第10話:エンジン類

 暫く走ること数時間。とある山道へ入ったと同時にミリーが警戒しだす。

 周囲には何もないが、動物の気配がするのが余にも分かった。


「どうしたミリーよ。何かあるのか?」

「魔物? の気配がするでアリマス」

「大虎みたいなものか?」


「いえ、ああいう大型で凶暴な感じではなく、もっとそう……精霊的な気配が……でもこんな場所に精霊が居るはずが無いのですが……」


 どうやらミリーにも分からない、特殊な存在が近くにいるらしい。

 注意深く周囲を探してみるが、確かに威圧に似た感情を向けられいるのが分かる。


「ふむ、確かに何かが居るな。どこに――ッ!? ミリー構えよ!」

「ふぇ!? あ、あれはモッファーエイプがなぜここに!!」


 威圧が殺意に変わった瞬間、白い毛玉みたいな何かが岩陰より飛び出す。

 大きさは片手に乗るほどであったが、その動き、俊敏性の塊であった。

 周囲の岩を縦横無尽にはね飛び、さらに加速までするしまつ。中々どうして手強き奴よ。


「それは何者ぞ?」

「精霊の一種なのですが、高位の存在で人語を話せるです」

「なに、人語を話せるのか? なれば……おい! そこの毛玉よ落ち着くがよい! 余らは敵ではな――ッ!? 襲ってくるかよ!」


 話すどころか殺意を込めて突っ込んで来る。

 とてつもない速さだったが、大虎のマントを使い、ヤツの目をごまかす。

 体のある場所と思い突っ込んでくるが、マントの奥で体をヒネリながらかわし、同時に鬼切丸を抜く。

 

「ちぃ、ミリー行ったぞ!」

「ふぇえぇえ!? ひぎゃッ!!」


 余を攻撃するより、ミリーを狙うのが簡単だと思ったのか、毛玉は岩を蹴りミリーへと狙いを定める。

 あまりの速さにミリーは反応出来ずに、その猛攻を受けてしまい驚くほど飛び上がる。


「ミリー!? チィィィッ!!」


 吹き飛ぶミリーを追いながら、一気に跳躍ちょうやくしてミリーの落下地点へと飛ぶ。

 あまりの衝撃だったのか、ミリーは気を失いながら落ちてくるが、そこを狙って毛玉が襲ってくる。


「隙を狙うは定石よな。が、舐めるなよ毛玉?」


 余が毛玉の立場ならそうするであろう、仲間を救出する隙を狙う攻撃。

 だから簡単に予想が付き、事前にミリーの落下地点付近へと鬼切丸を投げ放つ・・・・・・・・

 ミリーを抱きしめ、弧を描き鬼切丸が降ってきたと同時に、毛玉が串刺しになり地面へと縫い付けられた。


「けふッ……なぜ……分かった……?」

「何故と問うか? 簡単な事よ。獣が余に敵うはずもあるまい。それより何故襲ってきた? 話せば分かるだろうに」

「わか……らない。気がつけば……人間……をコロセ……と頭……に……」


 そう言い残し、毛玉は鬼斬丸に抱かれて息を引き取る。

 気になることは多々あるが、今はまずはミリーの安否よ。


「おいミリー、大丈夫か?」

「……ふぇぇ? あ痛たた……大丈夫でアリマスよぅ」

「ふむ、着込んでいた鎧で助かったな」


 ミリーは痴女の如き露出度の多い服を着ているが、要所は金属製の鎧で守っている。

 その一番ガードが硬い胸の部分に毛玉が激突し、何とか致命傷は防げたようだ。焦らせるでないわ。


「あ……死んじゃったでアリマスか……」

 

 襲われ命の危機であったにも関わらず、ミリーは毛玉を心配していた。

 その様子は友を亡くしたかのごとく、そっと鬼切丸から離して優しく手のひらに包み込む。


「その獣は知り合いだったのか?」

「そうじゃないでアリマス。会うのは初めてなのですが、この精霊はミリー達の種族には特別な意味合いのある、いわば神様みたいな存在だったのです」


「そうであったか。しかしなぜ人を、それもミリーと仲が良いはずなのに襲うのだ?」

「ミリーにも分からないのです……なぜこんな可愛らしいお猿さんが襲ってきたのか……」


 その言葉で「サル?」と言いながら、毛玉の精霊を覗き見る。

 すると愛嬌のある、どこかで見覚えのあるサル顔・・・・・・・・・がそこにあった。


「この顔どこかで……おおそうじゃ!!」

「ど、どうしたのでアリマスカいきなり?」

「いや、このサルの顔だがな、余の配下にいた男を思い出してなぁ。こんな顔をしておったわ!」


 はっはっはと笑いながら、本当にうり二つだなと思い出す。

 日ノ本を離れたばかりだと言うのに、随分と大昔の事を思い出すように、あの頃の事を思う。


殿との、殿といつも余の後ろに付いておってなぁ。寒い朝などは、懐に余の草履を入れて温めたりした小賢しい奴であったが……憎めない男じゃった……」

「そうでありましたか……元気を出すですよ信長」


「ははは。家臣に心配されるとは、余も焼きが回ったとみえる」

「ええ!? ミリーはいつのまにか信長の家臣にされていたのでアリマスか?!」


 驚くミリーに「出会った時からよ」と言いながら、ミリーの手の中に居るサルの精霊をそっと持ち上げる。


「むぅ……見れば見るほど昔の藤吉郎に似ておる。〝会いたいのぅ、もう一度藤吉郎サルに〟」

 

 瞬間、それは起こる。

 強く藤吉郎サルともう一度会いたいと思ったと同時に、脳内にあの声。そう、ネクロマンスを施した時に聞こえる【是】という声が聞こえた。


 ただいつもと違う事が目の前に起こる。

 それは脳内と視覚的な両方で始まり、まずは脳内で例の声が【日ノ本より没後の豊臣秀吉の魂を召喚します】と言い出すと同時に、目の前に黄金の障子戸が出現。


 その戸が勢いよくスパンッ! と開かれると中から何処かで見た気がする、オヤジが「なんじゃあああここはどこじゃあああ?!」と言いながら、体が急激に細くなりサルの精霊の口へと吸い込まれてしまう。

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