第18話 力持ちな少年VS特異モンスター
「GAAAAAA!!!!!」
……イライラする。物凄くイライラする。自分に対してもそうだし、目の前のクソ豚に対してもそうだ。後ろで奏が傷ついている。傲慢かもしれないが、それでも、もう少し早くくればきっと奏に傷一つつけさせなかったのにと言う後悔が胸を締め付ける。
……殺す。俺を保つためにも、こいつは絶対に────
「……仮面X、忘れちゃ駄目」
っ、そうだった。俺は怒りのあまり自分が今ただの学生ではなく螺旋所属の一探索者だという事を忘れていた。それを錐揉さんのその言葉で思い出させてくれた。
「……ごめん。我を忘れてた。でもこのまま我を忘れたまま奴をぶっ殺さないと気が済まない」
「……私が彼らをここから逃がす。それまで耐えて。倒そうなんて考えちゃ駄目……きっとあいつ、苑宮さんが前に言ってた特異モンスターのはずだから」
「……そうか。分かっ、たっ!!!」
「……っ!ちょっと!?」
「はああああああ!!!」
俺はとにかく殴るためだけにエンペラーゴブリンと戦った時以上の速度でキングゴブリンの懐に入った。
ここで絶対に殺すっっっ!!!
「GUAAAAA!?」
殺意のこもった渾身の一撃がキングゴブリンの太った腹に文字通り突き刺さった。そのまま押し込めば、刺さった場所から血が奴のドバっと出てきた。
すると、ジュクジュクと俺の腕が刺さっている場所の肉がうごめきだした。もしかして修復しようとしているのか……?そう言えば特異モンスターの殆どがそんなことできるって言ってた気がするな。
まぁその回復力を上回る攻撃を与えればいいだけ。簡単なことだ。
「気持ち悪い」
「GAAA!?」
正直に思ったことを吐き捨て俺は即座に刺さったままの腕を横に振るう。そして奴の横っ腹をえぐった。本当に気持ち悪いな。汚い血肉がこびりついて変な感じだ。
俺はそれを振るい落とすと未だ回復しきっていないキングゴブリンの姿があった。道中先生の死体を見つけたが、きっと戦ってたんだろうなと思いつつ素通りした。だがこの感じを見ると、死んだ先生もまあまあいい働きをしたんだなとちょっと見直した。
奏を守り切れていないという時点で最初から評価は地に落ちていたが。
「ふんっっっ!!」
「GAAA!?」
そんな感情を込めた一撃を、さっきと同じ箇所に向けて放った。それも一度だけじゃなく何度も何度も攻撃を加えた。
このまま押し切るっっっ!!
「離れてっ!」
「っ!」
その時、奏の叫び声が聞こえてきた。俺はその声に反射的に従い後ろに下がった。
するとさっきまで俺がいた場所を巨大な剣が通り過ぎた。だが更に嫌な予感がした俺はまた飛び下がる。直後、頭上から細い何かが振り落とされ、先端が地面に突き刺さった。それは突き刺さったまま畝っていて、なんなのか分からなかった。
「これは……」
「……背中を見て」
仮面Yもとい、錐揉さんの言葉の通り奴の背中に注目してみると、そこから触手が背中から生えていて、それが今目の前で畝っているのと繋がっていた。
「GURRRRRR……」
奴は俺の拳を警戒して、こんな触手を出したのか……どうやら奴は俺を脅威と見做したようだ。だったらとにかく近づいて攻めるしかないな。
────いや。
「周りの安全は確保した──……あれやるんだ」
「この間に手ェ出すなよ。こいつは俺の獲物だ」
「……まだ奴は本気を出してないから。さっきも言ったけど、倒すなんて考えちゃダメだからね」
「分かってる」
「……ほんとに?」
「あいつの視界にはきっと俺だけしか映っていないはずだ。だから俺が誘導するから彼女らを頼む」
「……気をつけてね」
「おう」
そう言って彼女はここから離れ、奏たちの元へと向かって行った。その間も奴は律儀に攻撃せずにじっと俺を見つめていた。本来だったらこの間にも彼女たちを攻撃できたのにしなかった理由はきっと今俺が上の層でやった構えをしているからだろう。奴はきっと今の俺のこの構えに警戒している。
グッと重心を下げて、右足を後ろにずらしたこの構え。それは偶然の産物で生まれた技────
