第11話 未熟な少年少女VS第十五層ボス

「ここが、第十五層……でっけぇ扉」


「俺もここに来た時そう思ったぞ!」


「うるさい」


「すまない!」


「……はぁ」


 俺たち以外に人がいないことを確認したのか、はたまたもう慣れたと思われているのか、洲崎さんはもう静かにうるさくすることをやめた。


 だが俺はともかく錐揉さんは未だに洲崎さんの大声を鬱陶しそうにしていた。


「……終わったら耳栓買おうかな。いる?」


「……俺はいい」


 俺はそんな錐揉さんの提案に対し一瞬それもいいなと頭をよぎったが、だがそれだと洲崎さんに失礼だと思い、思わずいらないと言ってしまった。


「それでは、中に入ろうではないか!」


「そうね。二人とも、準備はいい?」


「「はい」」


「それじゃあ、開けるわよ」


 そう言って苑宮さんはその巨大な扉に触れた。すると──



 ゴゴゴ……。



「勝手に動いた……」


「こんな大きな扉、普通に動かせるわけないじゃない」


「それもそうですね」


 一人納得した俺は錐揉さんと共に扉の奥へと進み始める。その後ろ追う形で苑宮さんと洲崎さんが入ってきた。


 中に入れば周囲の壁にある松明によって中が照らされており、薄暗くもしっかりと見えるようになっている。これなら戦えるな。


 そしてこの部屋の奥を見れば──



「──いた」



「GURAAAAAAAA!!!!!」



 第十五層──通称中間ボス層。中間あっても別に中間ではないがそれでも他の層とは一線を画すここの、その中央に今まで見たモンスターの二倍以上の大きさはあるだろう、巨大なゴブリンが俺たちの前に現れた。


「エンペラーゴブリン。ゴブリンたちの長だ」


「……でかい」


「それじゃあ、お前たちでこいつを倒せ!下がるぞ苑宮!」


「えぇ。それじゃ、健闘を祈ってるわ。でも死にそうになったら助けてあげるから安心して戦ってね」


 そう告げて二人は後ろに下がって行った。残った俺と錐揉さんは見合わせる。そして頷きあった後、俺たちは一気に駆け出した。


「GURAAAAAA!!!!!」



 ──先手必勝。



 錐揉さんがエンペラーゴブリンの後ろに向かって行くのと同時に俺は自分にターゲットを向けさせるために一気に奴に近づき、渾身の一撃を放った。


「はあっ!」


「GURAA!?」


 全体重を乗せた一撃は、咄嗟に出てきた巨大な剣の樋によって防がれてしまった。だが俺はそれに驚いて動きが止まることなく一旦後ろに下がる。だが奴は想像以上の攻撃が来たのか、動きが止まった。


「──……今」


「GU!?」


 そして周囲に溶け込んで透明になっていた錐揉さんの投げたナイフが奴の首に突き刺さった。

 エンペラーゴブリンは慌てて首に刺さったナイフを抜いたが、その隙に俺は奴の懐に入っていた。


「ふっ!」


「GAAAA!?」


 そしてもう一度、全体重を乗せた一撃を放つ。今度は剣で防がれることなく奴の胴体にぶち込むことができた。


「GAAAAA!!!」


「っ、まずい!!」


 俺はもう一発当てようとしたが、奴が苦し紛れに手に持っていた俺たちの背丈以上の大剣を思いっきり横薙ぎした。


 俺はそれを完全に避け切ることができなかったが、なんとか当たる前に腕でガードしたお陰でかすり傷程度で済んだが、それでも下がらざる負えなかった。


「っっっ!」


 下がる際に勢いをつけすぎてしまったせいで壁にぶつかりそうになるも足を踏ん張らせ、なんとか防ぐ。あの横薙ぎはきっと身を隠している錐揉さんにも攻撃しようとして放ったものだろうが、戦い始める前に話し合って彼女は常に奴の後ろかつ離れたところを維持することになっている。


 だからきっと大丈夫なはずだ。


「ふぅ……」


 腕から血が流れだす。が、それもすぐに治った。


 俺は手のひらを握って開いてを何度かし、しっかりとを馴染ませる。これで認識のズレは起きないはずだ。


 面倒だが仕方ない。


「さて……と」


 俺がこんなことをしていても何故攻撃して来なかったのかと思えば、錐揉さんがエンペラーゴブリンの意識を翻弄させ、俺にターゲットを向けないようにしてくれていた。


 だがそれだけではない。


「……増えた」


 エンペラーゴブリンは見えない錐揉さんからまるで逃げるようにどしどし動きながら、地面から10匹程度のゴブリンを生み出したのだ。


 流石ゴブリンの支配者と言う異名を持つモンスターだ。第十層にはこれの一つ下のキングゴブリンと言う、ゴブリンの表の王がいたが、奴でもこんなことはできなかった。


 結構めんどくさいな……!


