第22話 怒れる少女VS日本最強
「坂本さん」
『見たか』
俺は家に帰るとすぐに坂本さんに電話を掛けた。すると向こうも分かっていたのか、すぐに本題に入ってくれた。
『そばに彼女もいるのか?』
「いますが?」
『……苑宮に変わる』
坂本さん……あの一件以降、どこか奏に対し苦手意識が芽生えたようであまり会話をしたくないらしい。そりゃあ何を言っても全て言葉でねじ伏せてくる高校生なんて好きになる人がいたら逆に教えて欲しいものだ。俺以外で。
『苑宮よ。ニュースは見たわね?』
「はい。それでどうなってるんです?まさか二体目の特異モンスターが出現するなんて」
『それがね……どうやら、異変はだいぶ前から起こっていたらしいのよ』
「……と言うと?」
『調べるとね、どうやら今年の四月か五月あたりに、何度か上層にそこよりも深い層のモンスターが出現するということが起こっていたのよ』
「「っ!」」
きっと俺と奏は同じことを思い出しただろう。
────初めての実地研修での、先生の言葉だ。
『────……来ましたか。ですがなぜこのモンスターがここに来れたのでしょう……おかしいですが、どうでもいいですね』
あの時ちょっとした異常事態が起こっているなーなんて思っていたが、まさかあの時のあれが今回の事件と繋がっているのか……?
『それで調べてみると、どうやら過去にも同じような現象が起こっていて、その時も何体かの特異モンスターが出現したんだとか。その時はゴブリンとか弱いモンスターが特異モンスターになったから、大穴に起こった一種のバグとして処理されてたの』
「それが今起こっていると……?」
『えぇ。その時よりもより酷くなってね……それで我々螺旋にも出動要請が出たわ』
「行きます」
「駄目よ」
奏が即座にそう言ってきたが、そう言うだろうなと思っていた。
「奏が何と言おうと俺はいくぞ」
「自分の命を簡単に投げ捨てないで」
「投げ捨てるわけないだろ。それに、あの時とは違って一人じゃない」
「……」
『……ま、明日までに結論は出しておいてね。ちなみに、錐揉ちゃんは来ると言ってくれたわよ』
「だったら猶更行かないと言う選択肢は無いな」
「……」
俺がそう言うと彼女は辛そうな表情をした。それでちょっと胸が苦しくなったが、それでも、俺の意思はもう固まっている。
奏が何と言おうと俺はいくんだ。
『……千代久さん、だっけ?だったらあなたも来る?』
「……はい?」
『前線に出すわけではないけど、その頭脳を生かしてほしいのよ。もちろん、顔とかは隠すわ。そこら辺は安心してほしい』
「……」
『彼が心配なんでしょ?だったら、そばで見守っておいた方が安心するでしょ?』
「……」
苑宮さんがそう奏に問うと、彼女はむっとした表情で何かを考え始めた。
『……取り敢えず、明日までに連絡を頂戴。それじゃ』
「了解っす」
そして電話を切った俺は奏の方を向いた。
「どうする……?」
「……やっぱり、あれを使うしか───」
「どうした?」
「何でもないわ。ちょっと考えていただけよ。……何言っても、あなたは行くって思ってね。そしたら近くで少しくらい無茶を抑えなきゃって思ったのよ」
「っ!それじゃあ!」
「……しょうがないわね。行くわよ」
「っし!」
という事で次の日。俺たちは苑宮さんに行く旨を伝えた後、支度をして螺旋の事務所へと向かった。いつもは一人で向かっていたから、こうして誰かと一緒に行くなんて新鮮だ。それもその誰かが、まさか奏とは。こんなことがあるなんてな。
しかし、移動中奏は何か考え事をしていたので互いに何も話さなかったが。まぁ、奏がずっと考え込んでて無言になるなんていつものことだ。きっとこの後のことについて考えているに違いない。
「……これなら、いける」
……何がいけるというのだろうか。
「……あ、ここで降りるぞ」
「分かったわ」
と、そうしているうちに事務所の最寄りの駅に着いた。俺と奏は駅を出ると、俺が先導する形で事務所へと向かう。
「ここだ」
「……でかっ」
やはり奏もそう思うか。
「めっちゃ稼いでるのね」
「……二言目にやっぱりそれが出るのな」
「だってこれほどのビルに事務所を構えるなんて相当稼いでないと無理よ?ここは都内でもかなり地価が高い場所だし」
「へぇ……」
と言われても半分くらいしか理解できなかったのだが。とにかく、凄いという事だけは分かった。
「それじゃあ入るぞ」
「えぇ」
そして俺は慣れた手つきでいつものように苑宮さんに連絡を入れてから、中に入った。
「ども」
「……こんにちは」
「よく来たわね二人とも。錐揉さんとリーダーも、もうちょっとで着くって連絡が来たから、そこでお菓子でも食べながら待ってて」
「分かりました」
そして待つこと数分後。
「……ただいま到着しました」
