第38話:奇襲

「酷い……どうしてこんな……」


 ミリーはそういうと、氷漬けになった友人だった半身へと近寄り、そっと氷越しにふれる。

 真っ二つになってはいたが血の一滴すら流れず、骨の髄まで凍りついていた食堂の娘は恐怖の表情で凍りついていた。

 

 どうやらリザはこの隙に奥へ逃げたらしい。

 周囲を注意深く探り、うなだれるミリーの隣に座りながら、食堂の娘に手を合わせた後に静かに話す。


「そちをハメようとしたとは思えんほど、用意周到だな。そもそも余らが、人喰いの樹海に来る事は知らなかったはずだが」

「せやなぁ……なぁミリー。もしかして、この娘とあっちで死んでる娘たちに共通する事はあるんか?」


 ミリーは「共通でアリマスか……」と静かに呟く。そのあと二・三言呟いた後、「あ! レオナルドさんの関係者でアリマス!!」と叫ぶ。


「クマ助の知り合い? とすると、この森にあやつが居るのか。藤吉郎サルよ、あやつの気配を感じ取れるか?」

「大丈夫でっせ! あのケモノ臭を探れば……うきッ?! 大殿の読みどおり、森の奥におりますがな。ですが多分怪我している匂いもしまっせ。急いだ方がよさそうですわ」


「え?! レオナルドさんが怪我を? 急がなきゃでアリマス!」

「だな。お前たちは先に向かってくれ、余は少し確かめたいことがある」


 そう余が言うとミリーは心配そうにするが、藤吉郎サルが「大丈夫やで。全ては大殿に任せとき」といいながら、ジョニーに揺られて森の奥へと去っていく。


「さて、この娘たちは本当に……いや、是非も無し。か」


 残り二人の娘たちを回り、手を合わせて冥福を祈りながら、鋭く森の奥を見つめた。



 ――それから少し時が過ぎる。

 信長から離れた森の中心部にある、ボスが居るであろう広場に三人の姿が見える。

 だがボスはすでに討伐された後で、大魔狼の死体が転がっていた。

 それを背後にした一人はサンダー。もう一人はドッジ。そしてもう一人が――


「――会いたかったぜぇ熊野郎? よくも弟を再起不能にしてくれたなぁ!!」

「ボクも会いたかったんだぞ? この肉体美に引き裂かれるってんだから、感謝して死ねよなぁ!!」


 左腕を庇いながら、熊の獣人レオナルドは叫ぶ。


「ごたくはいい、ミリーはどこだ?!」

「ごたくどころか、テメェは寝言を死んでから言えや。どこにミリーが居るってんだよ?」

「そうだぞ。ボクはミリーにやられてひどい目にあったんだからな!!」


 その言葉で二人がドッヂへと向く。


「おいドッヂ、そりゃどういう意味だ?」


 〝しまった〟 それがドッヂの表情から読み取れるほどに、顔色を変えてサンダーへと説明する。


「――なるほど。じゃあテメェは、あの無能にやられただけじゃなく、マヌケにも逃げ帰って来たと?」

「そ、そうじゃねぇよサンダー。俺はあの一緒にいたガキの脅威をだな」


 その様子を見たレオナルドは今がチャンスだと思い、脳内を高速で動かす。


(奇襲に失敗した時はどうなるかと思ったが、今ならサンダーの背後はガラ空きだ。ならやるしかないッ)


 大斧の握り部分を強く掴み、サンダー越しに武技――アースドラムを発動。


「喰らえ、アースドラム!!」

「なッ?! クソ、卑怯な熊野郎があああ!!」

「神が許してもボクが許さないんだからなあああ!!」


 波打つ地面に足を取られ、二人はかまえる間もなく大地の裂け目へと呑み込まれてしまう――はずだった。


「大地よ、霜柱で異物を打ち上げろ。フロスト・ピラー!!」


 大地に飲まれそうなっていた二人を、突如地面から生えた氷が押し上げる。

 そのまま吹き出すように出てくると、悪態気味に女――リザへとサンダーは話す。

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