第4話:ネクロマンス
この復活には術を施した余も驚いた。いや、驚きを越して目玉が飛び出るほど思わず見開く。
まず壊した荷台部分だったが、余が斬った順と同じく動き出してくっついてしまう。
しかも、なぜか新品同様になり、なんとも言えない妖気……いや、魔力というのか? そういう類の物が纏わりついている。
そう言えば鬼切丸も
さらに驚愕が続く。なんと死した馬がビクリと動くと、流れ落ちた血液が地面より傷口へと戻り、さらに落ちた首がズルリと動き出してくっついてしまう。
ほどなくして完全に元に戻ると立ち上がり、「ギヒィ!」と赤い瞳を怪しく光らせて
しかも元は白馬だったと思うのだが、なぜか黒馬になったのは余がそう願ったからか?
貧相な馬であったから、デカくて強靭な黒馬なら見栄えもしようと思ったのだが、まさかそうなるとはな……。
「こいつはたまげたのぅ……」
「え!? ジョニーが生き返ったでアリマス! しかも馬車まで元に戻った……? あれ? こんなに立派な馬車だったかな? ってジョニーが黒くたくましくなってるうううう」
鬼切丸が
この疲労感に似た感覚は、魔力をごっそりと持って行かれたからかもしれぬな。
「ふぅ、意外と疲れるなこれは。ネクロマンスとはそういうものではないのか?」
そう言うと、ミリーは「いやいやいや、何を言っているのでアリマスか!」と両手を大げさに振って話す。
「ネクロマンサーとはいえ、死者の完全復活はそんな簡単ではないのでアリマス。通常、死者の復活というのは〝アンデッドのみ〟に限定されるですが、この復活はまさか……」
ミリーはゴクリと生唾を飲み込むと、おそるおそる
そっと触れると、また「い、生きている……けど死んでいる……」と言った後、「ギャアア!?」と言いながら後ずさる。
「まったく、そちは騒がしいのぉ。どうしたと言うのだ?」
「ど、ど、どうしたも、こうしたもないでアリマス……ジ、ジョニーは高位アンデッドになったですよ……」
「高位あんでっど? 先程から気になっていたが、それは何だ?」
「それは――」
ミリーの話は実に興味深いものだった。
これまでの事から余の力である、ネクロマンスは死者の復活が出来るのは分かっていたが、どうやら生前に戻るのではなく、動く死体として黄泉還えるのが普通のようだ。
しかも大抵は腐っていたり、骨だけの体で動き回るらしい。
ところが黄泉還えったジョニーは、生前と変わらぬ姿どころか、それ以上に強化されて色も姿も変わってしまったという。
そして聞いたことのない
そもそも歴史に名を残したネクロマンサーであっても、無機物を復活させる事など出来ないし、さらにその対象物が元の姿よりも価値もふくめ、力あるものになっている事などありえないという。
唯一似た魔法があるらしいのだが、ドワーフという種族のみが使える魔法でも、こんな事は出来ないらしい。
「――つまり、信長はネクロマンサーとして破格……いえ、規格外の天才的な術者だという事でアリマス!」
「うむ。さもあろう。なにせ余は織田信長だからな。はっはっは!」
ミリーは「すごい自信ですねぇ……まぁ」と言いながら、ジョニーへと近づくと首筋へと触れながら「それも当然でアリマスな」と呟く。
「ぬ? 森の奥から複数の気配を感じるぞ? これは……大虎と同じ気配だな」
「え、今ミリーもそれを言おうとしていたのです。まさかドルイドのミリーよりも早く感知したのですか? しかも大虎とまで分かるなんて……。あぁ、ドルイドと言うのは司祭という意味で、この世界では植物系統の魔法を使う者の事をいうのでアリマス」
「ほう! それは面白いな。詳しく聞きたい所だが、今は転身したほうが良さそうだ」
「転身? 逃げるのではなく?」
「余は逃げるのは好かんから、進む方向を変えるだけというまでよ」
「ハァ、そういうものですか。なら転身するでアリマス。そうと決まれば馬車へ荷物を」
「うむ! 荷物を積んでさっさとずらかるぞ!」
荷物を積みながら「それって逃げると同じでは」とミリーがジトリとした瞳を向けるが、なかなかどうして、熱い視線には慣れているので気にもせぬわ。
ほどなくして剥いだ部位を積み終わり、ミリーがジョニーの手綱を握った瞬間、「ギヒィ」と馬らしからぬいななきと共に馬車は動き出す。
「ッ!? 何も指示していないのに、勝手に動き出した。ま、まさかジョニーは何をするべきか分かるでアリマスか?」
そうミリーが言うと、ジョニーは「ギヒィ」と頷きながら速度を早める。
「この世界の馬は賢いのだな」
「……違うですよ。ジョニーは普通の馬でしたが、復活してからこうなったでアリマス」
驚くミリーと森の中を疾走する。
すでに元の場所から遠く離れ、森の外が見え始めた頃に大虎の叫ぶ声が森の奥より聞こえた。
「さて、これからどうするのだ?」
「そうですね……正直行くあてが無いのです……」
あれほど元気だったミリーだが、下を向いてしまい何かを堪えているようだった。
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