第13話:腐った門番

 道中、藤吉郎サルと攻め方を熱く語っていたが、いよいよ目的地であるレグザムへと到着した。

 街の規模は大きく、近くでみればやはり城塞都市と分かるほどの城壁に囲まれており、戦に特化した作りといえる。


「ほほぅ。ここは最前線の街なのか? このような城壁で囲まれておるとは、なかなかなものだな」

「ほぇ? 最前線というわけじゃなくて、この世界の大きな街は大抵こんな感じでアリマスよ」

「なんと!! それは攻略するのに時間がかかりそうじゃのぅ」


「街を訪れるたびに攻め落とさないでほしいでアリマス」

「はっはっは。ああいう城壁モノを見ると胸がたぎるものぞ。ん? あの人だかりはなんだ?」


 街が近くなるにつれ見えだす行列。聞けば街への入場待ちの列だという。

 

「ほほぅ。この世界では街に入るのに許可がいるのか?」

「でアリマス。大きな街は大抵そんな感じですね」

「ふむ……実にもったいないの」

「もったいないでアリマスか?」


「うむ。あの待っているだけの時間、どれだけの商機を失うか想像してみよ。日によって列も長くなることもあろう? そうなると入場まで数時間。いや、半日かかることもあるとみたが?」

「たしかにそんな事もある時があるのです。特に雨季や繁盛期なんかは、そのくらいかかることも多くなるのでアリマス」


 さらに聞けば、通行税とやらもあるらしい。

 実に阿呆な事よ。楽市楽座を異世界にも作る必要があるとみたが、現状はそれをさておき街の状況よな。

 ほどなくして列の最後尾につけながら、ミリーにこれまでの状況を聞く。


「キキ、阿呆あほですなぁ。大殿様ならば、いかようにでも改善できましょうにな」

「で、あるな。それでミリーよ。そちの所属していた冒険者の集いは何といったか?」

「えっと……やっぱり本当に行くでアリマスか? ミリーはその……」


 よほど嫌な目にあったのだろう。いつも元気な耳がヘタれてしまい、顔をふさぎこむ。

 だから「心配するな。この織田信長に全て任せよ」と言いながら、背中を軽く叩く。


「俺様もいるでよ!!」

「分かったのです。二人を信じるでアリマス! ミリーが所属してた、シルバーランクのパーティー名……〝太陽への翼〟でアリマス」

「ほぅ、日輪をも掴む気かよ。滑稽こっけいよな」

「キキッ、さようですな。大殿様を差し置き、おこがましき名前やわ」


 なぜ滑稽と思ったか? それはそのパーティー名称があまりにもお似合い・・・・だと思ったからだ。

 まぁ今はミリーと打ち合わせした通りにしようか。


「ミリーよ、まずは冒険者になればよいか?」

「ハイです。まずは冒険者ギルドに行って登録するでアリマス」

「俺様もそれになれるのか?」


「お猿さんは、信長の使い魔という感じですね。登録するのは主である信長かな」

「な~んだ、ツマランな~。この体になってからと言うもの、なんだか精神はもちろん、肉体も若返った気がするから、俺様も冒険者になって無双したかったのにな~」

「ふふ。お猿さんもすぐに活躍する機会がくるでアリマスよ。なにせ素体が凄いんですからねぇ」


 そんな話をしていると、いよいよ我らの番になり門をくぐろうとするが……。


「なんだぁ? おいおい、ダークエルフかよ」

「あぁコイツは先日パーティーを追い出された無能者だろ。何をしに戻ったんだミリー?」


 どうやらいけ好かない門番らしい。

 ミリーを見るなり、つばを吐きつつ嫌らしく話す。


「ミリーはその……ギルドに用があって……」

「はぁあん? ギルドだぁ? てめぇは冒険者廃業したって聞いたが?」

「そ、そんな事ないでアリマス! ほら、ちゃんと冒険者ランク証もあるのです!」

「はぁあん? 見えねぇなぁ? おい相棒、お前は見えるか?」


 太った門番がそういうと、痩せた門番が「見えねぇなぁ~」と言いながら、「でもまぁ……」と右手の平を上にして、親指と人差し指で輪を作り「コレ次第で見えるかもなぁ?」と金銭を催促する。


「ほれぇミリーさっさとしねぇか。冒険者の証が見えねぇと、不審者として追い返すだけだが?」

「そ、そんなぁ!? でも……仕方ないでアリマス」


 余たちに迷惑をかけたくないのだろう。ミリーはギュっと握った手を開き、財布を取り出す。

 が、「しまっておけ」と言いながら、ミリーの前に立つ。


「んだぁキサマ。公務妨害で逮捕するぞ?」

「そうだ、俺たちの小遣い……いや、公務を妨害しやがるのか?」


 なんたるクズ共だ。ミリーから「ちょっと借りるぞ」と冒険者証を預かり、それに魔力を込めつつ凍りつく視線で静かに話す。


「おい門番共、静かによく聞け。キサマ等の仕事は不正に金をせびる事か? 違うはずだ。だからこの証が見える……そうだな? 見えるなら黙って馬鹿みたいに首を縦にふるがよい」

「なッ!? テ、テメェ……ひぅ?!」

「誰が話してよいと言った? いいか、キサマらはただ首を振るだけだ。よいな?」


 二人の門番は脂汗をダラダラと流し、壊れた人形みたいに首を振り続ける。

 

「うむ。通ってもいいのだな? なら此度こたびは見逃そう。だが次回も同じ事をしたら……ワカルナ?」


 さらに首振り速度が加速する。ソレを見た藤吉郎サルが、「相変わらず意味不明に怖えぇがや」と門番同様に首をふる。何をしておるのだ。


「では通る……うむ、苦しゅうない。余が通り抜けたら息をして良いぞ」


 ふぁさりと大虎のマントをはためかせ、門をくぐり抜けると、背後から「ぶふぁあああ!」と息を吐く音が聞こえる。

 よほど苦しかったのか、盛大にむせ返りながら「なんだ今のは……」と震える声がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る