第21話:異世界食レポ紀行・壱

 口に一口含み、噛みしめたと同時に「熱っ!?」と漏れだし、次に「じょわ?!」と意味不明な言葉が吹き出す。

 いや、それもそのはずだ。なにせ旨味という汁の塊が魚とは思えない程あふれだす。


「な……なんだこの魚は!? とても魚とは思えぬ汁気! さらに野性味がありながらも鮮烈な川魚の香りと濃厚な旨味の本流が舌を快楽の海へと突き落とし溺れさせ歯ざわり豊かに歯切れよく食感すら心地よいのはまだしもノドを通り過ぎるまで旨味で脳天が震えてしまうだとッ?! 店主、貴様やりおるなあああああッ!!」


 まだ言い足りぬ。が、一息で言えるのがこれが精一杯だった。

 余の思いを店主へとぶつけるが、ヤツは「ひぅ!? お、落ち着けよ」と引き気味だ。解せぬ!


「まぁでもよ、そこまで喜んでくれるたぁ屋台の店主になってよかったぜ。ささ、オメエらも食ってくんな!」


 そう言いながら店主はミリーと藤吉郎サルへと魚を渡す。

 ミリーは「またまた~信長は大げさでアリマスなぁ」といいながら、はむりと食べる。

 藤吉郎サルも「南蛮かぶれも極まりましたな、大殿様」と呆れながら食べる。


 そんな二人にジトリと目を細めつつ、反応を待つ――「「じょわ?!」」と、おかしな声で叫ぶ。


「ほれみたことか。だから言ったとおりであろう?」

「ほ、本当だったのです」

「キキ、大殿様の事を疑ったサルめが悪うございましたぁ~反省!」


 そう言うと藤吉郎サルはミリーの胸に手を当てて反省しているようだ。それは反省とは言わぬぞ?


「反省だけならサルでも出来るわ。まぁよい、これで分かったろう?」

「「そりゃぁもう」」


 うむ、と頷きつつ店主へと向き直り「もう一本くれい!」と言うと、元気よく「あいよ!」と店主はニカリと笑う。

 そのくったくのない笑顔ですら、魚の味を引き立てる調味料なのかもしれぬな。

 そう思いながら、見事な手さばきに見惚れつつ、揚げたての魚をほおばるのだった。





 ――信長たちが異世界の味を楽しんでいる頃、サンダーたち〝太陽への翼〟へと事の詳細が報告される。

 それを聞いたサンダーは、震える右手を顔に当てて指の間から報告をしにきた男をにらむ。


「じゃあなにか……弟は熊のクソ毛野郎にやられたってのか?」

「そ、そうですが、何というか……えっと……」


 煮えきらない態度の男にサンダーは胸ぐらを掴みながら、人をにらみ殺せる勢いで凄む。


「オイ、はっきりと言わねぇか? ここで俺の怒りを骨身に刻みてぇのか!?」

「ひッ?! ち、ちがうんです。その、なんというか、あのクソ毛野郎にやられたのは間違いないんですが、ありえない状況で勝ったですよ」


 サンダーは男を乱暴に床に転がすと、「話してみろ」とケリつける。

 男は苦しげに腹を抑えつつ、自分が見たことを詳細に話すと、サンダーは「ありえねぇだろが!」と言いながら男の顔面にケリを入れて気絶させてしまう。


 それを見たリザは、「まったく野蛮なヤツね」と言いながら、気絶した男へティーポッドのお茶をかける。

 熱湯とまではいかずとも、かなり熱いお茶だったのだろう。

 男は飛び起きると「あぢいい?!」と泣き叫ぶが、そんな事は知った事かと、ドッヂが優しく笑いながら男の背中を張り手をして、すくい上げるように立たせる。


「ぐぁああ痛えッ……」

「ボクの愛に感謝しろよ? それ以上倒れていたら、マゾ女に何されたか分からねぇからなぁ。それでその武器が戻ったってのをよぉ、もっと詳しく話せや」


 男は痛みと熱さに耐えながら、その時感じたことや見たままのことを話す。

 そこに憶測も入れてた感想もいうと、「テメェの感想なんて聞いてねぇ」とドッヂが張り倒してしまう。


「なにやってんのよドッヂ。せっかく情報を持ってきてくれた無能を気絶させちゃって」

「ちっ、ひ弱すぎんだろ。で、どうするんだサンダー? その正体不明なスキルか何かを持っているヤツがボクは居ると思うんだがよ?」


野生あくとうの勘か? テメェの勘はよく当たるからな……まぁなににせよ、やる事ぁ一つだろ?」


 サンダーの言葉に二人は頷くと、一番原因を知っているであろう男へと会いに行くために、部屋を出ていく。

 情報を持って来たのに報酬も貰えず、気絶した男は今は不幸だろう。しかし男は後に思う――ついていかなくて本当によかった、と。



 ――その頃、信長たちは冒険者ギルドの前に来ていた。

 冒険者の街というだけあって、建物自体とても立派であり敷地も広い。

 そこへ何人もの人々が出入りを繰り返していた。


 そんな光景を信長は楽しげに見つめていたが、ミリーに袖を引かれてギルドの門をくぐる。

 目的はこの世界で食っていくためと、信長がミリーの仕事にとても興味があったからだ。

 しかしミリーは不安でいっぱいだ。なにせ冒険者ギルドといえば、荒くれ者の集まりである。


 特に入口付近に溜まっている、中級クラスとも言える〝アイアン〟のギルド証を持つ輩は、新人いびりが楽しみの一つだ。

 信長が先頭で入ると、なぜかハゲた男の足が信長の行く手を阻む。


 だから当然、こうなる。


「オイ! テメェ何オレの足を踏んでやがるッ!」

「ん? 藤吉郎サルよ。何やら聞こえぬか?」

「ウキキ。さて、気のせいではございませぬか? サルめには羽虫の音しか聞こえませなんだ」

「羽虫か。なれば五月蝿いのは当然よな」


 そう言うと、余と藤吉郎サルは顔を見合わせて大きく笑う。

 それを見た余に足を突き出してきた羽虫が、なにやらお怒りらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る