第45話:別れ。そして新しき力

 ―― その頃、森の中心部にでは、信長達がのんきに話しをしていた。


「ほれ、頑張れミリーよ」

「うき? そっちに行ったで、早よう閉めとき」

「はぁはぁ。そ、そんな簡単にいかないでアリマスよぅぅ」


「ぐるぅぅ……」

「おお、よしよし。そちのお陰で彼奴きゃつらを捕捉できたわ」


 大きな魔狼が鼻を擦り付けるおるから、余の顔がヒヤリとした感覚に驚く。

 こやつの目は赤黒く、毛並みはつややかな黒い大魔狼。

 ここのダンジョンボスだという、こやつが復活した事で色々と分かった。

 

 まずダンジョンボスと言うのは、基本的にその場を動けないらしい。

 だが、ダンジョン内部は適合者が居れば改変できるという。

 それは〝ことわり〟とやらに縛られた法則との事。


 なるほど、では利用させてもらおう。つまり――


「で、でたらめでアリマス……ダンジョンを改変出来るだなんて、聞いたことも無いのですよ!?」

「余は出来ると言ったな?」

「……はいです」

「なら聞いたことがあろう? そういうことじゃ」

「それは今聞いたばかりでアリマスよ!! そ、それよりもぅしんどいのですぅ」


 ミリーが泣き言を言う原因。それはダンジョンボスの力を介し、ミリーが直接ドルイドの力で森を操作しているからだ。

 しかも目の前には森の見取り図よりも詳しい、立体的な現状が見て取れる。


 その中にサンダーとリザ、二人の姿もあった。


「泣き言は聞き飽きた。ほれ、サンダーが左へ行くように、次は右側を閉じて迷わせよ」

「うき、リザが逃げ出しおるやんけ。とっとと根っこで壁を作ったってや~」

「ブラック! ブラックすぎる主にミリーはぶっ倒れそうなのです」

「「そういう事はぶっ倒れてから言うといい」」


 ミリーは「あ、ハイ……」と言うと、白目になりながらも頑張ってダンジョンをいじりたおす。うむ、やれば出来る娘じゃわ。


「さて、こちらはどうか? ほぅ……」


 流石はゴールドランクの冒険者と言ったところか。

 あの状況からドッヂは抜け出し、片目を失いながらもアンデッド達を殴り飛ばす。

 元々の力……スペックと言ったか? それが肉体強化に特化した男らしく、それの恩恵を十二分に発揮したようだ。


「くそッ、どけクソ死体共がッ!! サンダーとリザのヤロウ……許せねぇ……そしてテメェ等もだガキ共!!」

「よく吠える人もどきよな。だが許せんのは、そ奴も同じ事よ。なぁクマ助?」


 折れ曲がった首をゴキリと元に戻し、ブハァ~と大きく息を吹くクマ助。

 そして自分の武器である大斧を拾い上げ、ドッヂへと向けて話す。


「信長様に与えられた復讐のチャンス。必ずモノにする」

「ぬかせ! お前はもう死んだんだ。とっとと腐りやがれ!!」


 残った左腕に魔力を全集中し、光る拳にしてクマ助へと突っ込む。

 微動だにしないクマ助は、「来い!」と言い切ると、大斧を真横に構えて後ろへと引く。


「うらあああああ殺ったらああああ!!」

「キサマがな、ドッヂ!!」


 輝く拳がクマ助の顔面を直撃する刹那、鋭く潜り込んだと同時に大斧を体の回転を利用し、激しく振り抜く。

 一瞬、竜巻が起きたと同時に、ドッヂの上半身が吹き飛び「ば……かな……」と言い残してドシャリと地面に叩きつけられる。

 その見開いた瞳は驚きしかなく、自分が何が起きたのかすら理解していないようだった。


「うむ、見事なり! 褒めてとらすぞクマ助。よくぞ怨敵を倒した」

「ははぁ。これも全て信長様のお力ゆえの事……これで迷わず旅立てます」

「うむ……征くか?」

「はい、せっかく黄泉還がえらせていただきましたが、おいの心残りはもう無いので」


 クマ助はそう言うとミリーを優しげな瞳で見つめて話す。


「ミリーすまなかった。今だから言うが、お前が迫害される原因を作ったのは、おいが悪いんだ」

「え!? それは一体どういう事でアリマスか?」

「実は初め、おいはダークエルフが嫌いだったんだよ。昔家族が殺されたからな」


「そう、だったでアリマスか……」

「ああ。それでミリー、お前が街に来た時に触れ回ったんだ。あの悪党のダークエルフが来たぞってな」

「レオナルドさん……」

「もちろんミリーがソイツ等じゃないってのは分かっていた。分かっていたんだが、つい、な……」


 下を向くクマ助へとミリーは駆け寄ると、やつの大きな手を取り握りしめる。


「でもミリーを助けに来てくれたじゃないですか! そして闘技場でもミリーの名誉を守るために、あんな無茶な戦いまでしてくれた。そんなレオナルドさんをミリーは恨む事なんて出来るはずが無いでアリマス!!」

「ミリー……そうか、そう言ってくれるのか……ありがとうミリー。そして本当に命があって良かった」


 クマ助はミリーの両手を、自分の大きな手で包み込み、きゅっと握りしめた後に余へ向かって話す。


「これで本当に何もかも心残りは無くなりました。短い間でしたが、信長様には本当に感謝しかありません」

「そうか……あの世でも達者でな」

「はい。もしよろしければ、この体をご随意ずいいにお使いください。ではおさらばです!!」


 そう言い残すと、クマ助の体から白く半透明なものが浮き上がり、それと同時にクマ助はドサリと地面へと座り込む。

 

「レオナルドさあああん! ありがとおお! さよーならああああ!!」


 ミリーは消えていく透明なクマ助を見て、涙を流して両手を振る。

 一瞬それが微笑んだ気がしたが、そのまま空へと還っていった。

 その様子を見ていると、何やらまたあの声が脳内で騒ぎ出す。


【御目出度う御座います。対象:レオナルドとの魂の絆が確立された事により、α‰γq0ⅥvÅ様の段が四段になりました。これにより新しい家臣が喚べます】

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