第29話 スキルVS記憶
(千代久奏視点)
それは、あの実地研修の後にあった期末試験期間にまで遡る。
「……ふぅ」
「お疲れ様、明里」
「ほんとだよぉ……!もうここには来たくなかったのにぃ……!」
「でも、手伝ってくれるんだよね?」
「……それを言われると何も言えなくなるって分かってて言わないでよぉ……!」
「はいはい」
そう言いながら私と明里は第九層のとある場所へと向かう。明里はここにいい思い出は無いようだが、私にとっては自分の願いが叶うと分かったため、襲われたと言う事実はあるもののここに対して何か思うことは無かった。
ここは、前に謎の仮面をつけた人に助けられた場所であり、私たちを率いていた先生が亡くなった場所でもある。だから、一応その先生に花を手向けに来た、という目的もあった。
「ここ、だよね」
「そうね」
私たちは持ってきた花を先生が亡くなった場所へと辿り着いたが、そこには三体のモンスターがいた。
「……近くにしよっか」
「そうだね」
今奴らと交戦すると体力が持たないと考えた私たちはすぐにその場を離れ、先生が死んだところの近くに花を置き、合掌した。
「さて、そしたら行きましょうか」
「……うん」
数秒間手を合わせていた私たちはそろそろモンスターが来そうだという事ですぐにここを離れ、本来の目的である前に見つけた場所へと向かった。
もう先生に対する義理は果たしただろう。今日までここに来ようとしていたクラスメイトは私たち以外見かけることは無かった。私が知らないだけできっと行きたいと思っているクラスメイトはいるはずだ。だが、まず個人でここに来れる人はそう多くない。私はモンスターがほとんど出ないルートが分かっていたからここまでこれただけで、普通に戦って来ようとしていたら間違いなく途中で死んでいた。
「ようやく、ようやくここに来れたわ」
「……前に来たときはこれが何なのか分かんなかったし今も分かんないんだけど……何これ?」
まぁ、分からないのも無理はない。正直私だって事実を並べてそれをもとに大穴に潜ってその根拠を集めてそこから予測と予測を重ね続けてようやくあるかもしれないと言う予想を立てることができたのだから、本当にあるなんて半信半疑だった。
しかし、あった。
そこには小さな小さな、人ひとり入れるかどうかわからないほどの穴があった。
そしてその穴の前には鍵穴のような形をした半透明の何かが浮いていた。
「これを素直に鍵穴とみなしてもいいの……?」
「いいでしょ」
「え!?」
警戒している明里を他所に、私はその鍵穴に手を伸ばして、触れた。
『─────規定外により承認不可』
「ふぅん……」
私は生意気なことを言ってきたシステムに対し、スキルを行使した。
『─────規定外によ、よよよよyyyyyrrrりししししししsssss承認ふふふふふふふふふhhhhhh不可不可不可不可かかかかかかかかkkkkkk』
「な、なんかバグり始めてるけど……大丈夫なの?」
「えぇ」
明里が心配そうにそう聞いて来るが私は適当に返事をすることしかできなかった。それくらい、ここのセキュリティが厳しかったのだ。
額から汗が流れ、それが目に入りかける。だがそれをぬぐおうと思うほど今の私には余裕が無かった。
頭に猛烈な負担がかかる……だが諦めない。ここでやめたら一体何のためにここまで頑張ってきたんだ。その今までの苦労を全て否定することになる。
それだけは……それだけはッッッ────
「嫌だッッッ!!!」
そう叫びながら私は最後の仕上げを始める。“カチャリ”と音がした。
『─────規定内により承認されました。ゲートが開かれます』
「ふぅ……」
「お、お疲れ様。これでこの先に行けるのかな?ていうか、ここってどこに繋がってるの?」
「あぁ、それはね────入ったら分かるわよ。私の予想が正しければ、きっと────」
私のこの言葉の途中で私たちは開錠された穴に吸い込まれたのだった。
「……ここは────って、え?噓でしょ……?」
吸い込まれた先で見えたものに隣で座っていた明里は驚いて、黙り込んでしまった。しかしこうなっても仕方がないだろう。私だって驚いているんだから。
目の前にあるのは巨大な板。だがそこに書かれている文字はおよそこの世界には存在しない言語だった。
眉唾物として議論する意味なしとして都市伝説化していた、大穴の真実の、その候補の一つ。
その真実を証明するいろんな証拠があるにもかかわらず最後の一手が無く、結局ゴミ箱行となってしまったもの。
「遂に見つけた……大穴のアカシックレコード……!」
大穴内の事象全てを記しているもので、大穴最下層に存在すると予想されるも大穴で物理法則が成り立っていると言う事実から“存在はあり得ない”と烙印を押されたこの、アカシックレコード。
そんな空想上に存在しているはずのものが、今私たちの目の前にあった。
「あ、アカシックレコードって……数十年前に存在が否定されたはずの……あの?」
「そ。数多の証拠があったにもかかわらず、この中では物理法則が成り立っているのだったら物理法則が成り立つはずがないものを記しているアカシックレコードは存在しないとされた。けど、本当に存在した……!」
「ねぇ、アカシックレコードって物理法則が成り立っていると存在しないものなの?」
「そうよ。だって地球にあるとされているアカシックレコードと大穴にあるとされていたアカシックレコードは別物だもの」
「……そうなの?」
「えぇ。地球のは元始 からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念とか言われてるけど、大穴のは地球のものではない、異世界記憶の概念と言われていたの」
「……」
「私はこれを求めていた。だってこれがあるってことは、異世界があるってことでしょう?」
「そ、そうだね」
私はアカシックレコードに近づき、そして触れた。
『─────ユーザー:未登録。登録を行ってください』
「っ!」
瞬間、頭の中に流れ込んでくるこのアカシックレコードの概念。私は咄嗟にスキルを行使しその情報をスキルに精査させた。
この情報量……普通の人だったら脳がショートして死んでしまう。それほどまでに膨大だった。
まぁ、少し考えれば情報が大量にあるなんて当たり前だ。だってこれには個々とは違う別の世界の記憶を内包していたのだから。
そしてある程度頭痛が収まった後に、私はこれの指示通りにユーザー登録を行った。
『─────登録が完了しました。ユーザー:千代久奏。スキル:脳。これよりスキルの昇華を行います』
「……は?」
後ろで明里がポカンとしていたが、私は流れてきた情報でそれが即座に行われることを知っていた。だから特に驚きはなかったが、またもや頭痛が私に襲い掛かった。
「くっ……!?」
「大丈夫!?」
「だいっ……じょう、ぶ……!」
そしてしばらく頭痛に耐え痛みが引き始めた途端、視界がまるで私のものではないような感覚に陥った。
「これ……は……」
「奏?」
「ッッッ!?」
次に見た光景は、菅十があのキングゴブリンに両断されていたところだった。
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