第10話 優秀(?)な学生の二人VS五月蝿い男

「今から大穴に潜れ」


 事務所に着いて早々坂本さんにそう言われ、硬直してしまった俺と錐揉さん。そして苑宮さんに引っ張られるような形で死の大穴へと連れられてしまった。


「おーい!こっちだ!」


 そして転移陣から死の大穴へと向かっていると、入り口に知らない男性が俺たちに向かって手を振っていた。


「あの人は……?」


「彼が私たちのもう一人のメンバーで、あの日風邪で休みやがった、洌崎すざきよ」


「あぁ、彼が」


「……」


 彼がいる場所に近づいていくと、その全貌が見え始めた。ガタイが良く、快活そうで笑顔が明るい。

 その人は一言で言えば豪快と言う言葉を擬人化したかのような人だった。


 なんて言うか……人が良さそう。


「俺の名前はもう聞いていると思うが洌崎紀仁すざきのりひとと言う!よろしく!XY!」


「……なにその仮面Xと仮面Yって」


「だって二人とも仮面をつけているからな!なんか呼び名が必要だろう?」


 確かにいつもみたいに錐揉さんと呼ぶわけにはいかないからな。こうして素性を隠し通すことを条件にこうして螺旋に加入したのだから。


 こうしていれば、どんな状況に陥ったとしても他人だと言い張ることができる。……らしい。


「それじゃあここで呼び方を決めようではないか!」


「……ここじゃあ注目されるから駄目よ。ほら」


 そう言って苑宮さんが向いた先を見れば、いろんな人が俺たちのことを見ていた。


「……洌崎、私たちは一応日本最強のチームで、螺旋はほかの国の人にも注目されるようになったのよ?少しはそう言った自覚を持ちなさい」


「……む、確かにそうだったな。だが関係ないのではないか?俺たちはずっとこのままでいけば問題ないだろう!」


「……それもそうだけど」


「ともかく、坂本に聞いたのだろう?今日大穴に潜ると!では早速行こうではないか!」


「ちょっ……!?はぁ……ごめんなさいね、二人とも。それじゃあ彼に続いていきましょうか」


「「……はい」」


 俺は先に進んでしまった洲崎さんを追う形で大穴へと潜り始めた。






「ふむ!二人とも強いな!」


「どうもっす」


「……あ、ありがとうございます」


「仮面X!もっと元気に!仮面Y!そんな縮こまらなくてもいいんだぞ!」


「……あなたが大声出すから二人とも怖がってるんでしょうが」


「む……そうなのか。子供というのは難しいな……!だが若い才能はやはり面白い……!」


「……どうして声を小さくしたはずなのにこんなにうるさく聞こえるの?」


「……俺に聞くな」


 第十一層。学生制限層よりも深いこの場所で、俺たちは早速モンスターと戦ってサクッと倒した。そんな俺たちの戦闘を見た洲崎さんからかなりの好評を得ていた。


 その際の彼を見て、仮面Y──もとい錐揉さんが俺の後ろに隠れながら答えずらいことを聞いてきた。そんなの、俺だって知りたいわ。


「これなら即戦力として問題なさそうだが……仮面Xは戦闘技術が、仮面Yは攻撃力が足りないな……!」


「……どうしてうるさいのにそういう見極めが一瞬で出来るのかしら」


「これが俺の特技の一つだからな!」


「うるさいわよ」


「む、すまない……!」


 洲崎さんから言われたことを受けて、俺はさっきの戦闘を振り返る。確かに、力でゴリ押していた部分がかなりあり、攻撃も大雑把になってしまった。


「技術……」


「技術は大穴の外でも鍛えることができる……!だから週2で鍛えようではないか……!協力するぞ……!」


「ありがとうございます」


 正直学校で習う戦闘技術はためになるとは思えないため手を抜いていたが……やっぱちゃんと受けようかなぁ……既に成績が危ぶまれているが……まぁいいだろう。


 だが学校で習うより洲崎さんに習った方がいい気がする。学生相手だと怪我させてしまいそうだし。


「きりも──仮面Yは私と一緒に研究しましょう?」


「……ありがとうございます」


「取り敢えず、マクロな課題は分かったな!今度はミクロな課題を見つけるために第十五層──階層ボスを討伐するぞ!」


「「っ!?」」


「だからうるさいっ」


「む、すまない……!」


 洲崎さんが苑宮さんに叱られている傍で、俺と錐揉さんは驚きのあまり言葉を失っていた。


「……大丈夫かな」


「……」


 錐揉さんが不安そうにそう呟くが、俺はそれに応えることができなかった。


 何事も、初めてというのは怖いものである。

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