第27話 純粋な少年VS初心な少女

「……ふぅ」


「どうした?奏」


「ちょっと頭痛が、ね……?」


「あぁ、後遺症か。初めて使ったもんな。またおんぶするか?」


「……あそこの薬局で頭痛薬買って飲むわ」


「分かった」


 きっとアドバンスを使った反動が今来たのだろう、彼女は辛そうにしていた。だがすぐに治るだろう。俺は経験したことは無いのだが。


 そして頭痛薬を買い、家に戻った俺たちは疲労がたまっていたことも相まってか、そろって地面に座り込んでしまった。


「疲れた……」


「……本当にね」


「今水持ってくる」


「……ありがと」


 俺は何とか振り絞って立ち上がると、冷蔵庫の中にあった水の入ったペットボトルを取り奏に渡した。そして彼女は買った頭痛薬を開けて飲んだ。


「ふぅ……」


「今日はもう休んで明日色々したほうがいいなこれは。明日丁度休みだし」


「そうね、そうしましょうか……」


 いつもの彼女だったらこんな提案に乗ることは無いのだが流石に無理だと判断したんだろう。これ以上無理はしてほしくなかったのでよかった。


 





 そして次の日。


「あ」


「どうしたの?」


「苑宮さんから連絡きてた」


「あら。あの洌崎とか言うキモオヤジの続報じゃないかしら」


「キモオヤジて。まだ洌崎さんはアラサーだったはずだけど?」


「アラサーだとしてもあんな気持ち悪い男、なんて呼んでもいいじゃない。本当に吐き気がするわ……」


「あ、そうっすか」


 本気で気味悪がっている奏はさておき。洗濯物をある程度たたみ終えた俺はスマホに通知が来ていたのでそれを見た。すると苑宮さんから連絡が来ていたのだ。


 一体なんなのだろう。


「へぇ」


 すると奏の予想通り洌崎さんに関することが書かれていた。


「なんて書いてたの?」


「洌崎さん、出血過多で意識不明だって」


「あら、そう」


 どうやら俺との戦闘でまぁまぁ血を吐いてたりしていて少なくなっていたところに奏が彼の腕を切り落としたことが決め手となって、血が物凄く不足しているんだそうだ。そして彼から事情を聴くために入院することが決まったとか。


 既に治療は始まっていて、意識を取り戻し次第、事情聴取を執り行い、逮捕するらしい。


「……前科あり、だったんだ」


 そして俺が特に驚いたのが、なんと彼、前科持ちだったのだ。と言うのも、過去に苑宮さんの旦那さんに起こった事件で一度起訴されていたそうだ。その時執行猶予付きの判決が下ったんだと。


 その執行猶予も今現在続いていたため、二度目の逮捕がほぼ確実となっている上にその後の判決はほぼ確実に重くなるそうだ。


 ま、もう俺にとって洌崎さんは赤の他人となっている。だから今後の彼の進展については興味ない。弱かったし。


「あんな男、前科持ってたって全然驚くことは無いわよ。むしろ、そんな彼をチームに所属させてた彼らの方がおかしいと思うんだけど」


「確かに。そしたらなんで彼を螺旋に入れ続けていたんだろ」


「どうせ、実力があったからとかじゃない?それに、螺旋って結成してから一度も新しいメンバーを加入させてなかったんでしょ?」


「らしいな」


「そしてあのキモオヤジが事件を起こして、強制脱退させようとしたけど阻まれ、だから新しいメンバーを秘かに探していたんじゃないかしら。将来あのキモオヤジに成り代わるような、そんな有望株を」


「まぁ、それが妥当だよな。理由としては」


「後思いつくとしたら、今まで命を預けてきた仲間としての情があったから、とか?もうこんなことがあったからそんなのは消え失せてると思うけど」


「そうだな」


「ま、そんな奴のことなんてもうこれ以上気にする必要はないわよ。次の話をしましょう、次の話」


「次?」


 次の話とは一体何なのだろうか。こんな話をした後につながる話なんてあるのか?


 取り敢えず聞くだけ聞いてみよう。







「────菅十は私のことは好きよね?」







「…………………………お、おう」


 頭が真っ白になった。


「……何よ、その間は」


「い、いや。あまりにも話がぶっ飛んでたし突然だったから」


 なんとか再起動することに成功するが、それでも混乱は収まらなかった。


 いつの間に気づいてたんだ!?


「気付くのなんて簡単よ。顔に出てたし」


「え」


「結構前から知ってたわよ。菅十が私のことを、す、好いてくれてるってことは……」


「そ、そうなのか……」


 ……恥ずかしい。まさかバレていたなんて。


 だったらもういいや。バレているのならこの際開き直ってしまおう。


 俺は姿勢を正して彼女を真っすぐ見た。そして長年溜めて燻っていたこの想いを一気に彼女にぶつけた。





「────そうだな。俺は奏のことが好きだ。愛していると言ってもいい」





「そ、そうなのね……」


 俺が奏の目を見てそう言うと、彼女は恥ずかしそうに眼を逸らした。正直俺も恥ずかしいのだがもうこの際恥だなんだは気にしてられなかった。


 ただただ、この想いを今彼女にぶつける。それだけしか今の俺にはできなかった。


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