「GUGYAGYA!!!」


「GYAGYAGYA!!!」


「はっ!」


 エンペラーゴブリンの気を錐揉さんが引いているうちに俺は出現したゴブリンらを素早く屠ることに。


 奴ら一体一体ごとの強さはそれほどではないが、束になって襲い掛かってくるとかなりめんどくさい。


 後ろに回り込もうとした奴から……潰す!


「ふっ!」


「GYA!?」


 早速一体殺した俺は続けざまに正面にいた二体を殴殺した。残り七体……!


「くっ!?」


 しかし俺がその七体と対峙しようとした時、錐揉さんの唸り声が聞こえた。どうやら何らかの方法で居場所がバレかけているみたいだ。


「錐揉さん!チェンジ!」


「……っ!分かった!」


 錐揉さんの居場所がバレるのはまずい。そう考えた俺は一旦相手を変えることにした。きっとこのままだとまずいことは察していたのだろう、俺の叫びにすぐ反応した彼女は俺がエンペラーゴブリンに向かって走り出すと同時に奴から離れた。



「グッと足に力を込めて──解放!」



 大穴の中でこそ出せる最高速度でダンジョン内の壁を駆け出した俺は、壁に幾つもの足跡を作り出した後、壁を、奴の背中にドロップキックをかました。


「GAAAAA!?」


 そして全身を捻って奴のバランスを崩し、吹き飛ばした。これでなんとか錐揉さんから離すことができただろう。


 その際、奴が持っていた剣が手から離れたため俺は即座に剣を粉々に破壊した。


「こっからタイマンだああああ!!!!」


「GAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


 俺が叫ぶと剣を破壊された怒りか、俺の叫びに呼応するかのように奴も叫んだ。


 なんというか、今無性に胸が熱く感じる。楽しくなってきた……!


「殴り合いいいいいい!!!!!」


「GUAAAAAAAAAAAA!!!!」


 俺が迫りくる拳に合わせて自分の拳をぶつける。衝撃が全身を襲うがそんなのが気にならないくらい、もっと殴りたいという衝動が俺を突き動かした。


「はははははははははh!!!!!!」


「GAAAAUAAAAUAAAUAAA!!!!!」


 殴り殴られ。全身いたるところに青痣ができるがそれは奴も同じだった。そして俺のスキルはその青痣すらも糧にしてくれた。


「どうしたどうした!?勢いがなくなってきてんぞおおおお!?」


「GU、GUAAAAAAAAAAAA!!!!????」


 拳がぶつかればぶつかる程、筋肉に傷がつけばつくほど、弱まれば弱まる程俺のスキル“力”は筋肉全体を修復し、より強固にする。


 体力が尽きるまで、俺は殴り続ける。それが俺が強くなるために近道だから。それに気づかせてくれたのは、今目の前にいる、お前だ。


 だがそんな夢みたいな時間も、もう終わりが近づいていた。


「ふんっ!!!!」


「GAAAA!?」


「錐揉!」


「……うん」


 体力がなくなったところに俺の渾身の一撃を喰らったエンペラーゴブリンは壁に激突しその衝撃で怯んだ。奴はそれでも立ち上がろうとするが、首元には既にゴブリンを殲滅していた錐揉さんが立っており──


「……はっ」


 小さな声と共に飛び、エンペラーゴブリンの心臓に突き刺した。


「ッ!?GAAAAAAAAA!!」


「……っ」


 死に際の咆哮に一瞬怯むも、黙らせるためにさらに深くナイフを押し込んだ。


「GAAAA……GUA、AA……」


「はぁ……はぁ……やった……」


 最後の足掻きで錐揉さんをその大きな手で掴もうとしていたがすんでのところで止まり、力なく地面に伏せた。


「ふぅ……」


「すげぇな!まさか二人で倒すなんてよぉ!」


「そうね。彼らと同じ頃の私たちでもできなかったことだわ」


 疲れて座り込んだ俺と、ゴブリンの支配者エンペラーゴブリンの死体の上で倒れている錐揉さんの元に二人がやってきてそんなことを言った。


「あ、あざっす」


「……」


 俺は返事するだけで精一杯だったが、錐揉さんは返事すらできないようだった。


 こうして、俺たちの初めての中間ボス層攻略は幕を閉じたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る