第23話 可愛げのない少女VS暑苦しい男
「それでは、行くとするか」
当日。中に入るのは螺旋のメンバー+奏の7人。それと数人のサポーター。彼らは道中の雑魚を倒してもらい、少しでも俺たちの体力を温存する役割がある。
彼らがいるといないとではかなり違ってくるので正直助かる。
にしても、螺旋のメンバーのうち、俺が実力を知っているのは錐揉さんと苑宮さんと洌崎さんの三人で、リーダーの坂本さんとそしてあまり接点のない
特に箔南さんについては坂本さんよりも未知数だ。聞くと洌崎さんよりも強いらしく、実力だけで言ったらサブリーダーと呼んでもいいらしいがなんと事務作業が壊滅的らしい。見た目が出来るキャリアウーマンっぽいだけに意外だった。
そして────
「な、なぁ、今度一緒にどこか食べに行かないか!?」
「結構です」
なんか洌崎さんの様子がおかしかった。
「……なんですあれ。奏、すっごく迷惑そうな顔してるんですけど」
「あー……あれね。彼の悪い癖というか性格というか……もう、ほんっとうにやめて欲しいのよね、あれ」
苑宮さんが呆れてしまうほど、洌崎さんのあの性格には難儀しているようだ。
聞くと、どうやら彼は超が付くほど惚れっぽい性格のようで、昔それこそ苑宮さんや箔南さんにも、今奏に迫っているような感じで接していたらしい。
そして面倒なことに超が付くほど粘着質で、いくらこっちが止めるように言っても向こうは聞く耳を持たないんだとか。
「それに、無駄に実力と言うか、才能はあったから、実力行使しようにもできなかったのよ。倒せるのって言ったらリーダーの坂本だけだし」
「でも今は苑宮さんとかにはそう言った感じのはやってませんよね?」
「それは頑張って無理矢理こっちが上だって示したからよ。もう抜かれてるけど」
成程。苑宮さんの今の実力の裏側がまさかこんな理由だとは。そして箔南さんも同様にコテンパンにできるくらい実力をつけて今の関係に至るのだとか。
「それでも昔は本当にひどかったですよ、あれ。千代久さんが不憫でなりません」
「ん……?」
でもそうしたら一つだけ疑問が浮かび上がってきた。一目惚れしやすいって言ったら、もしかして────
「あぁ、錐揉さんは対象外だそうよ」
「……」
「そうですか」
俺はそれしか言えなかった。
「千代久さん、ここは俺に任せてくれ!」
「……」
彼女の冷たい目線の先には暑苦しい洌崎さんの姿が。何と言うか、対照的な二人だ。でも前に彼女が暑苦しい人は誰であろうと嫌いだと言っていたので、今の洌崎さんは彼女の琴線に触れまくっている。と言うか、その線で反復横跳びしまくっている状態だ。
だから彼女は彼を遂に無視し始めた。
「……洌崎、五月蠅い」
「すまない!」
「……チッ」
「……奏、どうどう」
「とにかく先を急ぐぞ」
その坂本さんの言葉で移動速度が速くなる。が、この速さは流石に奏はついていけないだろう。
「という事で、ほい」
「……何がという事でよ。まぁ助かるからお言葉に甘えるけど」
そう言って彼女はしゃがんだ俺の背中に乗り、俺がおんぶする形になった。
「あっ!千代久さん、関次なんかより俺の背中なんてどうだ!?何ならお姫様だっこだって────」
「菅十、ちょっと寝るけどいいかしら?」
「ん?あぁ、いいぞ。なるべく大きく揺らさないように気を付けるよ」
「ありがとう」
「……っ!」
洌崎さんの言葉にかぶさるようにして奏は俺の背中で寝るという。まぁ俺はそれを快諾したわけだが……。
「……」
洌崎さんからの無言の圧が物凄かった。きっと少しでも彼女と近づきたいのだろう。だがそんなこと、俺が許すわけがない。
「……っ!チッ」
最初出会った時の洌崎さんはどこへ行ってしまったのかと言わんばかりの威圧的な態度だ。これには俺だけでなく錐揉さんもびっくりしたらしく、
「……人ってあんなに変われるのね」
と、変なところで感心していた。ちなみに、そんな洌崎さんを見てしまった為、入る前に交わされた会話によるショックからは既に立ち直っていた。
そして進み続けること3時間以上が経過したころだろうか。途中襲ってくるモンスター共を適当にいなしつつ、ようやく第十四層に辿り着いた。
「よし、着いたな。各々戦闘準備に入ってくれ」
「「「「「「了解」」」」」」
リーダーの号令により各自道具の手入れやテーピングなど、本格的な戦闘準備に入った。
俺も俺で取り敢えず手にある絆創膏だけ剝がしておこうかと思い、びりっと剥がしてポケットに仕舞った。
この絆創膏は前に奏に貼ってもらったものだが、如何せん俺の回復力が高いせいで本当は貼ってもらった直後に怪我は治っていたのだが、奏の厚意を無駄にはできないと思いずっと貼っていたのだ。
「もう大丈夫そうね。あなたの回復力だったらいらなかっただろうけど」
「でも助かったぜ。ありがとう」
「どういたしまして。でも、今回は絶対私の指示で動くように。いいわね?」
「へいへい」
今回奏が何故ここまで来たかと言うと、一つは俺の監視、もう一つは指揮官として逐次俺たちに指示を出すためである。
どうやら螺旋はいつもがむしゃらに戦い続けていたためそろそろ本格的に戦術を取り入れようとしているらしく、奏で一回それを試してみようとのことらしい。
「それじゃ、降りるぞ」
そして俺たちは第十五層に降り、
「GAAAAAAUAUAUAUAAAAAA!!!!!!」
「……っ!千代久ァ!」
「っ!坂本さんと菅十は前でヘイトを集めて、洌崎さんと錐揉さんの二人で遊撃を、苑宮さんは後方から支援をお願いします!」
「「「「「了解!」」」」」
そして俺たちは一斉に散開した。箔南さんを残して。
「では私は予定通り」
「足手まといである私の護衛、宜しくお願いします。箔南さん」
「はい。それと、あなたは足手まといにはなりませんよね?」
「あら、分かってるんですか」
何か気になる会話をしていたが、俺は気にせず目の前の敵に集中するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます