第21話 脳筋少年VS期末試験

「今度の期末試験、大丈夫なんでしょうね……?」


「……多分?」


「今日から二週間、きっちり勉強するわよっ!」


「……!嫌だっっっ!!!」


「逃げるなっ!」


 首を掴まれ泣く泣く机に戻った俺を見て、奏は満足げな笑顔を浮かべながら手に持っていた教科書を開いた。


 あの研修から一週間が経った。あの日起こったことは連日報道され、今だ原因は解明されていない。どころか、果たして本当に特異モンスターが出たのかすら疑問視されていた。


 だが、あの日死んだ先生が実はこの学校に赴任する直前まで探索者として活動していたかなりの実力者で、その実力は他の探索者が認めていたことから、そんな探索者が殺されたのだから少なくとも強力なモンスターが第十層に出現したのだろうとして、警戒態勢がしかれることになった。


 そんなことだからしばらくの間予定されていた実地研修は軒並み中止となり、それにもうすぐ夏休みという事で、普通よりも早い時期になんか知らないけど期末試験が行われることになったのだ。


 それが発表されたのはつい先日のことで、期末試験は今日から約二週間後に実施される。


 そして実地研修が中止になった事で余裕が生まれた、とのことから今回は約4年ぶりに“赤点システム”を採用するとの通知が来た。


 赤点システムとは基準となる合計点を下回った際、夏休みの間補修を行うだけでなくしばらくの間大穴に潜ることを禁じると言う、最悪のペナルティを課すクソシステムである。本当にクソ。マジでクソ。クソ過ぎて涙が出るほどにクソ。


「ただ頑張ればいいじゃない。それに、私にとってはそのペナルティが課された方が何かと嬉しいし」


「Sか」


「違うわ。あの時みたいに死にに行くようなことが少しでも無くなった方がいいってことよ」


 ちなみに、彼女には俺が仮面Xだという事がすでにバレている。しかし意外にもそれによって螺旋を抜けろとは言ってこなかった。どころか、ついこの間の休みの日になんと螺旋の事務所に突撃したのだ。


 俺の跡をついてきたんだと。


「坂本さんと話は一応つけてはおいたけど……本当に第三十層以降は潜らないわよね……?」


「第三十層の奴らが面白かったら」


「……変わったね。あの日から。何と言うか、菅十の根本は変わっていないけど、。そんなちょっとした違和感を感じる」


「……そんなのに気づくのは奏だけだ。それに、俺は別に変ったつもりはない。今までも、これからも、俺はただ大穴で頑張っていくだけだ」


「そうね。これはちょっと計画を変えていく必要があるかしら」


「ん?何か言ったか?」


「いいえ。とにかく今は期末試験を乗り越えるために勉強をしましょう」


「……ちっ」


「……舌打ちしたわね?倍にするわよ?」


「鬼畜!悪魔!ドS!」


「ドSは関係ないでしょ!?」


 




 


「そこまでっっっ!!!」



 ザッ!!!



「っ!?」


 先生のその声と同時に一斉にペンを置く音が教室に響いた。最後の試験だという事もあったのだろうが、その気迫に前に立っていた先生も思わずビクッとしていた。かくいう俺も少しだけ肩を震わせたが。


 そして答案用紙が回収される。


「これにて、期末試験を終了する。結果は二日後発表し、赤点を取った者の名を教室の前に張り出すので確認するように。それでは、解散!」


「「「「「しゃあああああ!!!!!」」」」」


 終わったと同時に教室の外に数人の男子が駆けだした。その彼らがいなくなると、他の生徒も少しずつ荷物を整理して帰りだしたり他の生徒と合流したりと動き始めた。


「やっほ」


「おう、属道」


「できた?」


「……きっと」


「出来てないと困るわよ。みっちりしごいたんだから」


「……」


「凄ーい、死んだ目してる!」


「馳寺さん、それほど大変だったってことなんだろうねぇ」


「奏ってば、鬼畜ぅ!」


「うるさいわよ、明里」


 そんなこんなで何とか無事期末試験を乗り越えた俺たちは学校を出た後その足でるるぷーるの前に馳寺さんが行きたがっていたラーメン屋に行くことに。


「美味しい!」


「旨いっ!」


「二人とも、うるさいわよ。黙って食べなさい」


「……」


「ほら、属道くんだって黙って食べて────」


「奏、ちゃんと見ろ。あいつ、食べられなくなって白目になってる」


「そう言えば属道くんって小食って言ってたね!」


「……叩き起こそうかしら」


「物騒!」


 そんなちょっとしたトラブルがありつつも、属道を叩き起こしてラーメン屋を出た俺たちは、その後るるぷーる内にある店を巡り、いろんなものを買ったりした。お金に関する心配は螺旋として何度も大穴に潜っていることが奏にバレたということで、今まで隠していた貯金を解放してその心配を無くした。


 まぁ、。むしろ、まだ見つかっていない口座の方が金が入っているのだが……それを奏が知るのはかなり先になるだろう。


 そして夕方になり、そろそろ帰ろうとしたその時だった。


「……ん?」


「どうした?属道」


「いや、これ」


「えっと……?────っ!?」


 属道が見せてきたもの。それは、







 ────特異モンスター、エンペラーゴブリンが第十五層に出没したことによる大穴の封鎖と言うニュースだった。

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