第3話 派手な少年たちVS興味の無い少女たち

「おはよー」


「おっはーだよ!お二人さん!」


 朝。


 俺と奏はいつものように一緒に登校し、自分たちのクラスであるB組の中に入った。すると早速俺たちに声をかけてくる者が二人いた。


「属道と馳寺か」


「いやぁ、二人とも相変わらずだねぇ」


「本当にそうだね!1ヶ月もすればもう慣れちゃったよ!」


「属道はいつもみたいにのんびりしているし、馳寺もいつもみたいに明るいな」


「本当にそうね……その元気は一体どこから湧き上がっているのかしら。属道くんを見習ったら?」


「え?やだ!」


「それは……強く否定されるとなんかくるものがあるなぁ」


 のんびりしている男子の名前は、属道剛太ぞくみちこうた。いつもこのような語尾を伸ばすようにして話しており、本人の性格も大変のんびりしている。そのせいなのか、一つ一つの行動がゆっくりとしていて、そのせいで授業に遅れそうになっており、それを見かねた俺が話しかけ、それがきっかけで良く話すようになった。


 そしてそんな彼とは正反対に、とても元気で明るい彼女の名前は馳寺明里はせじあかり。彼女は初対面の人に対しても物怖じせず、逆にグイグイと距離を詰めることができる人で、入学式直後に彼女の方から話しかけてもらい、こうして友達として一緒に過ごしている。


「今日って確か、英語の小テストがあったよね!」


「確かそうだったねぇ……勉強した?僕はしてないよぉ」


「属道の場合はしてなくても点が取れるだろ」


「私もしてないわよ?」


「奏もしなくても点が取れるだろ」


「私もしてなーい!」


「馳寺はしなさい」


「関次もね!」


「残念だったな馳寺!俺はちゃんとしてきたぞ!というか、奏に強制的にさせられた!」


「しょうがないでしょ?それはもう酷かったんだから」


「えー、いいなぁ!私にも教えて!今日のテスト不安なんだよー!」


「もう時間がないから無理よ。諦めなさい」


「えー!ケチ!」


「ケチじゃありません」


「でも昨日の夜とか時間あったじゃん!その時にでも教えて欲しかった!連絡したのに奏ったら出ないんだもん!」


「明里、あなたがかけてきた時間、今日の朝にスマホの履歴を確認したけど確か夜の11時とかだったわよね?その時間はきついって前言ったと思うけど?」


「でもでも!」


「あの二人が言い合い始めたら止まらないから、僕らはちょっと離れてよっか」


「そうだな。それより属道、今度さ──」


 と、俺たちが彼女の元を離れた、その時だった。


「なぁ、そこの女子お二人さん」


「んー?」


「はぁ……何よ」


「今度さ、俺たちと一緒にどっか食べに行かない?」


 俺たちが離れるのを見計らっていたのか、いかにもな感じの男子三人組が奏達に声をかけていた。制服を着崩し、髪を染め、校則違反であるピアスを耳にしている。


 あんな派手な奴はクラスにはいないから他のクラスのやつなんだろうが……何度か校内で見かけたことはある。


 初めて彼らを見た時は驚いたものだ。都会にはこんな見た目が派手な人がいるんだな、と。今では何も感じないが。


「……何で?」


「入学してから1ヶ月経ったし、クラス間を超えて親睦を深めようかなって思ったんだよ。んで、どうよ?」


「……誰が来る予定なの?」


「今のところ俺ら三人と、あと千代久さんと馳寺さんと後一人他のクラスの女子を誘う予定だけど。てか、そんなこと別に気にすることないって!いいじゃん行こうよ!」


「……はぁ」


 そして放たれた奏のあの重いため息……俺には分かる。今の奏は不機嫌だという事が。その時は触る神に祟りなしだ。傍観することに徹しよう。


「行くわけないでしょ。馬鹿じゃないの?」


「確かに私も正直興味ない!だからごめんね!」


「なっ……!」


 睨みながら言い放った奏と彼女以上に強い言葉で拒絶した馳寺さんに男三人は驚きのあまり言葉を失ってしまった。きっと成功すると思っていたのだろう。そんで、少しでもお近づきになりたかったのだろう。そんな魂胆が見え見えだった。馬鹿な俺でも分かるくらいだ、きっと彼女らも奴らの魂胆には気づいている。もしかしたらそれ以上の、今の俺ですら気づけていないことも、分かっているのかも知れない。


 て言うか、幼馴染である俺ですら奏を食事に誘えていないのに……何というか、彼らは凄いな。あの勇気を見習わなければ。


「す、少しくらい、いいだろ……?な……?」


「しつこい男子は嫌われるわよ?とっとと失せなさい」


「バイバーイ!二度と声かけてこないでね!」


「っ!?くそっ……」


 諦めきれずになお縋りついたが、それも払われ、奴らは悪態をついて元いた場所に戻って行った。


 まぁ確かに、奏の容姿は幼馴染で俺の好きな相手という贔屓目なしにしても整っていると思う。それはここに引っ越してきてからより強く感じたことだ。


 同居しているとどうしても一緒に行動しないといけない時というのがある。一番多いのは買い出しとかだが、そうしているとやはり彼女に物凄い数の視線が送られているのが分かるのだ。


 それに比べると俺は何というか、影が薄い。まぁパッとしない顔だからというのもあるのだろう。一応筋トレはしているが、どうやら着痩せするタイプだったようで服の上からだと長年鍛えてきた筋肉が隠されてしまい、一見しても筋肉があるようには見えなかったのだ。


 でも前に奏に、


『なんて言うか……あなたの体って本当に鍛えてるのか分からないくらい、筋肉ついているように見えないのよね……』


 と言われてしまった……。


「……俺もあんな風に派手になった方がいいのか……?」


「ならないでね?」


 俺がボソリと呟くと、いつの間に側まで来ていた奏が即座に俺の些細な悩みを切り捨てた。


「え……何で?」


「だってそれだとあなたの顔──何でもないわ。菅十はずっとそのままにしなさい。命令よ」


「命令?何でお前にいちいち身なりを指図されなきゃいけないんだよ!?」


「駄目ったら駄目!いい?あなたはそのままでいいの!」


「はあ!?少しくらいイメチェンしてもいいじゃんか!」


「少しならいいけど、その尺度は私が決めるわ!」


「あ、また夫婦喧嘩始まったねぇ」


「ね!夫婦でいつもやってるよね!」


「「夫婦じゃない!!」」


 俺たちは変なことを言った二人にそう叫んだ。そう、夫婦じゃないのだ。

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