第15話:疾風の疾風

「うむ。これは楽しみぞ」

「うわぁぁん。今日からどうやって、ごはん食べればいいですかぁ!?」

「キキ。無駄にいい乳してるから勘違いするんやで?」

「好きでいい乳になったわけじゃ無いでアリマス! というかツツかないでくださいお猿さん!?」


 藤吉郎サルとミリーが戯れているのを見ると、なんとも微笑ましい。

 こういうのを見ると、他人は飼い主とペットというのだろうな。


「はっはっは。実にゆかいよな」

「笑い事じゃないでアリマスが? がぁ? もぅどうするですかぁ! 完全に不利な赤枠に賭けちゃって!!」

「何を申す、不利な賭博こそ至高よ。そこに活路を見出してこそ武士もののふというものぞ?」

「ただの大馬鹿ギャンブラーなだけナノデス」

「大うつけ大いに結構。まぁ見ていよ、あのクマ助が勝つところを、な? さぁ近くで観戦しようぞ者共よ!」


 キキと喜びながら「ほないきましょか~」と背に飛び乗る藤吉郎サルの後から、ミリーが顔を青くして半泣きで付いてくる。

 その様子、どうやら金がなくなった事だけが原因ではなく、なにやら別の原因があるほどに挙動不審だった。


 それに疑問に思いながらも、ジョニーに揺られながら馬車は進む。

 螺旋通路は意外と広く、馬車が余裕で三台は通れるほどであり、ジョニーは何も言わずとも下へと進む。


 そこには魅力的な店が軒を連ね、とてもデカい肉の串焼き、三角形の真っ赤な果物などの食べ物から始まり、洋服から宝石まで多種多様なモノが雑多に売られていた。


 特に気になったのは、魚が油の中で泳ぐ食い物だ。それは生きている魚を油の中に泳がせ、そのまま揚げたものが浮いて来た時、なんともいえない良い香りが食欲を増す。


「あれが食いたいのぅ。のぉミリー?」

「そんなモノを買うお金はミリーには無いでアリマス」

「いやじゃいやじゃ! 俺様も食いたいから買っておくれ!!」

「そんな可愛らしいすがたで駄々をこねても、無いものは無いでアリマス」


 思わず「「痴女め」」と藤吉郎サルと口が揃うが、「同時に言われた!?」とミリーは小指を立てながら白目で驚く。

 だってそうだろう。ここに来て街の民を見ても、ミリーほどの露出度の高い娘はいないのだからな。


「そら俺様も大殿も口がそろうわ。大体身を守る鎧なのに、そんな少ない範囲しか守らないってなんやねん!? それにこんな格好の娘はミリーくらいやで?」


 ミリーは「う!? そ、それはミリーがドルイドだからであって……」とことばを濁す。

 なにやら破廉恥な格好に意味があるようだが……そうこうしていると闘技台の上、五メートルほどの上に着く。

 周囲には観客があふれ、とりあえずジョニーの荷台に上がって観戦する事とする。


「おお~ここならよく見えるな」

「キキ、いい眺めですわ」

「お猿さん。ミリーの頭の上で、はしゃがないでほしいでアリマス」


「ええやん減るものでもあるまいし。お? そろそろ始まるみたいでっせ」

「ほぉ……見込み通りよな」


 額の鉢巻をキュっと締め直したクマ助から、魔力に似たモノが吹き上がり、体全体を覆う。

 それに対し、白人の男は剣の鞘に手を置き、ニヤニヤと馬鹿にしながら口を開く。


「おいクマ野郎よく聞け。たかがメスガキ一匹ふぜいで何を熱くなる? ハッ、人間様と亜人どもの、格の違い・・・・ってのを見せてやんよ」

「黙れ! 亜人を馬鹿にするな! 絶対にミリーに謝らせてやるッ!!」


 その言葉で思わず「「ミリー?」」と藤吉郎サルと声が重なる。

 見ればミリーは「うそ……ミリーのためにクマさんが?」と驚く。

 

「ミリーよ。あの二人知っておるのか?」

「ッ!? はいです……クマさんはレオナルドさんと言って、普段はとっても温厚な人なのですけど、ミリーとはあまり話したことも無いでアリマスが……」


 ミリーからすれば顔見知り程度の相手という。が、あの白人の男はどうだ?

 金髪青目で見事な金属鎧を着込み、細い体だが鍛え抜かれた人物と分かる。

 その男を見るミリーは確実に震えているばかりか、余の袖につかまってしまう。


「……大丈夫だ余がついておる。で、あの男も知り合いなのだな?」


 藤吉郎サルにほほを撫でられて気を落ち着かせたのか、こくりと頷くミリーは数秒後ゆっくりと口を開く。


「あれは……疾風のハヤテなのです」

「キキ。なんじゃあ、その頭痛が痛いみたいな名前の奴は?」

「ハヤテと言うのは信長の居た国で、疾風と意味があると聞いた事があるです」


 日本語でハヤテ? だが奴はどう見ても日ノ本とは関わりが薄く見える。

 なれば別のなにかがあるのか?


「うむ。だが奴は余の国の民から見れば、異邦人だと思える姿だが、そのワケもあるのだろう?」

「はいです……彼は私が所属していたパーティーのメンバーの一人で、黄金郷の勇者の末裔だと言うことから、そう名乗っているでアリマス」

「ほぅ……すると奴が鉄槌を下す相手の一人か」


 そう思った瞬間、抑えていた魔力が大虎のマントを広げ一気に吹き出る。

 それに気がついたのだろう。闘技場の二人も、「なんだ!?」とこちらを見て余と視線がぶつかり、特にハヤテは「何者だ?」とキツく睨んだ直後に口を開く。

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