第33話 衝動VS理性

「ハハハハハッッッ!!!」


 第二十五層。俺は衝動に逆らう事が出来ずにどんどん深くに潜っていた。そして今、俺の周りには無数のモンスターがおり、次々と俺に襲い掛かってきていた。


 そいつらを引きちぎったり握りつぶしたり、殴り殴られを繰り返す。


 俺は既に悦に浸っていた。


「楽しいなァ、おいィ!」


 すると奥から一際大きな気配を感じ取った。この気配を俺は過去に二度感じたことがある。最初はかなり危ない状況になってしまったが二度目は俺以外にも人がいたから特に脅威と感じなかった。


 そして、これが三度目。


「GRRRRRRIIIIIII!!!」


「特異モンスター……っ!」


 思わず口角が上がってしまう。二度目の時はつまらなかった。それはタイマンじゃなかったから。それに、命の危険を感じなかったから。


 だが、一度目と今回は違う。


「いいねェ。運が良いィ」




 ────しかし、同時に冷静な自分がこれからしようとしていることにブレーキを掛ける。このままだと後戻りできない、と。


「……確かに」


 俺の心はもう満たされているはずだ。奏と付き合う事が出来て、もう大穴に潜る必要が無いって、さっき悩んだばかりじゃないか。


 ん?なんで衝動が起きているのにこんな冷静に考えれるんだ?


「と言うか、“衝動”ってなんだ?」


 そもそもだ。


 俺はさっきから“衝動”、“衝動”って言っていたけれど、その衝動って何のことを指しているのだろう。もしかして今の俺のこの心境のこと……?


 いや、違うな。


「……」


 これは、死んだあの時と同じだ。


 この世は曼荼羅力が全てだと悟ったを発動させた時と同じような感覚と全く変わらない。


 そうか。衝動って────アドバンスが勝手に発動する前兆……!


「今、アドバンスが発動しているのか……?いや、そんなこと、あり得る訳……それも勝手に────っ!?」


 途端思考が塗り替えられる感覚に襲われる。冷静になりかけていた思考が無理矢理暴走し始める。もうすぐ来るであろう特異モンスターを殺すんだと、思考が切り替わり始めている。


「そう、か……っ、これが……代償、のようなものか……っ!」


 考えていたのだ。アドバンスを代償も無しに使い続けられるのか、と。だが、やはり存在していた。


 特に俺のスキルは常時発動型。つまり、いつアドバンスが発動してもおかしくない。そんな爆弾を抱えたまま俺は大穴に潜り続けていたのか……!


 アドバンスが発動してしまえば強靭な力を得る代わりに思考が暴力的になってしまう。それはアドバイスが解除された後も多少引きずる。つまり何度も使って行けば、アドバンスを使っていなくても乱暴な性格になってしまうだろう。


 それは駄目だ。


 そうしてしまえば、奏を傷つけてしまう。


 奏だけじゃない。属道や、馳寺さんだって傷つけてしまうだろう。俺のこの強大過ぎる力だったら、最悪殺してしまうのかもしれない。


 人を傷つけるのが正しいなんて思いたくない。思ってはいけない。


 なのに……。


(くそっ……っ)


 頭を何かがガンガンと叩いてくるような、そんな痛みが襲ってくる。目の前まで迫ってきた特異モンスターを殺せと、俺じゃない誰かが頭の中でそう叫んでいるかのように。


「……っ」


「GIIIIIIGIGIGIGI!」


「っ!?チッ!」


 だが痛みで悶絶している暇などありはしなかった。俺の存在を確認した特異モンスター────蟻をそのまま巨大化させたようなモンスターの“ジャイアントアント”はその腕にあった鋭い刃を携えた鎌で俺の首を掻き切らんと、横薙ぎで振るってきた。


 それを慌てて避けた俺は、この頭痛に耐えながらなんとか奴と戦うことに。


「うっ!?」


 しかしそんなことなど、出来はしなかった。何度も振り下ろしてくる鎌を避けながら反撃するなど、いつもだったらできていたが今は正常な判断ができていなかった。


 そのせいでかすり傷をいくつも貰ってしまった。


「……っ」


 更にスキルの効果も下がっているのか、いつもより治りが悪く、既に治っているはずのかすり傷がまだ残っていた。


「一旦上に上がって────いや」


 俺は上がって逃げようと思ったが、もし逃げた先でスキルが暴走し、アドバンスが発動してしまったら。そう思うとそんなことできる訳が無かった。


「……もう、ここで吐き出すしか、ない……っ!」


 俺はここで覚悟を決めた。


 使。初めてのことだが、ここでやるしかない……!

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