第35話 耐える少年VS怒る蟻
遂にジャイアントアントの特異モンスターが本気を出し始めた。
さっき以上に苛烈になった攻撃を避け続けてそう思う。避けた先にまるで未来を見たかのように自分の鎌を置いているのだ。俺はそれを見て避けているため、結構厳しい状況に陥っていた。
「まずいな……っと!」
左に飛んで避けた直後に丁度鎌が俺に振るわれたので、タイミングを合わせてその鎌の峰の部分を持って体全体を上に持ち上げて無理矢理空中で避ける。
同時に上から迫ってきた触手の先端を足で蹴り飛ばしていく。そして頃合いを見てまだ掴んだままだった俺を落とそうと振っている鎌から手を放し、空中で体勢を整えて地面に降りる。すると奴の鎌が奴の触手を斬っているのが見えた。
「GGGGRRRRRR!?」
「チャンスッ!」
俺はそれに怯んでいるうちに奴の左側に回り込んで、
「オラァッッッ!!!」
「GGGGRRRRIRIRIRIRIRI!?!?!?」
しっかり踏み込んだ渾身の一撃を奴の腕の関節に叩き込んだ。奴はそれはそれはとても硬い甲羅によって体全体を守っているが、唯一関節にだけは甲羅が無かった。しかし関節部分を殴ろうにもかなり狭く、そしてしっかりと狙って放たないと傍にある甲羅によって防がれてしまうのだ。
しかし今回は奴が怯んでいたおかげで狙った所に撃つ事ができた。めり込んだ拳を更に押し込めば、更に緑色の血がその関節から飛び出してくる。
一旦腕を引き抜いた俺はそのまま穴が開いている関節部分の左右にある甲羅に手を伸ばし、穴を更に広げるようにして引っ張って、
「フンッッッ!!!」
「GRIGRIGRIGRIRRRIRIRRGGG!?!?!?」
思いっきり左腕を引きちぎった。その痛みで今日一番の咆哮を上げるモンスターを傍目に俺は更に右側へと回り込み、俺はさっきと全く同じことをしようとした。
「GGGGRRRRRR!」
「っ!?」
しかしそれは劈くようなさっきとは違う咆哮によって動きを止めざる負えなかった。俺は一旦後ろに下がり、様子を見つつ回復に専念する。
「……GGGGERRR」
「……なんだ?」
すると奴の様子がさっきと変わっていた。さっきまでガツガツと俺に攻めていたのに、今はまるで俺と同じように、俺の様子を見ている。
それは一種の怯えのように見えた。
「何震えてんだ……お前」
「……」
だがそれが分かったとて、俺は荒ぶりそうになった心を鎮めるために動くことはできず、奴の動きを警戒するに留めていた。
正直、今この状態で動こうならば即座に自分のアドバンスが勝手に起動し“血気曼荼羅”を発動させるだろう。そうなれば俺の思考はより一層暴力的な方に進んでしまう。
……もうそろそろきつくなってきた。
「……っ」
と、生え変わった触手がさっき以上の速度で俺に迫ってきた。それらを避けていくが、
「っ!?」
突然目がさっきまで見ていた方とは別の方向を向き始めた。俺の意思とは関係なく。
────遂に始まってしまった。
そして触手から目を離してしまったため、いくつもの触手が俺の体を突き刺していった。
「くっ!?ったいなぁ!」
すぐに目を触手の方に戻して、刺さっているのを千切ってから刺さったままの触手の残りを引き抜いて捨てて行く。そして即座にその傷が癒えていった。
これは……手遅れか?
「まだ、まだだ……!」
俺は足に力を込めていく。溜めていた分まで。
「まだアアアアアア!!!」
叫ぶと同時にそれを一気に解き放った。さっきまでとは速度が段違いだった。今まで枷を掛けられた状態で戦っていたので、枷を少しだけ外された瞬間こうも変わるとは、自分の体なのに驚きだ。
「GGGGRRRRRR!!!」
「アアアア!」
最初よりも素早く振るわれるようになった鎌と触手を見てから即座に避けていくと、自然と懐に入る。
体にもきっと甲羅と甲羅の間にできる隙間があるはずだと見た俺はそこをすぐに探し出し、拳をそこに突き出した。
ガキンッッッ!
「チッ」
だが狙いが甘かったのか甲羅に防がれてしまった。甲羅を破壊するような威力で放っていなかったため簡単に弾かれてしまう。もう少し力を込めればよかった。
……思考が少しだけ寄っていたな。戻そう。
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