第39話:探り合い

「何やってるのさマヌケ共! 熊野郎にいいようにやられてんじゃないわよ!!」

「リザ!? 助かったぜ」


 サンダーが回転しながら地面へ着地すると、半分埋まったままのドッヂが震えながら岩を握りつぶす。


「……ボクはなぁ……ボクはなぁ……土の中が一番嫌いなんだぞおおおおおおッ!!」


 瞬間、ドッヂは両拳で地面を叩き伏せると、地面が激しく爆発する。

 破片はリザが防御魔法でかばうほどに酷く、そのままレオナルドの元へと土砂が殺到。

 それを何とか防ぐが、その土砂の中よりドッヂの右手が伸びてレオナルドの首を閉める。


「首の太さだけは褒めてやる。けどよ……絶ってぇブッコロ!!」

「ぐぅぅぅぅぅ」


(くそ息が出来ない。このままじゃ意識が飛ぶ……その前になんとか脱出を)


 朦朧もうろうとする意識の中、レオナルドは何か打開策はと模索する。

 そこで右手にしっかりと持つ、愛斧の感触を思い出す。


(まだコイツがあった。ならば!!)


 斧を普通に振るっても当たらないどころか、当たっても対して効果がない。

 ならばとレオナルドは斧の石突きと呼ばれる、持ち手の下にある突起をドッヂの腹に突き刺す――が。


「ドッヂ! 油断してるんじゃねぇぞ? オラヨッ!!」


 ドッヂの腹に刺さりそうになった斧の突起を、サンダーの剣が強烈に弾く。

 火花が散ることで、ドッジが何をされそうになったのかを理解して激怒。


「オマエエエエエ!! 死んだぞおおおおお!?」


 苦しむレオナルド。だが熊の獣人は頑丈であり、さらにレオナルドは特に首を鍛えていたから太い。

 中々折ることが出来ず、ドッジが顔を真っ赤にしている正にその時、広場の入り口から声がした。


「レオナルドさん!? 今助けるのです! 森の精霊よ力を貸しておくれ――新緑の息吹よ今こそ芽吹け――蔦の縄網アラフィトス!!」


 先程ドッヂをひどい目にあわせた蔦が、足元から急速に伸びだしてドッヂを縛る。

 ギリギリと蔦が食い込み、そこからトゲが出た次の瞬間。


「二度も同じ手を食らうか無能があああああッ!!」


 先程の失敗で学んだのか、いつの間にかドッジの腕をガードする防具が装備されていた。

 それを盾にして力任せに蔦をぶち切ると、そのままレオナルドの首を両手で持つ。


「テメェは用無しだ。死にさらせやッ!!」

「や、やめるでアリマスッ!! レオナルドさああああん!?」


 ミリーが叫んだと同時に、〝ヴぉぎぃ〟と言いようのない鈍い音と共に、レオナルドの首がガクリと後ろへとさがる。

 背後のミリーと目があった瞬間、「にげ……ろ……」と言い残してレオナルドはこの世を去る。


「う……うわああああああん!?」


 泣き崩れるミリー。その声を聞いた秀吉が、頭を抑えながら入り口から入ってきた。


「ったく、何事やねん。人をほっていきおって!? お陰で木に頭を打ち付け……チ、そういう事かいな」


 状況を理解した秀吉は、猿顔をしかめて状況を見る。

 そしてミリーが泣いている原因を見つけ、「キサマら終わったでぇ」と静かに言い放つ。


 それを見たサンダーが「今日は生ゴミがよく集る」と言い、ドッヂが「ならゴミにするまえに、今度こそボクの好きにさせろよな」と言う。

 が、一人だけ震える女。リザが「馬鹿! アレが見えないの!?」と叫ぶ。


「アレぇ? 一体何を……ッ!? なぜ高位精霊がこんな場所にいる!?」

「ボクはアレを知っているぞ……モッファーエイプだろ!?」

「そうよ。アタシはあの氷の高位精霊に、いいように遊ばれて逃げてきたの。だからアンタ達の力が必要なの」


 太陽への翼はゴールド級であり、氷の高位精霊の事はよく知っている。

 それは単体で戦えば確実に命を落とすほどの、力量差を知っているのだから……。


「……ドッジ、リザ。ここは袋小路だ、やるっきゃねぇ」

「くそぅ、あのサルは人を襲わないはずだろうがよう」

「泣き言はいい。リザ、氷魔法以外で何とかしろ。ドッジと俺は隙を作る」

「やるしか無いねぇ。頼んだよ二人共」


 三人が攻守のバランスをよく配置したのを見た秀吉は、ミリーへの肩に乗ってささやく。


「ミリー。俺様は氷の高位精霊なんやろ?」

「はいです。お猿さんの元の体の主はモッファーエイプといって、氷系統の魔法や自然現象を起こせるほど凄いでアリマス」

「さよか。でもあかんねん……まだなんと言うか、頭の中に使える魔法がさっき使ったアイス・ミストしか無いねん」


「そんな!? さすがにアイスミストだけじゃ太刀打ち出来ないのです」

「やっぱそうかぁ。ほな仕方ない、大殿様が来るまで何とか誤魔化すしかあらへんで」


 焦るミリーは「で、どもどうやって?」と聞くと、秀吉は「こうするんや!」と叫び飛び出す。


「クッ、来たぞ! ドッヂ・リザ!」


 サンダーが二人へと指示を出すと、まずはドッジが両腕をクロスさせて突っ込んでくる。


「一発二発じゃ倒れねぇ! 武技・シールドアーム!!」


 髪の毛よりも太い剛毛の腕毛の前に、突如として大盾が出現。

 そこへ向けて秀吉がアイス・ミストを放つ。


「盾なんか!? ちッ、それでも凍てつけ、アイス・ミスト!!」


 

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