第46話:リザの最後

「なに? 新しき家臣だと?」

「きき? どうされはったんでっか大殿」

「いやまた例の声が聞こえてな。どうやら新しき家臣を喚べるようになったようじゃわ」


 首を傾げる余へと、ミリーは涙を拭いながら駆け寄る。


「きっとネクロマンサーとしての事ですよね? ならばレオナルドさんの体を使ってほしいでアリマス」

「ふむ……それが奴の願いでもあったしな。よかろう。だが今は彼奴きゃつらに代償を払ってもらおうか。ミリー、今はどうなっておる?」

「はいです。えっと……あ! サンダーが入り口に気が付き、木の根を破壊して逃げたでアリマス!?」


「そうか。ならまずはリザからだな」

「アンデッドはここにしかいないはずでは?」

「あほぅ。大殿が遅れた理由を考えてみい」

「じ、じゃあまさか……」

「うむ。あの娘たちもさぞ恨みがあるだろうから、な」


 遠くから女の叫び声がする。その声に覚えがあるミリーは「はわわ」と顔を青く染めるのだった。



 ――その頃リザは必死に三体のアンデッドの娘たちと戦っていた。


「ひぃ、いい加減に死になさいよおおお!!」

「オマエと一緒にならね……」

「うるさい、死ねファイアボール!!」


 苦手な炎系の魔法だったが、アンデッドにはことさらよく効く。

 ブスブスと燃え上がりながら、吹き飛ぶ娘の一人。

 その娘が吹き飛んだ先にある場所にあったのが、偶然にもリザが入ってきた場所だった。


「ざまぁみなさい。って、まさか……ッ!? そうか、あの木の枝で道が塞がれて……なら元の道も!!」


 燃え盛る娘から引火し、偶然に燃え上がった木の根の先に元来た道が見えだす。

 それを見たリザは出口が隠されていた事を理解し、出口へと向かい氷の刃を作り出す。


「騙されたもんね。けどもうおしまい、引き裂け氷の刃よ! アイスエッジ!!」

 

 二つの氷の刃がリザの杖より放たれ、クロスしながら木の根へと飛ぶ。

 するとあっけなく木の根は切り裂かれ、その奥から通路が露出する。


「やったわ! でも入り口が狭い……けど、時間がない」


 後ろを見るとアンデッドの娘たちが迫る。

 特に氷漬けになり、半分になった娘の異常な速さにゾっとしながらも、中途半端に開いた隙間へと体をねじ込む。


「くぅぅ、ダイエットしとけばよかった。でももう少しで抜け――ッ!? 痛っぅ! 一体何?」


 上半身のみ穴から出た所で、腰を抜くために思い切り体を捻る。

 するとそこにあった木の根が尻に刺さったのか、鈍痛が全身に走りその原因を見る、が。


「ッ!?  うそでしょ! なんであの毒ナイフが木の根に絡まっているのよ?!」


 それはリザがよく知る毒ナイフ。なにせ最後に氷漬けで真っ二つになった娘へと渡し、ミリーを殺すために用意させたものだったのだから。


「ま、まずい。早く解毒しないと……でも解毒薬は腰の袋に」


 その時あの食堂の娘の声がして「これの事ぉ?」と、袋を手に持ちぶら下げる。

 

「いつの間に!? 返しなさい! 早く! こっちへ放り投げて!!」

「……いいわよ。は~い」


 隙間から見える袋の行方。

 その先は複数の足元へと転がり止まる。

 それを見たリザは「あ……あぁ……あああああ!!」と叫び、その原因となった者たち――アンデッドの群れに恐怖した。


 なぜならそれは、逃げたはずの中央広場にいた者たちであり、それがあの燃え落ちた通路から湧き出たのだから。


「ひぃぃ!? お、お願い許して! 貴女を氷漬けにしたのはちょっとした出来心だったの! だから、ね、お願いよ! 許してちょうだい!!」

「……いいよ。私は・・ゆるしてあげる」


 リザは喜び「なら!!」と解毒薬をもらおうと、穴から戻ろうとするが。


「私は許しても彼らは許さない。だってリザ、貴女殺りすぎたのよ……」


 口々にリザへと恨みを呟くアンデッドの群れ。

 一度は抜けた尻を再度穴の中へ突っ込もうとするが。


「か、体が痺れて動かない!? ひぃぃお願いよおおお! 助けて! お願い何でもするからぁ!!」

「ねぇリザ。さっき私もそうお願いしたよねぇ?」

「俺も助けてくれって言ったはずだ」

「あたしも」「僕も」「ワシもじゃ」「俺も……いや、ここにいる全員がな」


 アンデッドは口々にそう言うと、リザへと迫る。


「やめ、やめ、やめてえええ!! 触らない――ギャアアアア!! 痛いからあああホントやめてええええ!!」


 木の根に挟まったまま身動きの出来ないリザは、アンデッドの群れに呑み込まれてしまう。

 そのままリザは気を失うも、悲鳴を上げては意識が戻るを繰り返す。

 それというのも、あの毒ナイフのせいで痛みが鈍くなっていたからだった。自業自得とはいえ、これはあまりにも悲惨な最後といえよう……。



 ―― リザの動きが止まったことで、信長たちは彼女が死んだものと認識する。

 

「残りはサンダーのみか。やつは今どこに?」

「はいです……あ、居ました。入口付近まで逃げたようでアリマス」

「ふむ、流石に早いな。少し時間を稼いでいてくれ」


「わかったでアリマス。信長はどうするです?」

「なに。やつも一人で帰るには寂しかろうと思ってな」


 そう言いながらジョニーを呼んで荷馬車へと飛び乗った。


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