第34話 耐える少年VS巨大な蟻

「ふっ!」


「GRRRR!」


 振るってきた鎌を滑りながら避けつつ懐に入った俺は、そのまま胴をぶん殴った。


「っ」


 にしても甲羅がかなり硬い。こうも綺麗に一撃を入れたはずなのに罅が少しだけ入っただけ。力がやっぱりまだ足りなかった。


 更に意識を保ちバイオレンスにならないようにしているため、そっちにも意識を割かないといけない今、思うように力が上がらなかった。


「GGGGRRRRRR!!!」


「っ!」


 風を斬る音が聞こえてきたので、横を見ればすぐそこまで鎌が来ていた。俺はそれを確認してすぐにこの場を離れた。


 瞬間、俺がいた場所に鎌が通り過ぎる。そして俺は駆け出した。


「GGGGRRRRRR!!!」


「っと、危なっ!」


 やはりと言うべきか、奴も今まで同様触手を出し始めて俺に向かってまるでホーミング弾のように放ってきた。それらを飛んだり速度を落としたりしたりして躱していった俺はこれ以上触手がこないと見て、すぐに奴に向けて速度を一気に上げて駆け出した。


 ここでもう一度、さっき以上の拳をぶちかます……!


「っ!?まじかよっ!?」


 しかしそれは突如襲ってきた頭痛により断念せざる負えなかった。痛みで一瞬動きを止めた俺に、二対の鎌がクロスするかのように迫ってくる。慌てて避けた俺に更にいくつもの触手が迫ってくる。


「っぶな!?」


 それを後ろに下がりながら避けつつ、奴との離れた距離を確認する。そうして見ると、結構離れてしまったことが分かる。


「……このまま逃げる────ぅ」


 逃げようとするとさっき以上の猛烈な頭痛が俺を襲う。その痛みは頭を抱え、思わず膝をついてしまいそうなほどのものだった。


 どうやら今の俺に逃げると言う選択肢は無いらしい。困ったものだ。本当に。


「っ……やるしかないのか」


 俺はこのまま奴を殺さないと、この地獄から抜けられない。意識が暴走してしまったら負け。あの特異モンスターに殺されても負け。八方塞がりである。


 しかしここで頑張らないと彼女の元に帰ることができない。


「……これが終わったら纏まった休みを入れよう。絶対にっ!」


 俺は足に思いっきり力を込めて、今の俺が出せる最大速度で奴に迫った。


「GGGGRRRRRR!!!」


「遅せぇ!」


 鎌が振られるよりも先に奴に近づいた俺は、めいっぱい力を込めた拳でもう一度、さっき俺が殴った箇所を殴った。



 ドゴォッッッ!!!



「GGGRRIIII!?」


「っしゃ!このままァ!────っと危ない」


 一瞬緩んで意識が持っていかれそうになるもなんとか持ちこたえて連続で殴っていく。この時俺の拳はその硬い甲羅によってズタズタになってしまっていたが、それは自然治癒の速さに頼りなんとか拳がぶっ壊れずに済んでいる。


 俺の連撃を防ごうにも体に響いている振動で、奴は触手すら動かせなくなっていた。


「オラオラオラオラアアアアアアアア!!!」


「GRRRRRRRRAAAAAAA!!!」


 しかしそれに慣れてきたのか、遂に俺の連撃を止めるべく触手が俺に飛んできた。


「チッ」


 俺は左右からくる触手を掴んでそれを思いっきり引っ張り引きちぎった後、更に頭上から数本の触手が来たのでそれらは奴から離れることで避けることに成功する。


 これで奴は俺の連撃を止めることができたが、それはあまりにも遅かった。


「GGGG……」


「ふぅ……」


 しかし、俺もこれで止められて都合がよかったりする。だってあともう少しでもあの状況が続いてしまえば俺の意識が乗っ取られていたかもしれないからだ。


 そうしたらアドバンスを、そして“血気曼荼羅”使われてしまう。


 俺のこれはもう一種の病気のようなものだから、少しでも進行させてはいけない。前は結構いいかもと思っていたが、今思えばこんなの使いづらい以外の何物でもない。


 使用者を一方的に快楽に陥れ、壊させる。悪魔のようなシステムである。


「……」


「GGRRRRRRR!!!」


 そして遂に怒りを露わにした特異モンスターの咆哮がこの層中に響き渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る