第26話 力持ちな少年VS悪足掻きをする青年
洌崎さんを回収するために俺はまだ気絶している彼の元へと向かった。
「……」
「……期待していたのに」
思わず本音が漏れてしまった。だが仕方ないだろう。もっと楽しめると思ったのに、中身を見てみればただ強力なスキルをひけらかしているだけの大きな子供だったのだから。
スキルの使い方がまるでなっていなかった。彼の持っているスキル“爪”はただ手の爪を伸ばして鋭くするだけのスキルじゃないことはすぐに分かった。爪が何で出来ているかをしっかりと理解すれば、きっと他の使い方だってあったはずだ。
にもかかわらずこいつはただ爪を伸ばして鋭くするだけと言う芸のないことしかしてこなかった。
また、大穴の中ではスキルの効果かは知らないが誰もが身体能力が向上するのは有名な話だ。特に大穴の外で身体能力が高い奴ほどその恩恵を受けると言う。
今目の前で伸びている洌崎さんだってその例に漏れない。が、その身体能力に頼りすぎている節が見えた。確かに最後に物を言うのは己の身体なのはわかるが、それにしても頼りすぎだ。
更に彼の戦い方は武術の色が色濃く見えた。対人ならばその戦い方は正しい。しかし、俺が戦い方を人のそれから獣のようなそれに変えても彼は戦い方を変えなかった。
この大穴での戦い方を最後まですることは無かったのだ。それはつまり、臨機応変に対応する力が無いという事。それにさっき武術の色が濃かったと言ったが、今思えばかなり力任せというか、爪の耐久力と鋭さに頼りすぎていた感じも見えた気がする。もうあまり覚えていないので、そこらは曖昧となっているが。
どちらにせよ、
「……弱い」
「……っ」
すると既に意識を取り戻していたのか、薄っすらと奴は目を開けた。
「俺が……弱いだと……」
「事実を言ったまでですよ。まだ大穴に潜り始めて間もない新人に負けるベテランなんてそうそういませんからね」
「……お前が、異常なんだよ」
「そうですか。でも、あなたくらいの強さでベテランとか、上位探索者とか呼ばれる……この国、と言うか世界の探索者の実力の底が知れますね」
「……っ!?貴様……俺たちが築き上げてきたものを否定するのか……!」
「えぇ」
「っ!?」
期待を裏切られたせいか、今の俺は止まらなかった。失望の波が俺の胸の中で渦巻いている。
「スキル指数178、でしたっけ。この実力で178……第四十層以降まで行けるとされているらしいですけど……果たしてその実力では第四十層からどのくらいまで行けるんでしょうね」
「……は?」
「正直気になるんですよね。スキル指数って一体何を測定してるんだろうって」
「何を言って────」
その時、話し終えたのだろう坂本さんが少し声を張って俺たちにまで聞こえるような声で言った。
「これより帰還する」
「「「「「了解」」」」」
俺が洌崎さんを回収したのを確認した坂本さんは、第八層に繋がる階段を登り始める。その彼に続く形でみんなが階段を登っていく。洌崎さんを担いだ俺は一番後ろだった。
だから、気付いたのは俺だけだった。
「っ!リーダー!」
「どうし────っ!みんな、早く上に上がれっ!」
「一体どうしたの!?」
「いいから早くしろっ!」
しかし気付くのが少しだけ遅かったようだ。
ゴゴゴ────バキッッッ!!!
「「「「っ!?」」」」
突如第九層の地面が割れ始めたのだ。特異キングゴブリンと戦った時から嫌な予感はしていたのだ。こんな時に起きて欲しくなかった。
更に、地面が割れたと思ったらそこから何かが這い上がってきた。
「あれは……触手……!?」
「関次!早く洌崎を連れて上に上がってこい!」
「はい!」
「─────させるかよ!」
「っ!?」
と、その時洌崎さんが俺の腕を引っ張り下に戻そうとしてくる。しかし────
「─────なんだ!?」
這い上がってきた触手が洌崎さんの足に絡みついたのだ。その触手は洌崎さんを第九層の割れ目へと引っ張っていった。そして洌崎さんに捕まっている俺もズルズルと割れ目へと引きずられていく。
「こうなったらてめぇも道連れだ……!」
「チッ、こんな時に感覚を掴むなんて……!」
そして厄介なことに、奴はついに自分のスキルの使い方を無意識にだが掴んだらしく、奴の“爪”が俺の腕に喰い込みそこから血が流れだした。
腐っても才能はあったのかよ……だったら……!
