第4話 田舎者な少年少女VS大型デパート
「明日は初めての実地研修が行われるのでそのつもりで」
「「「はーい」」」
終礼にそのような連絡を受ける。そう言えばこの前配られた年間予定表に書いてあったっけ。忘れてた。
「……その顔、忘れてたでしょ」
「……うん」
隣に座っている奏に小声で言われ、思わず正直に言ってしまった。
「……はぁ、だと思った。この後必要な物買いに行くわよ」
「分かった」
と、言う事で放課後。
俺と奏と、そしてどこから聞きつけたのか馳寺と属道もついてきた。まぁこの近辺にどんな店があるのか俺も奏も知らなかったので正直助かった部分はある。
そしてその二人のおすすめとして紹介された場所が──
「でっか……」
「これが噂の……」
「あぁ、馳寺さんはともかく、そう言えば二人は来たことが無かったんだっけ?」
「そうだな。少なくとも俺たちの地元にはないな。デパートは」
「凄いでしょ!」
「何で関係のない馳寺さんが自慢してるのよ」
ここら周辺で一番の規模を持つ大型ショッピングデパート、“るるぷーる”である。このるるぷーる、実は全国に展開しており、当然俺たちの地元の県にもあった。そしてそのCMも偶に流れていたが、行ったことは無かった。だって家の一番近いそこに行こうとしても、二時間以上かかったし。奏とのデート先としても遠すぎて無理だと諦め、下見にもいくことすら無かった。
だからだろうか、一度は諦めた物が目の前に広がっており、俺は少なからず興奮していた。
「いこーぜ!」
「いこー!」
「はぁ……二人はなんでこうもテンションが高いのかしら」
「でも、千代久さんも少し嬉しそうに見えるけどねぇ」
「……属道くん、余計なお世話。これは彼にバレちゃいけないの」
「分かってるって」
「ん?奏、なんか言ったか?」
「んーん、何でもないわよ。さ、早く行きましょ。時間は有限なんだし」
「よーし!皆の者、私に続けぇー!」
「よっしゃー!」
「ちょっ!?二人ともいきなり走らないで!?」
「え、ちょっと三人とも、僕を置いて行かないでー……」
そして俺と奏は初めてのデパートへと足を踏み入れた。
瞬間、目の前に広がる景色に思わず目を疑ってしまった。どこを見ても店、店、店。こんなの、見た事がない。
「すげぇ……デパートって、すげぇ」
「まぁ気持ちはわかるけど、お願いだからちょっと抑えて……」
「あ、すまん……」
と、俺が感動していると横から呆れるように奏に言われたので俺は未だ治まることを知らない興奮した気持ちを無理矢理抑える。
「初めて来たらやっぱり誰もそんな反応するよね!私もしたもん!」
「おう、これはすげぇわ」
「僕はそんな驚かなかったけどね。でも気持ちは分かるよ。ここって東京でも随一の広さを誇るデパートだし」
「私たちが住んでた場所からだとやっぱり遠いってイメージがあったから、気になってはいたのよ。来れてよかったわ」
「よし!それじゃあ、最初はあそこに行こー!」
そう言って馳寺さんが指差した先にあったのは、
「……ラーメン?」
「そう、ラーメン!まずは腹ごしらえから!基本だよね!」
「……入るかしら」
「まだ昼食が残ってるから、僕はパス」
「俺は行けるぜ」
「よーし!なら関次くん!一緒に突撃しよー!」
「何事も体験だー!」
「体験って……ここってチェーン店だから地元でも食べれるところじゃない。ていうか、何度も食べに行ったところだし……」
「あ、そっか。すまん馳寺。別のところにしようぜ」
「えー?いいじゃんここ、美味しいし!」
それ以降も馳寺はここがいいのか駄々を捏ね始めたが、見かねた奏がずいっと顔を彼女に近づけると、途端に静かになった。あれ、結構怖いんだよな。笑顔なのに、笑ってないんだよ、目が。まぁ美人なのでそれすらも絵になるのだが。
「とにかく、明日の準備を始めるわよ」
「おう」
「うん」
「……ラーメン」
「馳寺さんはいい加減それから離れるっ」
「……はーい」
そしてどこにどんな店があるのか二人に教えてもらいつつ、明日の実地研修に必要な物を全て揃える事ができた。
すると、買ったものをまじまじと見ながら馳寺が口を開いた。
「実地研修かぁ……初回の成績が良かったら許可は必要でかつ第五層までって制限はあるけど死の大穴に潜れるようになるんでしょ?」
「そうなのか?」
「……あなたは先生の話を聞いていなさいよ。そう、馳寺さんの言う通りよ。まぁその許可っていうのは一人で潜ってはいけないってもので、必ず複数人で潜ることを申請しないといけないってものだから、あんまり関係ないわね。それも一か月くらい経てばそんな申請無く第十層まで自由に潜れるようになるんだけど」
「……なるほどな」
……これは少しだけ、計画を練り直す必要が出てきたかも知れないな。まぁ計画といってもお粗末なもので、ただ沢山潜って沢山狩って沢山稼ぐというものだったのだが、それができないとなると……どうすればいいんだろう。
まぁいいか。
そんなこんなで今日という日は過ぎ去っていき、ついに実地研修当日を迎えた。
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