第32話:雑な仕事

「ならやる事は決まったな」

「ええ、あの御方・・・・のために」

「ボクが一番、あの御方に尽くしているんだからな?」


 その話しを聞いた情報を提供した男は、「あの御方? 誰です?」と聞いてしまう。

 ジロリと男を見る三人だったが、サンダーが「あぁ……それはなぁ?」とニヤケながら剣を抜き、そのまま男へと突き刺す。


「ぐああああッ……そ、そんな……ガハッ」

「バカ共が。余計なことを口走るんじゃねぇよ!」

「す、すまないねぇサンダー。アタシとした事がつい」

「ボクも反省してやるよ」


 ドッジが柄にもなく背を丸めて縮こまる。それを見たサンダーは「なら責任もって処分しとけ」と言い残し、森へと向かう。


「ドッジ、始末が終わったら新米の墓場・・・・・へ来い。リザはいつもの罠の設置・・・・・・・・だ」

「ち、分かったわよ。ったく、口は災いのもとってよくいったわね」

「じゃあボクはコイツを捨ててくる」

「だめだ、ちゃんと埋めておけ。奴らに万が一見つかって、警戒されたら面白くもない」


 ドッヂは「わかったよ、仕方ねぇ」と言いながら、情報やの男を担いで森の中へと去る。

 それを見た二人は、新米の墓場と呼ばれる〝低ランカーが死んで追い剥ぎに会う場所〟へと向かった。



 ――その頃。サンダー達が別れ、〝人喰いの樹海〟でそれぞれ暗躍を始めた頃に信長達は森の入り口に到着した。

 辺りはすでに日が落ちかけており、普通ならばそんな物騒な場所へは立ち入ることはない。


 が、この森での依頼は魔物を討伐し、素材を集める事でも無ければ薬草を集める事でもない。

 それは正に冒険者として命がけの探索。つまり――


「――レッドランクが居る確率が夜でも高いと、ミリーは思うのでアリマス。それらの討伐と襲われた冒険者の遺品の回収の依頼を、こんな時間にするだなんて……」

「キキ。そんなレッドランクひとごろしなんてのは、戦の最中ならどこにでもおるやんけ」

「そうだぞミリー。敗れた陣営は、逃げた先の村人にまで狩られるのが戦のならいゆえ、珍しくもないわ」


「い、異世界って恐ろしい場所でアリマスね……ってそうじゃなくて、レッドランクとは快楽殺人者なのです! しかも盗賊より始末が悪く、堂々と街中に戻って来ていると噂なのですから!」

「それは重畳。ますます太陽への翼きゃつらが怪しき事この上ないわ」

「キキキ。先程ギルドでゴチになった三人から聞いた話しからすると、やっぱり臭いですわ」


 藤吉郎サルの言う情報の中身を、今一度二人とすり合わせる。

 それは〝人喰いの樹海〟で冒険者が失踪する前後、必ず太陽への翼が居ないという。

 さらにその時ミリーは雑用を命じられ一緒に居なかったという事だ。

 しかもその後、太陽への翼は決まってギルドの酒場で、豪遊をしたという証言も聞いた。これは確定的に臭い。


 なれば今回、あの情報屋の男がどこかへと向かい、その情報を聞きつけた太陽への翼がココに来て襲ってくる――


「――と、思うのが自然であろう?」

「うきき。俺様もそう思いまっせ」

「うん……確かに信長の考えが正しい気がするでアリマス」


 そう言いながら馬車は林道へと入る。

 どういう仕組かは知らぬが、この森自体が迷宮となっているらしく、不自然な林道が続く。

 しかも木々からぶら下がる木の実が怪しく光り、夜でも何とか薄明かりが照らし出す。

 

「夜に来るのは始めてでアリマスが、こんなに不気味だなんて……」

「不気味、か。ふむ……されば、あの者・・・が色を添えようか」


 林道の左側に土が盛られている。が、まるで犬がエサを隠すような感じで、雑に土がかけれている遺体が見える。

 それは体の中心部分にだけ土がかけられており、顔と足は露出しているというものだった。


「うっきゃ~大殿、どうやら当たりですやん」

「ひッ!? こ、この人はあの……」


 二人のその言葉を聞きながら、男の見開いた目をそっと閉じ、片合掌をして冥福を祈る。


「この者はギルド前から走り去った男だな。どうやら思いの外、事が進みそうじゃわ」

「……? どうしたです信長、固まっちゃって?」

「いや、この者に挨拶をな。目を見開いたままでは酷いゆえ」


 

 そう言いながら遠くを見ると、不穏な影が複数見える。

 どうやら狼の魔物らしく、牙をむくのが滑稽だ。なぜなら――


「――ギャヒー!!」

「ジョ、ジョニーが魔狼を蹴ったあああ!? そんなにたくましくなって……飼い主として複雑でアリマス」

 

 青ざめるミリーに余も内心同意する。いったい余は何を蘇らせてしまったのか、と。


「さて道は開けた。ゆくぞ者どもよ」

「はいです。でも信長、この後はどうするでアリマスか?」

「さてな。進めば自ずと道は開かれよう」


「そんな適当なぁ」

「適当なもんかいな。大殿の言う事に間違いあらへん。今に見てみぃ、必ず仕掛けてくるさかいな?」

 

 ミリーは「そういうものですか」と首をかしげならがも、ミリーは周囲を警戒する。

 すると藤吉郎サルの言う通り、森の迷路の角を何度か曲がった先に筋肉質な巨漢の男が、ミリーを見て叫ぶ。

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