第2話 力持ちな少年VS思慮深い少女
あの衝撃的(?)な入学式から1ヶ月。東京での生活にもようやく慣れ始め、俺たちは今二人で向き合う形で朝食を食べている。
「スキル測定……噂では聞いていたけど、本当にあったのね」
「まぁ、俺たちがいたとこって所詮田舎だからな。来る情報も限られるから知らなくても仕方ないっちゃ仕方ないんだが」
「それでもあの視線は辛かったわ」
「そうだな」
つい先日、俺たちは探索科の授業の一環としてスキル測定を受けてきた。
スキルとは、死の大穴の中でのみ発動できる特殊能力のことで、一言で言えば超能力である。
ありきたりなものだったら両手から炎を出せたり、物を浮かしたり、後は分かりずらいが剣の扱いが上手くなったりなど、色々ある。
だが、万人がそのスキルを得られると言うとそう言うわけではない。
俺たちは運良くスキルを得られたが、中には得られなかった同級生もいる。そう言った生徒は探索科から強制的に探索補助科という探索科が使うアイテムを開発するところに移されるのだ。
そして俺たちはそのスキルと言うのが一体何なのか一切知らなかったため、測定の仕方も分からなかったのだ。ちょっと恥ずかしかった。
「まぁでもスキルを得られたのは良かったな」
「そうね」
そう言いながら彼女はサラダを食べる。最初は彼女といきなり同居するなんて思っても見なかったが、1ヶ月もすればこうやって慣れるんだなぁ。
こんなに同居が早まるとは思ってなかったが。
俺としては、高校を卒業した後で彼女を迎えに行く予定だったんだけど……まぁ、いっか。嬉しいことには変わりないし。
俺の好きな人が俺の為に朝食を作ってくれて、そして一緒に食べてくれている。
なんか、もうこれだけで満足してしまいそうだ。
「スキル……死の大穴の外だと1000分の一の効力になっちゃうの、本当にやめて欲しいのだけれど」
「でもそれがなかったら今頃世界は崩壊してるけどな。俺には関係ないけど」
「……“力”、だっけ。筋肉を傷つければ傷つけるほどその強度を上げるっていう」
「うん。まぁ1000分の一にまでその効果は下がってるけど。不幸中の幸いだったのは今まで培ってきた筋トレにも効果が付与されてたって事だな」
そう、実は俺のスキル“力”は今まで傷つけてきた分、つまり初めて奏を見た三歳の時から続けていた筋トレもカウントしていたのだ。
そして、それが俺が鉄骨三本を片手で持ち上げられた要因でもあった。それができた時は自分でもえぇ……と引いてしまったが。
まぁ、他の人よりも力持ちになったってことで。良かった良かった。
「それに比べて、私のは……」
「俺は仕掛けの種がわかってよかったって思ったよ」
「何が仕掛けの種よ。私はマジックでもしていたのかしら?」
「でもいつも俺の思考先読みしてるじゃん」
「それはあなたの思考がわかりやすいからよ」
奏のスキルは“脳”。このスキルを簡単に言えばもう一つの脳みそを彼女の頭の中に作る、と言うものだ。と言っても実際に作られる訳ではなくて、なんていうんだろう、外付けハードディスク……みたいな?
「今私のスキルについて考えているんでしょうけど、私のこれは、外付けハードディスクなんかじゃないわよ……?CPUよCPU。パソコンで例えるなら、中にCPUが二つあるの。それも、最高峰の計算速度を持ったものが二つ、ね。……まぁ今は1000分の一にまで縮小してるからそんなに意味はないのだけれど。それに、外付けハードディスクはただ記録するだけのもので、自分で計算しようとしないじゃない」
すると突然近くにあった、まだ使っていない箸を手に持った彼女は、それをまるでダーツをするかのように構え、俺に向けて投げた。
「だから──私のスキルをそんな粗末なものに例える、なっ!」
CPU……へぇ。それが何なのか分からないけど、とにかくすごいという事だけは分かった。
彼女が異常なほど、それこそ今俺に向かって飛んできている箸の速度を見ただけで正確に当てることができるほどには計算力が高い。死の大穴の外で1000分の一にまで効力が激減しているというのにそんなことができるなんて。聞いた時は驚いたものだ。
だって前に地元の中学であった球技大会で突然、
『あの球、多分時速20km程度かしら』
なんて言ってきたのだ。
そんな彼女の目はその異常な脳に繋がっているためあらゆる情報を手に入れることができる、言ってしまえば細かな情報すら逃さない網のようなものとなっている。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は頭を傾ける。直後、俺の真横を凶器が走り抜けた。
「危なっ」
「むぅ……そんな簡単に避けなくても」
「いや、遅いし」
「これ、普通の人だったら今頃目玉にぶっ刺さってるのに」
「そんな危ないことしない。目に当たっても弾くことができる俺だからいいものを。他の人にはするなよ」
「しないわよ。少なくともあなた以外には」
「俺にも、しないでね?」
「するわよ?」
そんな頭をコテンと傾けながら平然と言われてしまったら、こっちとしてはもう何も言えないのである。可愛い。
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