第13話 頑丈な少年VS何度目かの大穴
「おはよー」
「おっすー」
朝。いつもと同じようにクラスメイトと挨拶を交わした俺は、自分の机に向かった後鞄の中から今日行われる何度目かの実地研修のパンフレットを出した。
このパンフレットは昨日配られたもので、まだ中身を確認していなかった。それについて奏に怒られてしまったのだが……どうせ今回の研修で潜れるのは精々第十層程度だろうから、あんまり興味が湧かなかった。
それについ先日、坂本さんから不穏なことを言われた。
『……最近第十層付近で妙な噂が出回り始めた。恐らくお前ら二人は後ろに下がらされるだろうが、気を付けて欲しい。一応、その仮面を持って行って万が一に備えろ』
リーダーに言われた通り、今着ている制服の内ポケットの中には小さくした仮面が入っていて、スイッチを押せばすぐに大きくなる優れモノだ。
これを付ければ身バレする危険性は無いとみていいだろうが、奏がなぁ……もしかしたらバレるかも……まさかな。
正直何も起きないといいけれど、リーダーの予感、それも嫌な物ほどよく当たるのだとか。苑宮さんが言っていた。
「今日の実地研修何回目だっけ?」
「確か六回目だった気がするけど」
「今日第十層まで潜れるんだろ?楽しみだなぁ……!ようやく本気を出せる」
視界の端でそうやってワクワクしているグループがいた。そいつらはこのクラスの中でもつい先日行われたばかりの指数測定でスキル指数が高かった人たちが固まっていて、度々他のグループと衝突していた。
そして今回も────
「今日の結果が来年のクラス決めに影響してくるんだろ?ま、俺らは当然上のクラスに行くんだから、他の奴らは精々俺たちの邪魔だけはしないで欲しいなぁ!」
「特に──お前だよ、関次!」
「……?」
と、いつもみたいに他のグループに喧嘩を売るもんだと思ってたが、何故か俺個人を指名してきた。なんでなんだ?
あ、俺のスキル指数が低かったからか。俺の指数値は45と、あの集団と比べると二倍くらい差がついていたからなぁ……。でもチラッとパンフレットを確認したけど、今回俺ともう一人はかなり後方で待機させられる感じだった。だからどう足掻いても奴らの邪魔にはならない。もしかしてあいつらパンフレット見てないのか……?
ありえそうだな。
「なんでお前みたいな雑魚が研修に来るんだよ。迷惑なんだよ」
「適当な理由付けて休めばよかったのによぉ。俺らが前言ったみたいにさ」
「研修は絶対に参加しないといけない授業だぞ?なんで休まないといけない?」
「それでも休んでる奴はいるだろ。お前もそんな奴らみたいに休めばよかったんだ」
「理由のない休みはサボりだぞ?」
「だから仮病でもなんでも使って休めっつってんだろ馬鹿が!」
「これだから雑魚は。本当に目障りだ」
「……」
それから俺が黙っているのをいいことにあれやこれやいろんなことを言ってきた。にしても、よくもまぁそんなにつらつらと言葉が出るもんだ。正直探索者じゃなくて落語とかの世界に入った方がいいんじゃないか?って思うくらい。いや、息ピッタリに罵詈雑言を言えるんだからお笑い芸人の方がいいか。
「とにかく、お前は今日出しゃばんなよ」
「俺たちは上に行くんだ。足手まといがいると迷惑だからな」
「もしくは、肉壁になるとか?その方がいいかもなぁ!」
「アハハハハ!確かに!おいお前、今日俺たちの肉壁になる権利をくれてやるよ。モンスターの攻撃が来たら真っ先に突っ込めよ」
「……」
何と言うか……ここまで来ると流石の俺でも呆れて何も言えなかった──っ!?
「……!」
「……奏ちゃん、ステイ、ステイ……!」
こ、こわッ……横の馳寺さんが何とか奏を冷静にさせようとしてるけど、全く聞く耳を持たずにこっちを睨んできてる。俺じゃなくてまだ罵詈雑言が絶えてないこいつらに向けてだけど。
「お前ら、そろそろ行くぞ。準備してない奴は置いていくからな」
と、ようやく先生が教室に来て出発の合図を出してくれた。それと同時に今まで浴びてきた罵詈雑言が止み、肩が軽くなった気がした。
「ふぅ……」
「何よあいつら。少し数値が高いからって」
「まぁいいんじゃねぇの?言いたい奴は勝手に言わせておけばいいんだよ」
「……菅十、あなた少し寛大すぎない?いっつもあいつらに目をつけられては今回みたいに暴言浴びせられたり挙句の果てには殴られたりしてるんでしょ?」
「別に痛くもかゆくもないからどうでもいいんだよ。それに、強くなるには必要なことだからな。ある程度許容してる」
「……私は必要だとは思わないけど。ちょっと見てて不快になる」
「そうか。だったら今度からは受けないようにするさ」
「……そうして」
なんだか今日の奏はいつもよりしおらしいというか何というか……いつも俺に対して厳しいのに。少しだけしかめっ面で……可愛い。
「……何ニヤニヤしてるのよ」
「別に?」
そんなことを話しているうちに、いつの間にか俺たちは大穴の入り口まで来てしまっていた。そして前もって指示された通りの場所に向かう。そこで俺と奏は別れた。
「よ」
「……うん」
前もって決められたところに行くと、そこには一人の若い先生と錐揉さんがいた。実は前の指数測定で錐揉さんの指数はまさかの3だった。この値は一年生の中ではスキルを持っている人を除いて一番低い値だった。その次に低かったのが俺のなのだからあの機械はどうなっているのだろう。
そして案の定、錐揉さんの数値も洌崎さんに言ったら俺の時以上に呆気にとられていた。
「……お前ら二人は第六層までだな。まぁ、死にそうになったら多分、一応、目を離してなければ助けてやるから、安心しろぉ。んじゃ行くぞ~」
なんとも覇気のない先生──その人は村治先生と名乗った──だが、実際めんどくさいとでも思っているのだろう。その言葉には最悪俺たちを見捨てるつもりなのが俺でもわかった。
普通だったら安心できないような言葉だったが、正直俺たちにとって第六層で怪我をするというのがまず難しかったため、特に気にはならなかった。
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