第16話 先生VSキングゴブリン

「先生!」


「助かった!」


 動きが鈍くなったキングゴブリンに先生は驚くも、これ以上目の前のモンスターを先に行かせないために手に握っていた大剣でその巨大な胴を切り裂いた。


 しかし想定以上に硬かったのか、それほどダメージが入っているようには見えなかった。


「くっ、やはり硬いな……!」


「GAAAAA!!」


「何っ!?」


 更に攻撃を加えようとしたその時、またもやキングゴブリンは咆哮を上げると同時に斬られた部分が徐々に修復されていった。


 それを見た先生は一瞬絶望するも生徒を守らないといけないという一心で更に攻撃を加えるため、前に出た。


 その時だった。



 ババババンッッッッ!!!



「っ!?」


「先生!」


「GAAAAA!?」


 驚いた彼が後ろを向くと、そこには対モンスター用の銃をキングゴブリンに向けて突き出した彼女──奏の姿があった。


「今ですっ!ここから逃げましょう!」


「っ、す、すまない!皆さん今すぐ上の層に行きますよ!」


 その先生の叫びを聞いた、恐怖で動けないでいた残りの生徒らは一目散に上の層に向けて走り出した。そして彼は倒れていた生徒二人を回収し殿を務めつつ、逃げ遅れた生徒がいないか冷静に確認する。


 そして誰一人逃げ遅れた生徒がいないと判断した彼は最後に足止めをするべくキングゴブリンに強烈な一撃を喰らわせ、上へと逃げたのだった。







「はぁ……はぁ……」


「こ、怖かった……!」


「もうやだ……」


 先生が第九層に辿り着くと、そこには地面にへたり込む生徒らの姿があった。正直ここで気を抜くなと言いたい気分になった彼だが、あんなことが起きたから仕方ないと割り切った。


(焦って判断を誤ってしまいましたがそれよりも、すぐにここから避難する方が先ですね。戻ったらすぐにこのことを知らせなければ……くそっ、なんであの時すぐに気付けなかった……!)


 探索者は大穴に潜る際、義務として特異モンスター──先程のキングゴブリンのような普通じゃないモンスターのことだ──が出現した時必ず戦わずに報告しなければならない。


 何故なら、特異モンスターは他のモンスターには通用していた常識と言うのが通用しないからだ。


 もし、ただのゴブリンが特異モンスターになったとしよう。するとそのゴブリンには首を刎ねられても首から頭が再生できるほどの自己再生能力が備わり、かつ、ゴブリンの上位体であるキングゴブリンと同等の威力の攻撃を放つことができるようになるのだ。


 ただのゴブリンが特異モンスターになるだけでそうなるのだ、それがキングゴブリンだとしたら……結果は想像に容易い。現に、キングゴブリンの攻撃を喰らって幸いにも気絶程度で済んだ生徒らは未だに目覚める兆しが見えなかった。もしかすると、もう二度と目覚めないかもしれない。今彼らは生死の狭間をさまよっているのだ。


 そして元探索者である彼は特異モンスターの危険性について知っていたがためにすぐに上に戻る必要があると判断した。その為休憩している彼らに声をかける。


「皆さん大丈夫ですか……?実地研修は一旦中止とします。すぐに上に避難するのでここから離れましょう」


 生徒らはその先生の指示の通り上に向かう為、第八層に続く階段に向かい始めた。だが────





「─────GAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」


「「「「「「「っ!?」」」」」」」


「振り向かないで!走ってくださいっ!」


 その叫び声を聞いた瞬間直ぐにあの化け物から離れるために、彼らはさっきまで体力が切れていたにも関わらずまるでそれが嘘のように走り出した。


 先生はそんな彼らを守るために後ろに注意しながら先導する。


「はあっ!」


「ふっ!」


 道中モンスターが襲ってくるが自分一人ではそれら全てに対処することなど出来る訳が無かった。なので、生徒の中でも多少動ける人にそれらの掃討を任せることにした。そして気絶している生徒らは別の生徒に背負ってもらっている。


 緊急時だ、使える手は使わなければならない。


「先生!階段が見えました!」


「皆さん!今すぐそこに──止まってください!」


「「「「「っ!?」」」」」


 その時、先生は何かを感じ取りすぐに生徒らの足を止めさせた。直後──



 ドオオオオオン!!!



「GAAAAAA!!!」


「と、飛んできた……!」


 驚異のジャンプ力で飛び越えてきた特異キングゴブリンが行く手を塞いだ。目の前のその巨体に、生徒らはまた恐怖した。


(このままじゃ……これも自分の油断が招いたこと……ならば)


「皆さん、私が道を作ります。その隙に上の層に向かい、救援要請をお願いします」


「……それじゃあ先生が!」


「……私が叫んだら、一斉に駆け出してください。くれぐれも、奴に手を出さないように」


「「「「っ」」」」


 そして覚悟を決めた表情でその大剣を構えた彼は大剣スキルにある、諸刃の剣とも呼べる一つの技を使った。


「“死嵐の舞テンペスタ”っっっ!!!!」


 自身の命を削る代わりに大剣に本来使えるはずのない無数の風刃を纏わせると同時に、自身の身体能力を約20倍に引き上げるという技──“死嵐の舞テンペスタ”。


 それは大剣スキルの最終奥義の一つとも呼べる技であり、めったに使う事のない技である。


「っっっっ!!!」


 体から一瞬で命が削られ今までに経験したことのないような苦痛が全身を襲うもそれで体が止まることは無かった。

 逆にさっき以上の動きで彼は一気に特異キングゴブリンとの距離を詰め、



「うおっっっらっっっ!!!!!」



 思いっきり横に吹き飛ばしたのだった。 

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