第41話:西方教会

「なぜ……西方教会は亜人ばかりか異世界人まで排除するのです?」

「西方教会だぁ? そんなのは知らねぇよ。あそこは――」


 サンダーがそう言うと、ドッヂが被せて「いいじゃねぇか教えてやってもよ。どうせ死ぬんだし」と言いながら、凍傷した腕をさすり話す。


「ミリーが迫害されるのも、異世界人が狙われるのも、み~んな異世界人が悪ぃんだぞ? アイツらが西方教会の利権を奪ったんだ。だから異世界人を庇う奴らは神敵なんだぞ?」

「この馬鹿野郎が! 余計なことをヘラヘラ話すんじゃねぇよ!」


 なにやら揉め始めた二人。

 そんな太陽への翼を見つつ、ミリーは懐の秀吉を起こす。


(お猿さん、お猿さんってば。起きるでアリマスよ……だめか。もう少し時間を稼がないと)


「ドッヂの言う通りでアリマス。西方教会が亜人達を迫害しているのは有名な事ですから」


 そう言われてサンダーは「ふん、言われてみりゃ確かにな」と話しを続ける。


「ああそうさ、全てはあの方々――西方教会の司祭様から言われて、亜人を排除するのが俺らの仕事だ。そしてミリー。お前が無能の象徴として排除される事で、亜人は無能だと決定的になるはずだった」

「そんな!? 確かにミリーは馬鹿ですけれど、他の亜人は関係ないであります!」


「関係大ありだ。なぜと問うか? 簡単だ。〝人間以外の存在を神はお認めにならない〟からだ」

「そうだぞ。ボクたちが一生懸命、魔王の手先だったダークエルフのお前を〝教育してやった〟のに、全く使い物にならなかったんだからな」


「それだけじゃねぇ。神罰対象のトップにいる異世界人を庇った事で、亜人は神への反逆者として報告させてもらおうか。これで亜人を堂々と排除する大義名分が出来たってもんよ」

「異世界人も人間でアリマスよ!」

「見た目はな。さて――」


 そこまで言うと、サンダーは「リザ! 準備はいいか!?」と叫ぶ。


「ふぅ、やっと出来たわよ。本当に炎系統の魔法は苦手ね」


 何事かと思いミリーはリザを見る。するとこれまで彼女が静かだった原因がわかった。

 リザは足元に魔法陣を描いており、それを起動した事で大きな魔力を感じる。

 どうやら秀吉への対策として、向こうも時間を稼いでいたのかと気がつく。つまり――


「――ッ、上級魔法!? お猿さん寝ている場合じゃないでアリマスよ!!」

「あら、気絶していたの? ドッヂ、あんたの出番は無いわね」

「サルのブレスを防がないでいいのか!? そいつはラッキーだな。じゃ頼むぞリザ」

「任せなさい、気絶とは丁度いいわ。でもサルに見せれなくて残念、ただのファイアサークルじゃなくて、上級並の魔力を込めたやつだから、ネッ!!」


 リザは持っていた杖を勢いよく魔法陣の中心に突き刺し叫ぶ。


「火炎よ円陣を組め――ファイアサークルッ!!」


 魔法陣が跳ねたように光ると、先程とは比べ物にならない炎が周囲から吹き上がる。

 その熱で髪の毛がこげ嫌な匂いがするほど、それは恐ろしい程高温だった。


「熱ぅッ!? こ、このままなら焼け死んじゃうのです。お猿さん起きるのですよ!!」

「アハハハ! そのまま鬱陶うっとうしいクソザルと共に焼き死になさい!!」


 ますます勢いが激しくなる炎の壁にミリーは思う。


(くぅ、ドルイドの魔法は能力向上バフか、能力低下デバフ。そして植物を操る事しかできない。この状況で何が出来るか考えるでアリマス)


 そう考えるほど頭が混乱し、思わず「信長なら」と呟く。

 秀吉をギュっと抱えながら、囲まれた炎の壁にゾっとしながら今できる最善の策を考え、行動にうつる。


「せめてお猿さんだけでも助けるでアリマス……ドルイドとして命ず。老木達よ、もう一度その根を奮え! 老木の根壁アーバン・シェル!!」


 瞬間、炎の壁を遮りながら、太く老いた木の根が無数に出現。

 それらがグルリとミリーたちを囲む事で、炎の熱風から身を守る事に成功した、が。


「馬鹿なのかしら? いえ、馬鹿だったわね……そんな木の壁ごときで上級にまで昇華したファイアサークルが防げるとでも!?」


 リザがそう言ったと同時に、炎の壁は勢いを増す。

 それは悪夢とも言える光景であり、直径に二十センチはあろう太さの木の根を、あっという間に燃え上がらせる。


「あっはっは! ホントに馬鹿。最後まで無能。そして、死んでも馬鹿と無能は治らないって、あの世で証明なさい……死ねミリー!!」


 杖を勢いよく振り上げると、あっという間にアーバン・シェルは焼け落ちてしまう。

 それを見たリザは「やったか!?」と口角をあげるが、その燃えた中から黒い球状の物が見える。


「黒い球体? 一体……ッ、ミリィィィィ無駄なあがきを!!」


 どうやら木の根を二重に作り出し、一つは壁。もう一つは球体としてガードしていたようだった。

 黒い球体の中からミリーが苦しげに叫ぶ。


「けほッけほッ。無駄じゃないのです……それを決めるのはミリーじゃなくて、あの漢でアリマスから!!」

「あの漢ぉ? 世迷い言を……いいからとっとと焼け死になさい!!」


 リザはさらに魔力を強めて根の球体を焼き焦がす。

 その威力はついに厚く築いた根の壁を超えて、上部が赤く焼け落つ。


 さらに秀吉をキツく抱きしめ、「くぅ、お猿さんごめんなさい」と涙を流すミリー。

 それがポタリと秀吉の額に落ちた次の瞬間。


「――鳥頭娘。誰が守護してるか忘れてはあかんでぇ?」


 そう胸の谷間から声がしたと同時に、高温になっていた内部が一気に冷えだす。

 と、同時に白く凍れる息が上部へと向かい、炎の侵入を防ぐ。

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