第12話 恋する少女VS見えないもの

(side 千代久奏)


 隠している。


「それじゃあ行ってくる」


「……えぇ」


 間違いなく、彼は隠している。


 つい1ヶ月前くらいから、彼はこうして休日に一人でどこかに行くようになった。それに疑問を抱いた私はこっそりと彼のあとをつけようとしたが──


「……あら?」


 いない。


 彼は私の追跡を掻い潜って、姿をくらませてしまった。


 身体能力だけは高い彼のことだ、きっと私が後を追っていることなど気づいていたのだろう。彼が本気で走れば私はついて行くことができない。


 こうなってしまえば仕方がない。私は私でできることをしよう。


「んで、こんな休日にどうしたの?いつもみたいに関次くんを追わないの?」


「いつもみたいにって……私はそんなに菅十を追ったりしてないわよ」


「でもこのカフェのそばにあるのってさ──」


「それ以上言うと……分かるわよね?」


「はいはい、分かりましたよお嬢様」


 いつものような陽気さを消した、素の明里が放ったジョークを本気で返すと、彼女はわかっていたとでも言わんばかりの表情でひらりとかわした。


「ん?」


「どうしたの?」


「あぁいや、あそこからほら、人が出てきた──って、あれって螺旋の苑宮さんじゃん!」


「……えーっと、螺旋って確か日本一位のチーム、だっけ」


「そう!日本最強の探索者チーム、螺旋!リーダーの坂本颯さかもとはやて率いるエリート集団で、攻撃力、防御力、そしてサポート力どれを取っても一流かつ世界でも十分通用できる日本で数少ないチームなんだよ!」


「へ、へぇ……」


 私は普段とはまた違った、興奮して早口で話す明里に思わず引いてしまった。が、螺旋なんてチーム名、というか、探索者がチームを組んでいることは知っていたが、どんなチームがあるのかについては知らなかった。


「あ、もしかして、詳しく知らない?苑宮さんたち螺旋のこと!」


「え、えぇ。ネットとかあんまり見ないから……」


 別にネットなんか見なくても経済の動向なんて大体分かるしエンタメとかには興味なんてないし。


 そんなことを話すと明里は大袈裟に驚いたような表情をしていた。


「えぇ!?今時SNSとか見ない人なんて珍し!あ、でも確かにエンタメとか興味無いって前言ってたっけ」


「……あれの何がいいのか昔から分からなかったのよ」


「へぇ……じゃあ螺旋について色々教えてあげる!」


 そう言って彼女は自分のスマホを取り出して何か操作をし始める。それをオレンジジュースを飲みながらぼーっと眺めていると、スマホの画面を見せてきた。


「……これは?」


「今月の換金ランキング!日本限定のだけどね!下にスクロールすれば世界のランキングも見れるよ!」


 そう言われその“換金ランキング”を見てみる。


 換金ランキングとは、ゴルフでいうところの賞金ランキングと同じようなものだ。

 どれくらい稼いだのか。どれくらい魔石を持ち帰り、換金したのか。それをチーム毎に計測し、ランキングにしたものである。


 そしてそれを見てみると、日本限定のランキングの一番上に“螺旋”の文字があった。その横には23億と書かれている。


「1ヶ月で23億稼いでるんだ。その割にあの人の服、確か市販のものだけど……」


「装備に金を費やしてるんだよ!特に苑宮さんは後衛職だからね!モンスターを近づかせないためにいろんな対策を講じてるらしいよ!」


「へぇ……」


「まぁ、彼女のスキルが“光の矢”だからってのもあるだろうけどね……」


「光の矢?何そのスキル」


「光の矢はね、スキルの中で言ったらよく出る、ガシャで言うところのアンコモン的なスキルなんだよ。威力指数も40ちょいで、光で出来た矢を光速で放つスキル。だけど速度を優先しすぎて威力が残念になってしまうスキルでもあるんだよ。モンスターの注意を引く分には有用なスキルだから、使っている人のほとんどが前衛のタンクとかなんだけど、彼女はそんな常識をぶち壊した、凄い人なんだよ!」


 威力指数とは、スキル指数と呼ばれるそのスキルの有用性や強さを示した値をより詳しく見たときのもので攻撃系スキルのモンスターに与える威力を数値化したものだ。他にも防御指数、サポート指数がある。


 ちなみに菅十のスキル指数の中の威力指数は45で、私のはサポート指数になりしっかりと比較はできないが、98だ。菅十の数値は攻撃系スキルの中では下の上あたりであまり良くないと言われており、私の数値は学生でなければすぐにでもチームの勧誘がくるほどにまで優秀だとのこと。


 私はその数値──特に菅十の数値に違和感を覚えたのだが……菅十本人が何故かその数値に満足しているのが気になった。


 まぁそんなことはどうでもいい。私は明里が言った、“常識をぶち壊した”の部分が気になり聞くことにした。


「常識をぶち壊したって、どう言うこと?」


「彼女は自分が得たスキルが光の矢とわかったその日から大穴に潜り続けてそれを鍛え続けた。知ってるでしょ?大穴のモンスターを倒せば倒すほどスキルは成長するって」


「えぇ」


「そのスキルの成長度はその人の才能にもよると言われてるんだけど……彼女はそれに賭けたんだよ。そして、その賭けに見事成功した!今や彼女の光の矢の威力指数は脅威の135!」


「135!?」


 私はその数値の高さに思わず驚いてしまった。威力指数135だったら第三十層くらいまでのモンスターならほぼ一撃で沈められるほどの強さがある。


 元の威力指数と比べたら3倍以上にまで成長している。私はその努力に一種の狂気を感じた。


「それは凄いわね……」


「だよね!そんな本物があんなところにいるなんて……すご──って、誰?あれ」


「え?」


 と、さっきまでキラキラした目が一瞬で冷めたので一体どうしたのかと見てみれば、そこには二人の仮面をつけた人が苑宮と言われていた女性と一緒に建物から出てきた。


「あ、そう言えば」


「ん?」


「SNSで騒いてた気がする……螺旋が新メンバーを加入させるんじゃないかって……まさかあの仮面つけている二人が……?」


「……ん?」


 私は一瞬その仮面の一人に彼の面影が見えたような気がして……だがすぐに気のせいだと切り捨てた。


 もしこの時、確認をしていれば何か変わっていたかもしれなかったのに。

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