第7話 力持ちな少年VS行き留まった現状

 実地研修から一か月が経った。


「おらっ」


「GYA!?」


 死の大穴に出てくるモンスターの中で一番弱いとされているゴブリンの頭を拳でかち割った俺は、灰となって消えゆく死体から出てきた魔石を拾い懐にしまった。


 ここは死の大穴第九層。


 研修でも一度だけ、ここに来たことはある。その時は、まぁそれはそれは大変だったのだが……今話すことではないだろう。


 そして現在、


「……はぁ」


 俺は困っていた。


 というのも、あの研修以降自由にこの大穴に潜っていいと言われているのだが、潜れる深さに制限をかけられてしまっているのだ。それがここの次の層である第十層である。


「学生だからってのは分かってるんだけど……」


 本格的に稼ぎが出始めるのは第十層以降からで、ここでは高校生の小遣い程度しか稼ぐことができない。


 何だかもどかしい。目の前に極上の餌があるのに、縄が自分の体を縛っているせいで取りに行くことができない、みたいな。


 その上今の時点ですでに物足りなさを感じてしまうほど、この層に出てくるモンスターが俺にとっては弱すぎた。


「どうしようかなぁ……」


 今俺が手にしている袋の中にはこの層の中で一番稼げるモンスターである、シルバーチキンの魔石とシルバーチキンの肉である。


 だが、この魔石と肉を五時間以上集めてその全てを売っても三十万程度にしかならないため、あまり効率は良くないのだ。

 

「足りない……」


 目標金額を学生のうちに稼ぐには、少なくとも時給十万は稼げるようになりたい。それでもまだ足りないのだが。


「どのようにして第十一層より下に行こうか……あ、そうだ」


 と、どうしようか悩んでいると、前にこの大穴で知り合ったとある人を思い出した。その人とここで話が弾んだ後にお互いの連絡先を交換したんだった。


「確か困ったらいつでも頼ってもいいよとか言ってたよな。だったら遠慮なく頼らせてもらおっかな」


 俺はスマホを取り出しつつ俺に襲い掛かってきたモンスターを片手で受け止めながら、その電話番号に電話を掛けた。


 そして二度三度呼び出し音が鳴った後、その音が止んだと同時に一人の女性の声が聞こえた。


『もしもし?連絡早いわね。まぁこうなることは予想出来てたけど』


「あ、そうだったんですね。だったら俺が今から言う事も分かってます?」


『ある程度は。どうせ、第七層より深いところに潜りたいとか、そう言った話でしょ?』


「そうですね──あ、ちょっと待っててください──ふんっ……──お待たせしました」


『……』


 俺は片手で止めていたモンスターが突然暴れ始めたのですぐに処理し、灰となっていく死体から魔石を取り出すためにしゃがんだ。


『……相変わらずね』


「そうですかね?まぁ細かいことはいいじゃないですか」


『……それもそうね。んで、今どのくらい稼げているの?』


「五時間で三十万くらいですかね。シルバーチキン限定で狩ってこれくらいです」


『普通シルバーチキンだけでそれほど稼げるわけないんだけどね……ていうか、シルバーチキンのエンカウント率結構低かったはずだけれど……?確か二時間で一体とか……その上一体の肉と魔石合わせて二万程度くらいだったはずなんだけれど……?』


「え、そうなんすか?普通に第九層走り回ってたらめっちゃエンカしたんですけど」


『……あなたどのくらいの速度で駆け抜けていたのよ』


「知らないっすね。奏なら目算で正確に時速を計測できると思うっすけど、今いないしなぁ」


『……』


「まぁいいじゃないですか、そんなこと」


『……はぁ、そうね。それじゃあ話を戻して、第十一層より下に行くにはどうするかってこと、話しましょうか』


「よろしくお願いします」


『一番簡単な方法は私が今所属しているパーティに加入するってことだけど』


「了承してくれるならそうしたいのですが」


『でもねぇ……』


 一番手っ取り早く第十一層より下に行ける方法は彼女の言う通り、今彼女が所属しているパーティに加入することだ。だが、それには一つ、問題がある。


『他のメンバーがそれを承諾してくれるか、なのよねぇ……いくらなんでも高校生を入れるなんて、法律違反しちゃうわけだし……そんなリスク取りたくないって言うのが


「それもそうですね。そう考えるのは当たり前です」


『だから、そんなクソみたいな法律なんかどうでもいいから入れたいと、私以外のメンバーに示せたら、加入について考えてもいいと、リーダーは言っていたわ。どうする?』


「もちろん、やらせてもらいます」


 こんなの、みすみす逃すわけなかった。


 ──“螺旋”に加入するというチャンスを。

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