第11話:サルの王

「な……なんだったのだ今のは?」

「それはミリーが聞きたいでアリマス……って、信長! モッファーエイプが動き出したですよ!?」


 もぞもぞと両手の中で動き出す白い毛玉サル。一体何ごとなのか? いや、答えはすでに出ている。

 間違いない、この毛玉サルは余が黄泉還よみがえらせたのだと理解した。

 とすると、先程吸い込まれたオヤジが中に入ったというのか? それに頭で話す例の声が言っていた、豊臣秀吉とは一体?


「まぁ答えはすぐに分かる、か」

「あ、目覚めたでアリマスよ!」


 鬼切丸に貫かれたキズは塞がり、すっかりと元の姿に戻った毛玉サルは、眠そうに両目をこすりつつムクリと起き上がり話す。


「だれぞある……水を持てい。ハァ~酷い夢をみた。まさか大殿様の霊が夢に現れて、俺様に会いに来るとはな。恐ろしい……恐ろしすぎますぞ大殿様……かなわんわぁ。頼むから成仏して二度と現れないでくれや」


 何やら聞き覚えのある声と、大殿様との特徴ある言い方に口角が上がる。

 馬車にある水筒を手に取り、蓋を開き水を毛玉サルにぶっかけながら「ほれ水だ、溺れ死ぬまで飲むが良い」と言ってやる。

 

「冷たッ!? 無礼者が、俺様を誰だと心得える! 織田信長がなし得なかった日ノ本の支配者にして、関白の位を持つ、豊臣秀吉なるぞ!! 死にたいのか下郎めがあああ!!」


 なにやら短い手足をばたつかせて、毛玉サルが騒いでいる。

 が、何やら聞き捨てならない事をいいやがるのが解せん。

 だから首筋をひょいとツマミ上げ、くるりとこちらを向かせてから話す。


「ほぅ……この織田信長に対して下郎とな? 大した口を聞きおるほどに出世したな秀吉。いや、藤吉郎サルよ」


「ギャアアアアアアア!? 大殿様が地獄から舞い戻られたあああああ!! おゆるしくだせぇ大殿さまぁぁ! 光秀のハゲは俺様が討ち申した! だから迷わず地獄で鬼に金棒でボッコボコに折檻されてちょ~~~!! だ、だが若い? いや、夢? もしくは妖の類か? なににせよさっさと成仏してちょ~! なんまんだぶなんまんだぶ!!」


「ええい五月蝿うるさいわ! 坊主の湿気た経は好まぬと知っておろうが!!」

「はぅえ!? ま、ま、まさかこの声と坊主嫌いは……ほんまもんの大殿様?」

「だからそうだと言っている。余が織田信長じゃとな」

「ギャアアアア!? 悪霊じゃああああああ!!」


 そう言い残すと、藤吉郎サルは気絶する。まったく、余はそれほど恐怖の塊だったのか?

 まぁ思い当たる事も多少……少し……結構……うむ、かなりあるな。

 そんな事を思い出していると、ミリーがこめかみに汗を浮かべつつ話す。


「あのぅ……なにがなんだか分からないでアリマスが?」

「余も何がなんだか分からないでアリマスな」


 二人で顔を見合わせ首を傾げると、ミリーが「常識って一体……」と空を仰ぐ。


「まるで余が非常識の塊みたいに言うでないわ」

「それ、新しいギャグでアリマスか?」

「ほぅ! ギャグとは一体なんぞ?」


「信長自信の存在みたいな事でアリマスよ。大体呪文もまともに唱えないで、どうしてそんなにポコポコとネクロマンス出来るですかぁ」

「む? 普通はできないのか?」

「あたりまえなのです。普通はぜ~~ったいに、そんな事が出来ないですし、なによりネクロマンサーは希少職でしかも闇属性ですので、ほぼ居ないでアリマス」

「そういうものか。っと、目覚めたか」


 ギャグの件がなにやら解せんが、藤吉郎サルが動き出したことで話しは終わる。

 どうやらまだ寝ぼけているらしく、また五月蝿く話し出す。


「ここは……ふぅ。悪い夢をみたようだ。まさかあの悪鬼羅刹が着物を着た、極悪非道の大殿が地獄の鬼から逃げ出して、復活するわけがねぇずらぁ。キッキッキ! で、ここは……岩山? まだ寝ぼけているのか俺様は」


 何やら気絶から回復早々、余の悪口を言いまくる藤吉郎サル

 ピキリとこめかみをヒクつかせながら、藤吉郎へと冷たく太い声で背後から告げる。


「コラ藤吉郎サル! いつまでも寝ぼけてにゃあで、シャキリとせんか馬鹿ものめ!!」


 恐る恐る振り返る藤吉郎サル。余と視線があった瞬間、「ギャアアア!!」とまた気絶しそうになったので、水をぶっかけてやった。


「ぷっは?! な、なにをなされます大殿様ぁぁ!!」

「寝ぼけているキサマが全て悪い。そこに触れば怪我しそうな石があるな?」

「……はい」

「太陽が雲に隠れたな?」

「……ええ」

「足元に小鳥がくたばっているな?」

「……で、ございますな」

「うむ、全てそちが悪いのだ。山に雪がふり難儀するもの、川が氾濫するのも、落雷で森が焼けるのも、全ての元凶はキサマ。そう、藤吉郎サルが悪いのだ」

「ちょ~待ってちょ~よ! 自然災害まで俺様のせいにされたぁぁ!? ど~してそ~なるの?!」

「どうしてかと問うか? 忘れたか、余が法で余はなんぞ?」

「天上天下全ての〝ことわり〟にてございます…………この無茶ぶり……本当に大殿様じゃああ……うぉぉぉん大殿様ぁぁぁぁぁぁ!!」


 感極まったのか、藤吉郎サルは大きく飛び上がり胸の中へと飛び込んでくる。

 中身がちょび髭のオッサンだと思うと妙な気持ちだが、このモフっとした抱き心地は悪くない。

 よしよしと撫でつつ、これまでの経緯を話してやった。


「な……なんと。では大殿様は本能寺で、森蘭丸と共に討たれたのではなかったのですか」

「そうらしい。気がつけばそこなミリーに助けられ、体まで若返り……見よ。ネクロマンス」


 足元で死んでいる小鳥の死体を復活させる。

 それを見た藤吉郎サルは「なんと?!」と驚き固まった後、「信じますぞ大殿様」とサル顔が青ざめた。

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