だったらあの時に発揮してほしかったッッッ……!
そうしている間についに第九層に戻ってきてしまった俺だが、流石にここまで来ると看過できなかった。
「洌崎さん……」
「なんだよ」
「もう────」
そして俺が掴まれていない方の腕を振り上げ、掴んでいる洌崎さんの腕を引きちぎろうとしたその時だった。
「─────接続開始」
どこからか奏の声が聞こえた次の瞬間、さっきまで洌崎さんを引きずり込もうとしていた触手が止まった。
「へぇ、これがアドバンス、ねぇ……使い勝手いいじゃない」
「か、奏……?」
「待ってて菅十、今そこにいるゴミをすぐに処理してあげるから」
「え、えっと……」
「ち、千代久さん……?」
いつの間にか降りてきていた奏に俺は戸惑いを隠しきれず、そして後ろにいる苑宮さんたちも俺と同じだったようだ、戸惑いながら奏を呼び止めようとしていた。しかし奏は苑宮さんらの方を向くことなく、何故かずっと俺の方を向いていた。
「取り敢えず、その腕かしら。菅十の腕を掴んでるっていうだけで、いらないわよね、それ」
そう言って彼女が腕を横に振るうと、突如さっきまで止まっていた触手が動き出し、洌崎さんの、俺の腕を掴んでいる方の腕に絡みだしたと思ったら、次の瞬間スパンと腕が切れた。
突然起きた目の前の光景に一瞬呆然とした彼は、その後襲い掛かってきたあまりの痛さに喉の奥から大声を上げた。
「ッッッ!?あ、あああああああ!?」
「五月蠅いわね」
「ガハッ!?」
そして彼女はそう言いながら今度は人差し指をピッと上げた。直後、物凄い勢いで地面が隆起し、奴の腹に直撃した。
「……は?」
目の前の、さっきから起こっている出来事は一体なんなのだろうか。ていうか、奏ってそんなことできたんだ。てっきり後方で頭を使うほうかなと思ってたけど、案外戦えるんだな。
「奏……」
「……」
俺が何とも言えないような表情で彼女を見るが、彼女はまるで俺から逃げるように顔を伏せた。
そして俺は目をまん丸にして────
「凄いな!?まさかそんなことができるなんて!やっぱり地元で一番器用って言われてただけはある!」
「だからあなたの前でやりたくなかったのよっ!?何よその“地元で一番器用”って!?毎回毎回私を褒めるときに出てくるそれはっ!?なんかむず痒いからやめて欲しいって何度も言ってるわよね!?」
「でも奏はいつもなんでもできるから、どう褒めればいいのかなって考えてもこれくらいしか例えがでないんだよ」
「そこは素直に凄いだけでとどめておきなさいよっ!?」
「でも実際奏がやることなすこと全て凄いから凄いだけだとなぁ……?凄すぎてどう表現すればいいのか分からないんだよ」
「だとしてもよッッッ!?」
そしてしばらく言い合いをした後、ようやく興奮から戻ってきた彼女は一言「接続……解除」っと言ってからまた伸びてる洌崎さんの方を向いた。
ちなみにさっき出てきた触手は既になくなっている。と言うか、ズズズとまた地面に潜っていった。一体あれは何だったんだろうか。
「……」
「これで回収しやすくなったわね」
「あ、あの奏……説明が欲しいんだけど」
「後でね」
そしてなんやかんやちょっとしたトラブルはあったものの、俺たちはようやく地上に戻ることができたのだった。
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