「空撃ちっっっ!!!」
弓のように引いていた右腕を一気に前に突き出すと、音速を超えた右腕に空気が纏われ、それが見えない砲弾となって奴の胴に向かって放たれた。
「ッ!?GAAAAAA!!!」
咄嗟に背中の触手を勢いよく振るって空気の塊を払い消し去ったが、そのうちに俺は奴の懐に入っていた。
「死ねッッッ!!!」
「GAAAAAAAAA!?」
そして下から飛んで奴の太い顎に向かってアッパーカットを放ち、あるかも分からない脳を揺らした。
「GU……」
「はあっ!!」
空中にいた俺はそのまま怯んで動けない奴の首目掛けて蹴りを放つ……が、それは豊満な脂肪に防がれてしまった。
防御が硬いな……やはり外殻はその脂肪で殆どダメージが入らない。ならば内側を壊せるような攻撃を放つしかない。きっと殴り方や体の動かし方を変えるだけで震動を全て体の内側に伝えることができるはずだ。
そう考えた俺は奴の意識が正常になり始めた間に一旦下がり、右から奴の背中に向けて回り込もうと走り始めた。
しかしそんな俺を追うようにして触手が地面に突き刺さり始める。せっかく近づこうにも近づけない状況が生まれてしまった。
「増えた……?」
更に奴の背中から何本もの新たな触手が生えてきて、それらも俺を追い始める。
「チッ……」
思わず舌打ちしてしまうほど、この永遠に伸びてくる触手が鬱陶しかった。めんどくさいな本当に……。
このままこの状況が続けば先にくたばるのは俺だ。だったら相打ち覚悟で肉薄するしかない……!
「掴んで……千切るッ!!」
「ッ!?」
迫り来る触手をなんとか見切り、掴んでは千切ってを繰り返しながら少しずつ奴に近づいていく。
「……?」
だが俺はここで違和感を覚えた。奴が俺が近づいて来ているにも関わらず何故か余裕の姿勢を見せていたからだ。
そして何本目かの触手を千切った時、俺は気づいてしまった。
「まさかいつの間にか持っていた剣を見せない為に、触手で攻め続けていたのか……!」
「GAAAAA!!!」
既に今俺がいる場所は奴の剣の間合いだ。まずい……!
このまま進んでしまえば……俺は……!
「GAAAAAAAAAA!!!」
まるで勝ったとでも言わんばかりの咆哮を上げたキングゴブリンはその巨大な剣を横薙ぎした。
飛んで避けようにもその後触手が迫ってくるし、腕で防ごうにもこれまた触手で背中を突き刺してくる……八方塞がりだ。
「く……そがっ……!」
このまま、死んでたまる────
ザシュッッッ!!!
その音が聞こえた瞬間俺の視界がぐるりと回り、地面に横たわった。そして次に見えたのは上半身が失われた、俺の下半身だった。
それを認識した時徐々に体温が失われていくのを感じ始めた。あぁ……俺はここで、いや、嘘だ……!
「まだっ……!」
諦めたくない。こんなところで終わりたくない。だがそんな思いとは裏腹に俺の体から少しずつ力が失われていく。
「あっ……ぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
まだ何も成しえていないのに、ここで死ぬなんて許されるわけが……ないのに。ないのに。なのに……。
どこで間違えた……?いや、何も間違えていなかったはずだ。何も……何も……。
────何も?
いや、あるじゃあないか。俺が犯したただ一つの間違いが、現在進行形で、あるじゃあないか。
────弱いという、ずっと犯し続けていた間違いが。
そうだ。そうじゃあないか。生温い環境下に置かれていたせいで忘れてしまっていた。気付かぬ間にうぬぼれてしまっていた。
なんて様だ。こんな様を晒して死ねるわけない。何より、奏の目の前でこんなのを晒せるわけがない。
「……殺すっ!殺して……間違いを……正す!」
弱いは悪だ。故に、今ここで、俺の中に在る悪を正す。
それを成すために、俺は頭に浮かんだ最適解を言葉にした。
「────
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