第36話 耐久VS限界
その後も何度も甲羅と甲羅の隙間を狙って殴り続けると、
「お!」
「GRRRRR!?」
柔い感触が俺の拳に伝わってきた。ようやく弱点を突くことができた。それまで何度も触手が俺の体を突き刺してきたり鎌が俺の両腕両足を切り裂いてきたりして、数え切れないほどの腕や足がそこら中に散らばっている。
────もう俺は人間を卒業してしまっていた。
「もうこうなったら、人間って名乗れないよな……」
いったん離れて俺がそう愚痴ると、ジャイアントアントは返事をするかのように触手を飛ばしてきた。見るとその触手の先端には鋭い針が。どうやらこの戦闘中に進化したようだ。
まさかモンスターも戦闘中に進化するんだと変な関心をしている間に針は俺の体を突き刺していく。既に感覚がマヒしたのか、突き刺されているはずなのに、今の俺は何も感じなくなっていた。
「あーあァ……」
心臓を一突きされた俺はそう呟くと、取り敢えず刺さっている触手を体を振るって無理矢理千切る。血気曼荼羅を使っていないにもかかわらず、既に使っている時と遜色ない程の速さで俺の体は回復していく。
刺される前の体に戻っていた。
「ふぅ」
体力が減ってきて、ちょっと疲れたなぁと思ったけど、それもすぐに回復する。一体この回復力はどこから来ているのだろうか。何度かそんなことを考えたりしたが、結局分からずじまいだった。けど今なら分かる気がする。
────寿命を削っているのだ。
この異常なまでの回復力は、俺の寿命を削っている。……多分。根拠はない。けれど、じゃないとこの回復力に説明がつかないのだ。
もしくは、モンスターを殺しまくったからこうなっているから……とか?だったらもっとモンスターを殺さなきゃ────
「さて、とォ────あ」
と、また思考が寄っていることに気づく。どんどん意識が寄って行っている感じが分かる。
既に体がどれほど傷ついたとしても戦い続けないと、と考え始めてしまっていて、実際そのように動こうとしていた。いや、動いていた。
「……バーサーカーはやだなぁ、俺」
もう手遅れ……なのかもな。
そう思いながら俺の拳は奴の甲羅を突き破っていた。もうこれ以上意識を……っ、このままにすることはできない……。
「と、取り敢えず奏にごめんって……いわ、な……いと……」
すぐに携帯を取り出して奏に一言“ごめん”と送った。これだけできっと彼女は察してくれるはずだ。
「さ、てと……────ぁ」
そして携帯を仕舞った瞬間、目の前にいた蟻は心臓のようなものが俺の手によって破壊されたために灰となって消え始めた。
それはまるでこれから起きる俺を現しているようだった。
「ふぅ……────ァ、アァ……」
意識が塗り替わっていく。もう後戻りはできない。
今まで抑えられなかった全てが、俺の心から流れ出していく。いつか解き放ってみたいと思っていた全てが、俺の胸の奥底で眠っていた暴力が。
『─────どれほど辛くても、その力だけは振るっては駄目よ』
「ごめんなァ、奏……無理だ」
そして天を仰ぎ、頬に冷たいものがツーっと零れ────口角が思いっきり上がった。
「血気曼荼羅ァ……!」
瞬間、この層の天井が幾重にも線が重なった複雑な模様に染まった。
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ストックが切れました……!
これから不定期更新になります。
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