第49話:むさ苦しい男たち

「いい加減にいたせ馬鹿ども。勝家よ、久しいな」

「はぁぁん? おいを呼び捨てにして良いのは大殿様だけじゃぞ!! どこのガキがおいを……おい……を……ま、まさかそんな……」

「なんじゃ。権六と呼んでほしいのか?」


「お、大殿様ぁあああああああ!? ほんに大殿様であり申すか?!」

「うわっぷ、暑苦しいから離れよ勝家!」

「こ、こいつぁ失礼しました。でもまさかぁ……うぅ、大殿様とまた出会えるとは! この権六、大殿様を失い、田舎猿に滅ぼされ、塗炭とたんの人生でしたぞ!!」


 そう言うと勝家は大声で泣き叫ぶ。まったく、いつまでたっても大きな泣き虫よ。


「わかった。わかったから泣き止むが良い。まったくそちは死しても暑苦しいままよ」

「うぅ。申し訳ありませぬ」

「だが……また会えて嬉しいぞ権六よ」

「ッ?! お、大殿ざまあああああうぉおおおん!!」

「あぁ~わかったから泣くのをやめい。そして鼻水を上から垂らすのもやめい!!」


 そういったものの、勝家の巨体から湧き出る力に掴まれ、身動き一つできずにいると、藤吉郎サルめが呆れながら話す。


「せやから言ったやないですか。こんな暑苦しい猪……いや、熊武者を喚んではあきまへんって」

「黙れぃ田舎猿! ん……そうだ! キサマがうちへ攻め込んで来た恨み忘れはせんぞ!!」


 二人のやりとりにミリーがあたふたとしだす。

 それを楽しげに見る余へと「なんとかするでアリマスよぅ」と涙目だが、二人のやりとりは続く。


「そ、それについてはそのすまなんだ。その俺様にも色々あってだな……その。ごめんやで?」

「あい分かった! おいも男だ全てを許す!!」


 それを聞いていたミリーが盛大にコケながら、「ほ、滅ぼされたのにそんな簡単に!?」と驚く。


「ククク、これが勝家という男よ。あの光秀ハゲとは違い、さっぱりとしたいい漢というものだ」

「はっはっは! 左様ですな! この勝家、細かい事にこだわり申さんゆえに!!」

「ふぅ~相変わらずのアホで助かったで」

「なんだと田舎猿! それで何でおいは熊で、お前は猿なんだ? まぁ元々猿だったが」

「誰が猿やねん! はぁ~ったく、今更それに気がついたんか。説明したるから、よ~く耳の穴かっぽじって聞くんやで?」


 藤吉郎サルがこれまでの経緯を話す。

 初めはウンウンと聞いていた勝家だったが、本当に理解しているのかと首を傾げる。


「あいわかった! つまり夢の世界ということだな! だが大殿様とまた会える夢は心地よきものだな! はっはっは!!」

「ハァ~やっぱりあかんかったか。大殿どうしまっか?」

「まぁそのうち気がつくだろう。勝家よ、夢の続きを見に行くぞ」


「おお! すると此度こたびこそ日ノ本の完全制覇ですな!!」

「日ノ本? いやいや、そんなチャチな世界ではない」


 そう言いながら鬼切丸を抜き放ち、森を抜けた先の大地へと半円を書くように空間を斬り裂く。


「此度の戦は異世界よ。領土は広大! 切り取り放題! 食い放題じゃわ!!」


 その言葉に藤吉郎サルと勝家は「「おおおおお!!」」と喝采するが、ミリーは「あのぅ、いきなり攻め入るのはやめていただけますぅ?」と言っておる。空気が読めない鳥頭め。


「分かり申した! この勝家、大殿様のはてなき夢を叶える剣となりましょうぞ! はっはっは!!」

「暑苦しいやっちゃで……まぁこの猿めも乗りかかった船よって、大殿様の大船に乗っかりますわ!!」

「うむ。では征くぞ……まずはレグザムを落とす!!」

「だから落としちゃだめなんですってば~。あ、待つでアリマスよ信長ぁ~」


 主人を置いたまま走るジョニー。そこに必死に追いつくミリーへと片手を伸ばし、荷台へと引き上げながら馬車は進む。



 ――その頃、レグザムの冒険者ギルドへ、一羽の小さな白い鳥が舞い降りる。

 コツコツと窓をノックした小鳥は、部屋の主へと自分の存在を知らせると、その部屋の主はいつものように窓を開けて小鳥を左手に乗せた。

 手慣れた手付きで、主は小鳥の足にくくりつけられている手紙を見ながら驚く。


「あらん? まだ定時連絡には早いはずだけどん……んま!? いやだわん、これ本当かしらん? もし本当だとしたら……」


 主は小鳥を勢いよく握りつぶしながら「まぢやべぇじゃん」と呟き、手紙を指ですり潰す。

 そのまま小鳥を握り潰した手を見ると、そこには〝既読済〟と書かれており、小鳥は跡形もなく消え去っていた。


「面倒な事になったわねぇ。ったく、ミィ~の気苦労も知らないガキ共が……やってくれる」


 鬼の形相の顔が窓ガラスに映り込み、「あらん、いやだわミィったら。玉のお肌がだ・い・な・し・ぃ♪」とウインクすると、ガラスが砕け散る。


「……不良品ね。今度はもっといいガラスを入れましょう。さて、と」


 主は上着を羽織ながら部屋を出て、勢いよくドアを閉める。

 そこの入り口の上部にはこう書いてあった。

 〝ギルドマスター ドミニク愛のおへや〟と……。


「さてはて、どんな生きのいいボーイなのか見せてもらおうかしらん。んふ、楽しみだわん♪」


 そんなギルドマスターが最上階から、階段を軋ませながら降りてくる様子を見るエルフの女――サブマスターのセルフィが苦虫を噛み締めた表情で見る。


(マスターのあの様子……これはただ事じゃないわね。これは覚悟を決める時かも)


 そう思いながらセルフィはマスターの動向を追う。

 その気配を敏感に感じながら、「もぅ、ビン★ビンよ~」と口角を上げるギルドマスターであった。

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