第5話 未熟な生徒たちVS死の大穴
「では、各クラス分かれて並んで下さい」
そう指示を受けた俺たちは自分のクラスが書かれた電子板を探し、そこに並ぶ。
「……いよいよかぁ」
「ちょっとドキドキするね」
「俺もついに大穴デビューかー!」
「……入学するんじゃなかった」
そして周りを見てみると、緊張している者や興奮している者、そして既に恐怖を抱いている者など、様々な反応が見れた。
「スキルがあればどんなものでも、たとえ戦闘向けのスキルじゃないとしても探索者育成対象……あれ本当にどうにかならないかしら」
「まぁ奏のスキルは戦闘向けじゃないからな」
「大まか、参謀を任されるんじゃないかしら。そうなったら、菅十は私の言うことを聞かないといけないわね?」
「……まぁ、そうなるだろうな」
「その時はちゃんと私の言うことを聞くのよ?いい?」
「いつもちゃんと聞いてるだろ」
「……それもそうね。いらない心配だった──ん?ちょっと待って。何度か私の言うことを聞かずに突っ走ったことあったわよね。ここに入学すると決めた時とか」
「うっ……そ、それはですね……」
「ちゃんと、聞くの。い・い・わ・ね?」
「……はい」
「それでは出発する!」
その号令と共に、A組から出発し始めた。
これから俺たちが向かう先は公共交通機関の転移陣だ。転移陣とは死の大穴で発掘された謎の模様が描かれた大きな石の板なのだが、これに電気を流して乗ると、なんとその板と同じ模様が描かれている板に一瞬で移動できるのだ。
電車よりも割高になるが、遠いところでも移動時間を短縮することができるとして、近年多くに人に利用され始めたものだ。
この学校の近くにもそれが使える場所がある。
そこへの移動中俺と奏と、後馳寺さんと属道の四人で話していたので、ちょっとしたトラブルはあったものの、あっという間だった。
そして出発してから一時間。
「それでは、今日から二日間かけて実地研修を行う!」
現役の探索者たちから多くの視線を向けられながら、俺たちはついに死の大穴へと足を踏み入れた。
「……お?」
「これは……」
その瞬間、俺の体に異変を感じた。が、それもすぐに治った。横を向くと、奏が頭を少しだけ辛そうに抱えていたが、すぐに元に戻った。
「これがスキルの本来の力……凄いわね」
「……確かに」
俺は手を握って開いてを繰り返す。確かに、筋肉の筋一本一本が強化されたような、そんな感じがした。周りを見てみると、俺たちみたいに違和感を感じている人がほとんどだった。
「属道、どうだ?」
「僕?僕はやっぱスキルがあれだったからかな、特に何も感じなかったかなぁ」
属道のスキルは“スロー”。彼の性格をそのままスキルにしたようなもので、効果もあらゆる物体の速度を遅くさせるというものだ。だがそれも限度があり、一定の強さを持つ者に抵抗されればその効果はなくなる……らしい。まだ本人も使ったことが無い為あまり分かっていない。
「まぁでも、なんとなくだけどこうやって使うんだなぁってのは分かったよ」
「へぇ……俺はそうならなかったな」
「関次くんのスキルは“力”だっけ。筋肉を強化するってやつ」
「あぁ。それだけだ」
「それだけ……ねぇ」
なんか言いたげな表情を見せる属道だったが、俺がこれ以上言わなくなったことから彼も何も言うことは無かった。
「モンスターが出てき始めるのは第三層からだ。それまでに覚悟を決めておくように」
「「「「はい」」」」
前を歩き、警戒している先生からそう言われる。確かに今の空気は遠足に来ている感じの、緩い空気だ。
本来だったらここは殺伐とした場所なのにな。
その後三層まで特に何も特筆すべきことは無く。
「ここからモンスターが出現します。皆さん、気を付けてください。死にますよ」
「っ!」
そう先生が告げた瞬間、みんなの緩んでいた空気が一気に引き締まるのを感じた。現役の探索者の言葉には、流石に従わないといけないと思ったのだろう。
「……」
隣にいる奏もなんだか今まで見たことのない緊張したような、こわばった表情をしていた。
ここから先は、一歩間違えれば死ぬ世界だ。
「皆さん、私の前には出ないように。間違えても、スキルの試し打ちなんてしないように」
「「「「はい」」」」
その時だった。
「GURAAAAAAAAA!!!」
「「「「っ!?」」」」
叫び声と共に、数体のモンスターが奥から現れた。そいつらの大きさは俺たちの身長の二倍はあり、動物が放つことのない殺意を振り撒いていた。
その殺意に当てられたのか、近くにいたとある生徒は泡を吹いて気絶してしまった。
「……来ましたか。ですがなぜこのモンスターがここに来れたのでしょう……おかしいですが、どうでもいいですね」
そして静かに呟いた先生は静かに、背負っていた鞘から剣を抜いた。その剣はおおよそ人が扱える剣の二倍以上の大きさがあった。所謂大剣と呼ばれるものだろう。
「では、皆さん下がってください。今殲滅しますので」
そう言った瞬間、先生の姿がその場から消えた。
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