」
焚き火を囲み呑み騒ぐ村人たちに混じり、一部の村人共が妙な噂をしている。
聞き耳を立てれば、それはミリーに関する事のようだ。
「だが
「シッ、声が大きい。だがお前の言う事は分かる。あの厄災の一族だからな」
「あぁ。二十年前の話とはいえ、やはり信用にかける種族だからな」
二十年前の厄災の種族? なんじゃそりゃあ? ふむ、これは詳しく聞く必要があるな。そうと決まれば行動あるのみよ。
噂話をしている奴らの背後へと回り、その中心人物の背後から肩を組みながら「詳しく聞こうか」と、魔力を多少込めながら話す。
「ひぅ!? の、信長さん! あの……これはその……」
「気にするな。で? ミリーの種族がなんだと?」
村人はガタガタと震えながら素直に話してくれる。実によき青年だ。
話を聞くと、どうやらミリーの種族はダークエルフと言うらしい。
その特徴は耳ながは同じだが、肌と髪の色がエルフと違うと言うが。
「エルフ? それとダークエルフの違いはなんぞ?」
「エルフを知らない? 信長さんは変わっているな。ひッ!? な、なんでもないです。エルフとダークエルフの違いは――」
どうやらエルフは森の守護者とも呼ばれる、金髪で肌が白い者を言うらしい。
同じエルフだが、ダークエルフは地中や洞窟に住み、エルフは世界樹と言う大木を拠点に、あちこちの森に生息しているという。
最近は街で生活しているエルフも居るようだが、ダークエルフはほぼ居ないとの事。
その原因が、さきほどこの者どもが言っていた事が原因のようだ。
「で、それが厄災とやらが関係していると?」
「はい。二十年前に起きた、魔王との戦争が原因です」
「魔王? そのような物がおるのか?」
「いる……というか、居ました。現在は東の最果てにある、黄金郷の勇者様が魔王を討伐しましたが、ダークエルフはその魔王の手下でした。エルフは人間と共に戦ったのですが――」
なるほど読めてきた。この男の話を聞くと、ミリーの種族であるダークエルフは、人間側を裏切って魔王とやらに付いたらしい。
結果戦争は魔王軍の敗北で終わり、その関係者は討伐されるか、流刑地送りになったらしい。
ダークエルフは魔王に無理やり従わせられていたらしいが、それでも人の記憶からは
「ふむ、そういう事であったか。説明大義であった、下がって良いぞ」
「は、はい! 失礼します!」
陰口をたたいていた村人どもは、そそくさと家の影に消えていく。
フンと鼻息一つ。盃をあおり酒を呑み干しながら、ミリーを見つつ独り言がはかどる。
「どうやら我が家臣の闇は深そうじゃのう……が、深ければ深いほど、晴らしてみたくなるのが余というものか? げに楽しき事よな。はっはっはっはっは!!」
自分の好ましき気性に、思わず大笑いする。
それが宴会を楽しむ者にも伝播したのか、なぜか大笑い大会になったようだ。おもしろき奴らよ。
――次の日の朝、色々な物資をもらってジョニーの荷台は満杯になる。
それらを積み終わったと同時に後ろを振り向くと、村人全員が余たちを囲む。
その中にはミリーに陰口を叩いていたあいつらまでいたが、そやつらが足早に駆け寄ってきてミリ-へと話す。
「ミリーさん、昨日は本当にありがとうございました。それなのに俺は……その……」
村人の表情と、言い出しにくさを感じたのだろう。
ミリーは苦笑いを浮かべつつ、その男の手を取り静かに話す。
「ありがとうなのです。ミリーみたいなのに、そう言ってもらえるだけで心が軽くなったでアリマスよ」
「ミ、ミリーさん……」
次々と頭を下げる陰口を叩いていた者共。
それを見たミリーは両手を広げて、わたわたと対応する。
無論、その内容は先の男と同じであったのは言うまでもない。
「はっはっは。好かれたものよなミリー」
「そ、そんな事……ある、かも?」
少し前向きな発言で余も報われたと思える。不思議なものよな。異世界に来てからと言うもの、全てが明るく前向きに感じられた。
「ではお二人様、また機会があればお立ち寄りくださいませ」
「うむ。また会おうぞ皆のもの」
「村長さん、皆さん。ミリーみたいなのを受け入れてくれて、本当にありがとうなのでアリマス。また……その……来てもいいですか?」
村人はニコリと微笑むと、「「「もちろん!!」」」と声が重なった。
「はっはっは、良かったなミリーよ」
「はいなのです! じゃあみなさんまた!!」
それを察しジョニーは歩きだす。ミリーは何度も振り返りながら、村人へと感謝を叫ぶ。
村人も余たちが見えなくなるまで、感謝を叫びつつ両手をふり別れを惜しんだ。
「さて、次はいよいよ目的地だな」
「うん……」
ここから近い場所にある、冒険者の街レグザム。
そこに待つ輩に鉄槌を下すべく、余とミリーはジョニーに身を任せた。
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