第30話
(千代久奏視点)
あの時見た仮面を被っていて、今までの私だったら彼と断定していなかったが、今の私にはもう彼────菅十にしか見えなかった。
どうやらあの仮面には軽い認識阻害を見た人に施すと言うものだったらしく、普通だったらそれを見破ることはできない。その阻害を無効にするスキルを持っていない限り。
私のスキル、“脳”にももちろんそんな力は持っている訳が無いのだが、アドバンスで手に入れることができてしまった。そしてその力は過去の記憶にも作用するようで、今目の前に見える過去の光景では仮面をつけた菅十がばっちりと私の目に映っている。
「かん……と……!」
「え……?関次くんが見えるの?私には見えないんだけど……?」
「そ、それはそうでしょうね……これは第九層の記憶だわ……。今私の網膜に映っているのは……!」
「なんでそんなことが起きているの……?」
「分からない……もしかしたら私のスキルが勝手にそうしているのかもしれない。明里には見えていないのよね……?」
「そうよ……!私には奏が勝手に苦しんでいるようにしか見えないわ」
「……」
そのことを幸いと考えていいのか、それとも不幸だと嘆くべきなのか……この記憶を共有できないのは残念だけど、こんなもの明里にも見せたくない。
これは、私が受け止めるべき事実だ。
そう決意を固めた私はその記憶から目を逸らすことなく見続けた。
余りにも痛々しいその姿に私はすぐに寄り添ってあげたくなったが、彼の目がそれを拒否しているように見えた。その場に私はいなかったからきっとそれは幻想なのだが、何故か私にはそのようにしか見えなかった。
思わず涙が零れてくる。それはきっと目の前で死にかけている、と言うか本当に死んでいる彼を見ているからだろう。
私が恐れていた事態が目の前で起こっている。それが何より悲しかった。やっぱり、無理矢理にでも止めるべきだった。
そんな感情が私の心を抉り出す。
だがそんなことは束の間、彼の両断されたはずの腹から突然下半身が生え、元の下半身が溶けて消えてしまった。そして残ったズボンを履いた彼は生えたばかりの下半身を確かめるかのように屈伸をし始めた。
私の目には何が映っているのだろう。
何が起こってるのだろう。
分からない。
どれほどスキルを使ってもその真相がわからなかった。そんなのが、彼の身に起きた。
そして大丈夫だと確信したのだろう彼の、聞こえない咆哮が聞こえた瞬間、私の視界は暗転した。
「っ!?」
「奏!?」
そして私は明里に体を受け止められながら意識を落としたのだった。
「……っ!?」
「明里!?ようやく起きたのね!?」
「……ここは」
「アカシックレコード?がある場所よ。もしかして覚えてないの?」
「あぁ……そう言えばそうだったっけ」
私はなんでここに倒れて……はいないけど、どうして今明里に膝枕されているのだろう?それまでの経緯がぼんやりとしていてあまり思い出せない。
ここまで来たのは覚えていて、それでアカシックレコードに触れたのも覚えていて、その後にユーザー登録をしてから……スキルが強制的に進化してアドバンスを貰ったんだっけ。
「そっか……アドバンス」
「アドバンス?何それ」
「何でもないわ。あ、そうだわ明里。私が寝ている間にアカシックレコードに触れた?」
「触れてないわよ?なんで?」
「いや、触れない方がいいって言いたかっただけ。触れてみて分かったけど、あれは多分だけど明里が触れたら脳が爆発して死ぬわ」
「……何その恐ろしいやつ。だったら何で奏は爆発しなかったの?」
「それはスキルのお陰よ」
「なるほどね」
何故か明里はこの一言で納得してしまって少し拍子抜けだったが、まぁ明里が危険に晒される心配はこれで消えたとみていいだろう。後は記憶の祖語だが……これは追々何とかなる気がする。
こんな勘にいつもは頼ることは無いのだが、今回は何故か勘が強く働いていた。この勘の原因を探ってみたいのだが、それはきっと空いた記憶にあるはずだ。
私は今、アカシックレコードに触れて以降の記憶が全くと言っていい程無い。
きっと私はアカシックレコードに触れた後、何かを見た。それも、かなり自分にとってショッキングなものを。でないとこんな腫れぼったい、まるで泣いた後のような目をしているはずがないのだ。
だがそれを探る暇は今は無かった。
時計を見れば、もうすぐ菅十が家に戻ってくる時間だ。
「明里、急いで帰ろう」
「分かったわ!」
そして私たちは来た道を戻り、無事大穴から抜け出したのだった。
と言う記憶が割れ目から出てきた触手を見た瞬間に私の中に流れ込んできた。大穴を出てすぐに忘れてしまっていた記憶。いや、スキルに封じられていた記憶。
そうだ。
私はここで────菅十が死ぬ瞬間を見たんだ。
そして今、似たような状況が起こっている。
あの時とは違って脅威度は大分下だが、それでももしかしたら死んでしまうのに変わりはない。
だったら、するべきことは一つだろう。
「─────接続開始」
忘れていたスキルのその先────アドバンスを使って、彼を助けるんだ。
いつも彼が私を助けてくれたように。
今度は、私が助けるんだ……!
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