第14話 異常な少年少女VS異変

「はぁぁぁあ」


「……退屈なのは分かるけど、油断しすぎてあくびでてる」


「油断しててもいいだろ別に」


 ここは第六層のど真ん中。


 ここに着いた瞬間『んじゃ自由にやってねぇ』と言われた。どうせ何もできないと思っての発言だとすぐに分かったので、俺たちはその言葉通りに、



 その結果──



「な……なんだ……それ」


 俺たちの周りにはモンスターのドロップした素材の残骸の山が二つ築き上げられていた。


 あまりにも弱すぎるものだから適当に遊んだ結果こうなってしまった。これ、持ち帰るの大変だなぁ。


「……ここは大穴なんだよ?油断禁物」


「ま、そうだな──っと」


 そう言いながら俺は近寄ってきたゴブリンの頭をデコピンで破裂させた。直後、頭の消えたゴブリンの首から血が噴き出し、俺らの周りに雨が降り始めた。


「……汚れた」


「すぐ消えるから大丈夫だろ!」


「……そういう問題じゃない」


 そう言って今度は錐揉さんがこっちに走ってくるウルフに、スキルを使って透明になった後即座に奴の首元まで移動して手に持っていたナイフで首を断った。


「……もっと綺麗に倒すこと。いい?」


「……はいはい」


「…………は?」


 まるで目の前の光景が信じられないとでも言わんばかりの声が先生の口から発せられていたが、俺たちはあえてそれを無視した。


「んじゃ、今度はシルバーチキンの討伐数で競おうぜ」


「……あれ全然見つからないから嫌なんだけど」


「いいじゃん稼げるし」


「……そうだね。それじゃあ──」


「ちょっと待てっっっ!!!」


「「ん?」」


 そしていざ俺たちが駆けだそうとしたその時、今まで唖然としていた先生が突然叫びだした。


「な、なななな何なんだよお前ら!?し、指数が低いんじゃなかったのかよ!?」


「え?低いですよ?なぁ?」


「……そうですね」


「嘘をつくなぁ!!絶対サボりたかったから指数を下げて報告してただろ!?」


「そんなこと、できるわけないじゃないですか。何考えてるんですか?」


「……学校側に確認すればいいじゃないですか」


「……嘘だ、俺よりも強いだなんて……ありえない」


 今まで見下していた奴らが実は自分よりも強かったという事実が未だに受け入れられていないらしい。まさかこの先生もあのクソ野郎どもと同じような性格をしていたとは思わなかった。


 探索者はやはり命を懸ける職業故か、自分の強さに対しある程度の誇りと自信を持っている。


 それだけならいい。それを持ち、尚且つ他の人の強さも尊重できる人でなら問題はない。と、奏は言っていた。俺にはあまりよく分からないのだが。


 だが、その誇りが過剰だった場合、それは無駄なプライドへと変わるらしく、そう言った人はよく自分よりも弱い人に対して見下す傾向があるのだとか。今俺たちの目の前で喚いているこの先生や、あのクソ野郎どもはそれに当てはまるのだろう。


 というか奏は良くそう言ったことを知っているな、とその時感心したのを覚えている。やはり奏は天才だ。俺もそんな奏に負けないように、早く実績を積まねばならない。


 そのためにはまず────


「意識して……こうか?」


「……まだ動きが固い」


「難しい……!」


 俺たちは大穴の中で洌崎さんに指摘してもらったことを改善するためにそれぞれの動きを見て、アドバイスを送り合っていた。


 今俺がしている事は、正拳突きである。多少武術をかじったことがあるという錐揉さんのちょっとした指導の元、俺はちゃんとした正拳突きを習得するためにゆっくりと拳を引いて、一気に突き出してを繰り返していた。



 パンッッッ!!!



「ふん!」


「……お」


「GAAAAA!?」


 そして正拳突きを何度か放っていたその時、俺は今までのとは何か違うものを感じた。それが何なのかよく分からなかったが感覚を掴むことはできていたのでそれを一気に放った。


 瞬間、俺の拳から空気の塊のようなものが飛び出し、偶然近くにいたゴブリンの胴体を貫いた。


「……今一瞬、関次くんの正拳突きが音速を超えていた」


「ってことは、あれは……」


「……まさか、アニメとかで見るようなものができるなんて思わなかったけど、そういう事でしょ」


「まじかぁ……」


「~~~~!?!?!?」


 後ろから声にならないような声が聞こえてきたが、俺はまたあえて無視した。


 しかし、洌崎さんに言われた戦闘技術の欠如──きっと駆け引きや武術の型などについてなのだろうが、これではその課題が克服されることはない。


 雑魚相手だと一撃で殺してしまうから、練習相手にはなりえない。となると……。


「深いところに潜りたいなぁ」


「……今は無理でしょ」


「それもそう──っ!?」


 その時だった。俺の類い稀なる第六感が異常なほど警報を鳴らし始めた。


 つまり──奏の危機っっ!!


「……どうしたの?」


 俺が突然険しい顔をしたのに気づいたのだろう、錐揉さんがそう聞いてきた。


「……下の層で何かが起きたようだ。詳細は分からないが」


「……そう。──?」


「あぁ」


 俺がそう頷いた直後、錐揉さんの姿が消え、後ろから呻き声と共に何かが地面に衝突した音がした。


 その音を確認した俺は懐から仮面を取り出し着けると、足に力を込めて一気に駆け出した。

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