第8話 頑丈な少年VS日本最強
土曜日。今日はつい先日約束していた、死の大穴攻略チーム、“螺旋”の加入をかけた試験のようなものが行われる日だ。
俺は奏に出かける旨を伝えた後アパートを出て二駅先にある待ち合わせ場所へと向かう。
アパートを出る際に少しだけ奏が怪訝な顔をしていたが、バレていないと思いたい。
「あ、来たわね」
「先週ぶりです」
「そうね。あの時は本当に助かったわ。改めてお礼を言わせて頂戴」
「いえいえ。ていうか、別に俺の助けなくても大丈夫でしたよね?」
「あら、それはどうかしらね。まぁこんな無駄話は後でも出来る訳だし、取り敢えず向かうわよ」
彼女の名前は
そんな彼女のチーム内の立ち位置について移動しながら聞いてみた。
「苑宮さんって、実際螺旋内ではどれほど偉いんですか?」
「私?私はそうねぇ……サブリーダーくらいかしら。一応これでも二番目か三番目に強いからね、私。あんな出会い方して言うのもあれだけれど」
「へぇ……」
「何よ、その目は。もしかして疑ってるの?」
「いえいえ、実力に関しては何も疑ってませんよ」
「でもあなた、私のこと知らなかったわよね?これでも結構テレビとかネットニュースとかに出ているのだけれど」
「それはまぁ、テレビとか見てませんからね。ネットとかも調べ物以外全然使ってないですし」
「……今時珍しいわね。ネットを使わない学生なんて。私なんてしょっちゅう使ってるわよ?」
「それはチームの広報だからでしょう?前に聞きましたよ」
「あ、そうだったかしら」
そうやって雑談しているうちに螺旋の事務所が入っている、都内の高層マンションに辿り着いた。最初ここだと言われた時は、思わず“は?”と苑宮さんに思わず聞き返してしまったほどの大きさのマンションだった。
「こっちよ」
「……」
そしてあれよこれよという間に連れていかれ、気付くと俺はマンションのとある一室に入っていた。
そこには一人の厳つい男性が座っており、その横にはこれまた苑宮さんとは別ベクトルで美人な女性が立っていた。
(っ……この二人、強いな──ん?いや、気のせいか)
入った瞬間、二人から感じた圧力に少しだけ屈しそうになるも、持ち前の体の頑丈さで何とか持ちこたえた。
ていうか、学生相手になんちゅう圧を放ってるんだこの二人は。こんなん普通の人が喰らったら一瞬で泡吹いて倒れてしまう。
だが、それと同時にちょっとした違和感を感じたのだが……俺はそれを勘違いだと断定した。
「リーダー、連れて来たわよ。この子が例の」
「──そうか」
そう言ったリーダーと呼ばれた男は更に俺に圧をかけてきた。だがそれは既に入ってきた時点で慣れた。だから俺はそれを平然で流していると、リーダーと呼ばれた男は片方の眉を少しだけ上げた。
「……ほぅ」
「私を助けられるほどの実力はあるのよ?それくらい当然じゃない」
「……確かにそうだな」
そう男が告げた瞬間、横で立っていた女性がおもむろに腕を上げたかと思った瞬間、
「……っ」
突然、視界に強烈な違和感を感じた。
そう認識した瞬間、俺は即座に顔の前で腕をクロスさせる。その直後、俺の腕にさっきまで見えていなかったナイフが刺さっていた。
「……」
俺はそれを無言で腕から抜くと、それを持ち主に返すために持ち主──リーダーの横にいる女性の後ろに立っているさっきとは別の女性に向けて投げ返した。
「っ!?」
咄嗟にその女性はその場から飛んで離れ、俺の視界の端に移動した。その表情は驚愕で満ちている。まぁ、それもそうだろうな。
こんな学生に、攻撃が防がれるどころかあまつさえ居場所までバレてしまったのだ。自信があったのだろうな、隠れるという事に。
「……何故」
そう問うた声には純粋な疑問があった。そんなの俺が聞きたいのだが。どうして急に攻撃されなきゃいけないのだろう。
「はいはいそこまでよ、
「……サブリーダー」
「これでわかったでしょ?ねぇ、リーダー──いえ、坂本さん?」
「あぁ」
そしてリーダー──坂本さんは一枚の紙を取り出し、俺に見せてきた。
「これは契約書だ。だが、本来学生がどこかに所属するのは法律により禁止されている」
「クソみたいな法律よね」
「言うな。一応優遇されて、ある程度は見逃してくれてるんだから」
「それもそうね」
「話を戻すが、そういった法律があるせいで事務所が学生を将来有望なチームを加入させるには、その学生が卒業してからでないといけない。だが、そんな学生には多くの事務所が群がり争奪戦になる。だから予め多くの事務所は気に入った学生に唾を付ける」
確かにそんな話を奏から聞いたことがある。だがそれはかなり稀で、年に一人か二人くらいしかいないのだとか。
基本的に、どの事務所も欲しいのは即戦力だ。故に加入の誘いを受けるのは大穴に潜ってソロやパーティを組み数年大穴で経験を積んだ人が多い。
「だが、そんなものは、我々“螺旋”には関係ない」
そして渡してきた契約書に俺は目を通した。
「我々“螺旋”に、即戦力はいらない」
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