第28話
そして俺と奏の顔が真っ赤になり、少し時間をかけてなんとか昂る気持ちを抑えて冷静になった俺は彼女に純粋な疑問をぶつけることにした。
「でもなんで急にそんなことを聞いてきたんだ?」
「あぁ、それはね。昨日の一件で思ったのよ……もしかして私、客観的に見てモテてるのかなって」
「……今更?」
確かによく学校で男子に話しかけられてる姿をよく見たりしている。あ、もしかして俺の知らないところで告白とかされてたり……!
「あ、そう言えば何度か告白されたわね」
「……っ!」
やっぱりそうだったのか……!どうりでよく昼休みに見かけないと思った……!
「もちろん全て断ったけど」
「……だよな」
まぁそれくらいは分かってはいたけど……分かってはいたけど……!
それでもどこか不安はあった。もし、その数ある告白の中の一つにOKをだしていたとしたらと言う不安が。
まぁその不安がここで思わぬ形でだが解消されホッとした。
「まさか私が誰かと付き合ってたと思ってたの?」
「……可能性はあるのかな、と」
「あんな顔だけの男なんかに興味ないわよ」
「……」
そんなにバッサリ切るってことは相当嫌な言い方をされたのか、もしくは単純に興味ないのかのどっちかだったのだろう。
そう俺の中で勝手に納得しているとふと彼女は何かに気づいたかのように目を見開いた。
「それより、あなたはその……錐揉さんと……つ、付き合ったりしてるわけ……?」
「ん?なんでここで錐揉さんの名前が出るんだ?」
「いや、何でもないわ……」
「……?」
本当に何で錐揉さんの名前がここで出てくるのだろう?聡い彼女なら俺が好きなのは後にも先にも奏だけってことは気づいていたはずだし、さっき自分でそう言ってたじゃないか。
「ま、まぁ話を戻すのだけれど、今日私、初めてアドバンス……?ってやつを使ったじゃない?」
「そうだな。なんで急に出来るようになったのかは知らんが」
「その時にね、頭に流れ込んできたの。大穴の、第九層で起きたこととか……」
「……っ」
その言葉を聞いて、俺の背中に嫌な汗が流れた。もう終わったことだから知られることは無いと、そう思ってたのに。
そう言えば、あの実地研修の時何で彼女たちだけは第九層に残っていたんだろう。下に行く途中、上に逃げていく学生共を見かけたが、その中に先生の姿と奏らの姿は無く、彼らは第九層にいた。そして、先生があそこで死んでいた。
そこから予想できることは、第九層に上がってきた特異キングゴブリンの足止めの為に先生が残ったが、奏は何かを手に入れるために残った、もしくは援護に回ったのだろうか。でないと、死んでもいないのにアドバンスを獲得した理由に説明がつかない。
アドバンスを手に入れた俺にはわかる。これは危険だ。一歩間違えれば人格がスキルに乗っ取られてしまう。これはそう言った劇薬だ。だからなのだろう、初めてアドバンスを使った時、頭の中に何故俺がこれを得られたのかが瞬時に分かった。それと同時に俺を乗っ取ろうとする意志みたいなものは働いた。
スキルは人の中に眠る特別な力、もしくは人が普通にできる技能を強化したもののどちらかが体に宿ったものと言われている。そのスキルがそんなものではなく人為的に人に与えたものだとしたら……?
と、前に奏が予想していたが、その予想が今の彼女がアドバンスを手に入れたと聞いて何故か頭の中に浮かんできた。
まぁいい。
とにかく、奏はあの第九層で何かがあると踏んだから残ってそれを探していたんだろう。それがきっと彼女がアドバンスを使えるようになった理由だから。
だが今は俺があの時、彼女らを逃がした後何をしたのか知られてしまった、この状況を何とかしないといけない。
「か、奏……?結果的にはほら、俺生きて戻ってこれたんだし────え?」
その時だった。
彼女は突然振り返ると、座っていた俺の胸元に飛び込んできたのだ。
ふわりと俺の鼻元に香った甘い匂い。同じシャンプーを使っているはずなのに、奏が使うだけで俺とは全く違ういい香りになるんだから驚きだ。いつまでも嗅いでいたい……変態じゃないぞ。俺は。
……いや、そんなことじゃなく。
少しだけ冷静になって彼女が抱き着いていると認識した途端、どうして急に俺に抱き着いてきたのか、そのことで頭がいっぱいになった。
しかしその理由もすぐに分かることになる。
「ど、どうした────」
「怖かった」
「……」
その一言で俺は何も言えなくなってしまった。確かに身近にいる人が死ぬ瞬間を見せられて何も思わないわけがない。それも、幼馴染の死ぬ姿なんて。俺だったら見たくない。奏が死ぬところなんて想像したくもなかった。
だが奏は知ってしまった。俺が死んだ瞬間を。
「……だから私は、あなたに大穴に潜ってほしくなかった。あそこは死と隣り合わせだから」
「でも……」
「なんで菅十が大穴に潜りたがっていたのか、今なら分かるわ」
「っ」
「でも、分かってしまったからこそ、猶更、今は潜ってほしくないって思ってしまってるの」
「……どうして」
俺が呆然としながらそう聞くと、彼女は俺の胸元に埋めていた顔をばっと上げて、俺の顔を見てきた。その目には涙が溜まっていた。
「なんで……なんで一緒に叶えようとしないのっっっ!?」
「……は?」
「……なんで私に何も言わないで一人で叶えようとしてるのっっっ!?言ってくれれば協力したのに……!」
「でも……」
「何年一緒にいると思ってるの!?まさか、私が腐れ縁だからって理由でずっとあなたと一緒にいたと思ってるの!?」
「……それは」
「私だって……付き合う相手は選ぶわよ」
「……え?」
彼女はプイっと顔を逸らす。その顔は怒っているようにも、拗ねているようにも見える。こんな子供っぽい表情を見るのは初めてだ。
「……何でずっと一緒にいて気付かないのよ」
「…………………………それって」
「……」
俺はその言葉でようやく彼女の言いたいことが分かった。それが分かった瞬間、俺の中でとめどない気持ちが溢れ出しそうになる。嬉しい気持ちだったり、今まで気づけなかった自分に対して憤りを覚えたり。
こんな形で彼女にそう言わせてしまった、己の不甲斐なさだったり。
「だから…………ね?」
「……っ!」
「っ!?」
俺はもう、気持ちを抑えることなんてできなかった。座っている俺の中で納まっている彼女を俺は思いっきり抱きしめた。
そして、さっき言った言葉を、更に想いを込めて紡ぐ。
「────俺は、奏のことが好きだ。これまでも、これからも、ずっとずっと……例え死んだとしてもこの気持ちは永遠に変わることは無い」
「────私も、あなたと初めて会って、助けてもらったあの日からずっとずっと……そしてこれからも、あなたのことを愛してる。愛し続ける。この気持ちは例え死んだとしても、ずっと抱き続けるわ」
そして俺たちは互いの顔を見つめ、そして────
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