第15話 未熟な学生共VS異常
(三人称視点)
第十層。ここが学生の行ける最深層なのだが、今回は特別に第十五層にまで潜れる許可が下りていた。
「それでは、ここから先はあなた方にとっては未知の領域となります。なので、くれぐれも我々から離れないように。離れて死ぬ、なんてことがいちばんしょうもないですから」
彼は最初の実地研修の時と同じ先生だった。前回同様、背丈以上の大剣を背負い前を歩く彼は前よりも警戒を強めていた。主に後ろ側を。
一か月以上経ち、ある程度自分のスキルについて理解をし始めた生徒たちはたいていの場合、すぐに自分のスキルでモンスターを倒したいと思い始める。そんな思いが暴走し、先生よりも前に出て事故を起こし死亡してしまうなんてざらだった。
それが起きないように彼は後ろを警戒しているのだ。
そんな彼の後ろを歩く生徒の一人、千代久奏の視線は前ではなく、別のところを向いていた。
(どこにあるの……?前に来た時に立てた予測ではここにあるはずなんだけど……まさか、第六層にあるのかしら……?)
彼女が探しているもの。それは普通では眉唾の都市伝説として言われているとある噂の正体だった。
それを見つけられれば、確実に自分の計画が大きく進むと確信して。そして彼女のスキル、脳ではそれは実在するとの予測が出ていた。
だが未だにそれを見つけられないでいた。
「……見つかった?」
「……ううん」
隣を歩く馳寺明里も奏と同じものを探しているが、一向に見つかる気配が無かった。そして彼女らはもう一人の協力者に進展を聞こうとした。
「GURAAAAAAAAA!!!!!」
と、その時だった。
第十層は他の層と違い、だだっ広い森があるわけでもなく、暗い暗い洞窟というわけでもない、ある程度の明かりが確保されているただ長い、長い一本道だった。
そしてそんな一本道の奥に、普通のモンスターとは一線を画すほどの大きさを誇る、ゴブリン達の長、キングゴブリンが姿を現した。
だが何か様子がおかしかった。
「GURAAA、AAAA!?!?MMMMAAAAAAAA!!!!」
「なにか様子がおかしい……?」
熟練の探索者だった先生ですら戸惑う違和感。それはキングゴブリンの目にあった。
「目が青い……?普通は赤のはずですが……何かがおかしいですね。皆さん!安全のため後ろに──」
「よっしゃあ!キングゴブリンだ!ぶっ殺してやらあ!!」
「俺が一番だ!!」
その時、彼の横を二人の生徒が走り去って行った。
「やめなさいっっっっ!!!」
彼がそう叫ぶもその二人は聞く耳を持たずにキングゴブリンに向かって突っ走っていった。その二人は朝、関次菅十に暴言を吐いていた者らだった。
彼らは自力で第九層まで到達したことがあったためか、第十層も同じような難易度だと思い込んでいたために自信満々に飛び出し、自身のスキルを使った。
「行くぜ!“スラッシュ”!!!」
ザシュッ!!
「GAAAAA!!!!!」
「よっしゃあ!やっぱここでも俺のスキルでも効くんだなぁ!!」
「それじゃ、次は俺だ!!“ファイアショット”!!」
「戻りなさい!!」
先生がまた叫ぶも彼らの攻撃の手が止むことは無かった。彼はこの時危惧していた。と言うのも、今彼の中には言い知れぬ不安があったからだ。
──生徒が死んでしまう。
そんないつもの実地研修だったらありえないその悪寒が彼の心臓を鷲掴みしていた。
「GAAAAA!!!」
そして、そんな予感じみたものが現実となった。
「これで─────は?」
最後、キングゴブリンの首を刎ねようとした少年は目の前で起きている信じがたい光景に、思わず動きを止めてしまった。
ジュクジュクと嫌な音を立てながら、キングゴブリンの体が再生し始めたのだ。そして──
「ぐあっ!?」
「「「「っっっ!?」」」」
一気に再生したキングゴブリンの裏拳によって、先ほど“スラッシュ”を放っていた剣士のスキルを得ていた少年の体が層の壁に向かって吹き飛ばされた。
「がはっ……!」
「浩二!?クソがああああ!!!──がっ!?」
「GAAAAA!!!!」
吹き飛ばされた男子生徒の友人と思われる少年が怒りに身を任せスキルを使おうとするも、浩二と呼ばれた男子同様、大穴の壁まで吹き飛ばされた。
「下がりなさいお前たち!」
「わ、わあああああ!?」
「逃げろおおおおお!」
「死にたくないいいいいい!!」
先生が一人前に出て生徒らを守ろうとするも、肝心の生徒らが恐怖で我を失っていた。そして一人が後ろに逃げたのを皮切りに、ぞくぞくと後ろに走っていく人が増えていった。
(……こんなモンスター見たことない……!)
しかし奏はその場に留まった。彼女にも恐怖心はあり、それが体を縛っていた。だが彼女が動けないのはそれだけではなかった。
「あ……あぁああぁ……」
「明里……」
キングゴブリンを目の前に体を震わせた友人がそばにいたからだ。彼女はその巨体を目に写した途端、様子がおかしくなったのだ。
(このまま死ぬのは……嫌だ!)
奏は必死にスキルを回す。そして一つの答えに辿り着いた彼女はまず、そばにいたもう一人の友人に声をかける。
「……何とか足止めして」
「……はぁ、了解」
その命を受けた彼──属道剛太はバッと手をキングゴブリンに向け、一言放った。
「──スロー……!」
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