第44話:裏切り

「サンダーどうするんだよおおお!?」

「に、逃げましょうよ。尋常な数じゃないわ!!」

「そ、そうだな。チッ、覚えとけよテメェ等!!」


 まだヒビの入っていない場所へと足を向けて走り出す太陽への翼。

 その先に転がるのはクマ助のアンデッド。それが奴らの邪魔をし、ドッヂが「邪魔だ熊野郎!!」と強烈な蹴りを放った次の瞬間。


「な、なんだ? 誰がボクの足を掴んで……ひぅ!? 熊野郎?! は、離せよ!!」

「う゛う゛う゛おいは……痛かったぞ……苦しかったぞ……ドッヂ。お前だけは許さんぞぅ……」


 虚ろな瞳で折れた首のまま、クマ助は立ち上がる。そのままドッジの体に抱きつくと、首を締め出す。


「ぎゃああああ!! サンダー! リザ! 助けてくれよおおおお!?」

「じょ、冗談じゃねぇ! こんな折れた剣で戦えるか! 行くぞリザ、逃げるんだよおおお!!」

「わ、わかったよサンダー。ドッヂ、日頃の行いが悪かったと思って諦めな!」


「クソ野郎どもがああああボクをおいて行くなよおおおお!!」

「リザ早くしろ! 周囲があいつらに囲まれちまうぞ!!」

「ひぅ!? あれは獣人のジニ?! そっちはカシュ!? そ、そっちも全員……やめて、お願い、ゆるして……」


 次々に出てくるアンデッド達。その目は復讐に染まっており、仄暗い光りをたたえて土より這い出す。

 その全員が口々に太陽への翼への恨みを呟き、その生命を容赦なく刈り取るつもりだ。


「サンダァァ……お前だけは許さねぇ……」

「リザァァァよくも騙したなぁ……」

「ドッヂっぃぃ……私の下半身返してぇぇ……」


 グルリと囲まれてしまった三人。その中でもサンダーは比較的まともであり、恐怖の中から逃げる術をリザに耳打ちする。


(リザ耳をかせ。ドッヂはもうだめだ、奴を囮にして逃げ出すぞ)

(わ、わかったわ。じゃあ炎の魔法で奴らを焼き殺して道を開くわ)

「ぎゃあ足を噛むんじゃねぇ! オイ、なにしてるんだよ!? ボクを助けてくれよおおお!!」

「あぁ悪いな。ドッヂ……お前はソイツ等のエサになっとけ!! オラヨッ!!」


 巨漢なドッジを思い切り足蹴にし、アンデッド達の中心部へと転がす。

 そこへ殺到するアンデッド達は、ドッヂへ噛みつき、引き裂き、目玉をえぐる。


「ギャアアアア!? だずげ……で……いだ……い……」

「今だリザ、入り口に居る奴らを焼き殺せ!!」

「任せな! ファイアボール!! まだまだいくよ!」


 人の頭ほどの火球が複数飛び、入り口にいるアンデッドを焼き殺す、が。


「くそッ、なぜ燃えねえんだ!? リザ手加減してんじゃねぇ!!」

「ち、違うの。燃えたそばから復活してるんだよおおお!!」


 燃え尽きたそばから、アンデッドは復活して二人へと向かってくる。

 それを見たサンダーは決意する。


「……リザ。役立たずはいらねぇ、あばよ!!」

「サンダーなに――っきゃ!? 一人だけ逃げるつもり!? 死ねクズ野郎!!」


 リザの背中を足蹴にして、燃え盛るアンデッドのところへと向かわせ、その隙にサンダーは脱出を成功させる。


「ハァハァ、馬鹿共が……あのガキはネクロマンサーか? ち、なんて厄介な奴だ。かならずギルドへ報告してやるから覚悟しておけよガキィィ」


 逃げるサンダーは迷宮をひた走る。しばらく走り、ふと立ち止まると「……どこだ、ここは?」と周囲を見回す。

 それはいつも見慣れた光景ではなく、知らない迷宮ともいえた。

 

 それと言うのも、サンダーは頭の中にしっかりと人喰いの樹海のマップが頭に入っており、それが覚えのない所へと来てしまったのだから。


「焦って道を間違えたのか? 少しもどるしかねぇか」


 来た道を駆け足で戻る。しかし……


「……やっぱり知らねぇルートだ。一体どこで間違えたんだ?」


 サンダーは森を見回すが、覚えのない光景が続く。

 その原因が一体何かすら分からず、それでも出口へと向かい歩を進めるのだった。



 ―― 一方、その頃のリザは、なんとかアンデッドから逃れ森の中で迷っていた。

 その理由はサンダーと同じく、見たことのない場所・・・・・・・・・に居たからだ。


「チッ、せっかく逃げ出せたというのに、一体ココはどこなのよ……」


 恐る恐る進むリザ。だが行く手を阻むのは、見たことのない景色ばかり。

 そんな状況でも歩くリザは、やっと見慣れた光景に出会う。


「ここは……そうよ、さっきあのガキと最初に会った広場じゃない!!」


 見れば自分が殺した遺体が三体転がっており、ぴくりとも動かない。

 その様子を見てホっと胸をなでおろし、早く脱出しようと広場へと足を踏み入れた。


「後は真っ直ぐ進むだけね。って……出口はどこよ?」


 いつもは広場の左角にあるはずの出口。それが全く見当たらなくなっており、リザは焦って出口を探す。


「おかしい……そんなはずがないのに」


 そう呟くリザへと、背後から声がかかる。


「おかしいのは……アンタよ……」

「あたし達が何をしたのよ……」

「「さむいよ……痛いよ……酷いよ……リザッ!!」」

「ひぃぃ!? な、なぜアンタ達まで生き返ってるのよ?!」


 吊るされいた娘は胸に刺さったツララを引き抜き歩き、氷のナイフで腹を貫かれた娘はナイフを抜きながら迫る。

 さらに氷漬けにされた、半分になった娘たちは地をはいながら、リザへと迫る。


 錯乱しながら元来た通路へと戻ろうとするが、その時異変に気がつく。


「いや?! どうして通路が閉じていくのよおおおお!?」


 リザの声が虚しく響く。その先にあったはずの通路が今、音もなく木の根で閉じてしまったのだから。

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