「よく来たわね錐揉さん。後はリーダーだけね」
「……悪かったな」
「あら、来てたの」
「……」
と、錐揉さんが来た直後に後ろにリーダーの坂本さんが立っていた。これで今日呼ばれた全員が来たみたいだ。
「それでリーダー、今回の件について、詳しく話していいかしら?」
「あぁ」
「リーダーの許可も貰ったことだし、話すとしましょうか。緊急災害事案によって組まれた本作戦について」
「……っ!まさかっ!」
「もうこの言葉を聞いたこの瞬間から、あなたたち三人はこの作戦及び今回組まれた緊急チームを降りることは許されなくなったわ」
「はめられたっ……!」
「頭の回転は速いようだけど、もう少し駆け引きを覚えた方がいいかもしれないわね」
「……ちっ」
一体何が何だか分からないが、取り敢えず奏にとって不都合なことが起きたようだ。駆け引き……?マジで分からん。それに、どうやら錐揉さんも俺と同じようで首をかしげていた。
唯一奏だけが事の深刻さを十分理解しているようだ。
「……菅十、きっと分かっていないあなたに説明するけど、この緊急災害事案っていうのは所謂上に立っている人たちが極秘に組んだもので、この言葉そのものがトップシークレットに近い扱いが成されているの」
「……どういう事だ?」
「この緊急災害事案って言葉を聞いたその瞬間、どんな人であろうとそれに参加しないといけないってことよ」
「元々参加するつもりだったから別に関係ないだろ?」
「っ、それはそうだけどっ……!でもっ……!」
「彼女の代わりに私が言うけど、彼女はここに来てもあなたに参加してほしくないらしいわよ?」
「……奏」
「……」
どうやら図星のようで、奏は苦しそうな表情を見せた。なるほどな。
昔から俺が危険なことをしようとすると、すぐさま止めに来ていた。俺が今の高校に進学しようとした時も、大穴で奥に行こうとした時も、そして、俺が一人で大穴に潜ろうとした時も。
彼女はいつも正しい。正しいことしか言わない。しかし、その正しさはあくまでも俺の命の危険を冒さないという彼女の中の正しさに基づいて言っている。
きっとその彼女の正しさには、世間や一般常識など関係ないのだろう。どんな手を使ってでも止めに来るだろう。俺には想像できない手段でもって。
それは一種の俺への依存であり、分かり切っている彼女からの親愛の心から来るものだ。
でも、俺はそんな彼女に対し、100%それを返すことはできない。だって、俺が望むものはその危険を冒した先にあるものだから。
「奏」
「……っ」
「きっと頭の良いお前のことだ、きっと俺がなんで探索者になったのか想像はついているんだろ?」
「……」
「だったら止めないでくれ。この先にあるんだ。分かるだろ?」
「……そうだけど。でも、そんなことしなくても私が────」
「俺の手で、成したいんだ」
「─────……っ、はぁ……」
俺がそう言うと、彼女はどこか諦めたかのように溜息を吐いた。昔からの付き合いだから、きっと理解したのだ。でも、きっと頭では理解できていても感情で受け入れることがまだできていない。
その目は険しかった。
「苑宮さん、いつその作戦は行われますか?」
「明後日よ」
「では、詳しい話は向こうでしましょう。それでいいですよね?リーダー」
「そうだな。正直、今回はお前がいればかなり楽になる」
「……っ」
俺の横で奏がリーダーを睨んだ。
「お前は、関次の親なのか?」
「っ」
「これ以上、彼を縛るな。この先は、関次菅十の人生だ。お前と彼が歩む人生はこれが終わった後でいくらでも出来るだろう」
「っ、黙れ……!」
「この際だ、大人目線で言ってやる。確かにお前の意見は正しいのだろう。彼はこれから死地に向かうのだから。身近の人を失う怖さはよく分かる。だがな────」
「─────それではお前は彼を一切信用していないという事になるな」
「っ!?」
「それに、今回の作戦はそれほど厳しいものではないとみている」
「……と言うと?」
「関次、お前はあの特異キングゴブリンに勝ち、大きく成長できたのだろう?」
「そうですね」
敢えてアドバンスの話を避けてくれた。これを話すときっとまた奏が騒ぐと分かっているからだろう。それについては俺も同意見だったのでここではただ頷くだけに留まった。
「それを使えば問題なく殺せると見ている。それに、俺も使うからな。問題ないだろう」
「……本当に使うの?」
「あぁ。ま、終わった後第三十層でリハビリすればいいだけだ。苑宮、洌崎にもそう伝えろ」
「分かったわ」
俺たちの会話に錐揉さんと奏はついていけていない。だがこれでいい。
その後俺たちは大穴へと場所を移して、本格的な作戦を組み始めた。
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