第31話 力持ちな少年VS将来

 数か月経った今俺と奏はいつものように大穴に来ていた。


 あの日、互いの想いが通じ合い晴れて俺たちは恋仲となったわけだが、それでも今までと何か生活が変わったかと言われると大して何も変わっていない。


 強いて言うなら少し奏の頬が赤くなる回数が増えたくらいか。それとスキンシップが明らかに増えた。どうやら奏も相当我慢していたらしく、何かある度に俺にくっついてくる。


 ……そう考えるとかなり変わったな。


 しかし、今はまだ大丈夫だがもし奏が学校でもこの感じで俺に接していたら一体何人の男子が卒倒するだろう。奏は自分がようやくモテていると認識し始めていたが、きっと奏が思っている以上に彼女に思いを寄せている男子はいるだろう。


 廊下を歩いていると偶に奏の連絡先を教えて欲しいと言ってくる他クラスの男子とかいるのだ。そう言った時は本人に直接聞けばいいと言っているのだが、


『言ったさ……でも駄目だって。強い口調で言われたよ……』


 と言っていた。


 しかし他人の個人情報を軽々教えるのは良くないので、悲しそうな表情をしていたとしても、それに心がキュッと縛られかけるも、俺は彼女の為に断った。その時の彼の感情は計り知れないが、とにかく落ち込んでいた。


 もちろんそんなこと、奏が知る由もない。このことは多分ずっと彼女に言うつもりはない。言っても今更なのだから。



 ドゴォ……!



「ありがと」


「これくらい、余裕だ」


「流石だわ」


 そう言って褒めてくれる奏は手に持っていた水筒を俺に渡してくれた。丁度喉が渇いていたので俺は素直にそれを受け取って中の水を飲んだ。


「サンキュー」


「これくらいしかできないから」


 そう言って悲しげに笑う彼女に俺は何とも言えない感情に襲われる。奏が思っている以上に俺は彼女に助けられているんだと、そう伝えたいのに、それにふさわしい言葉が浮かんでこなかったからだ。


「どうする、菅十。もう少し潜る?」


「……いや、今日はこれくらいにしよう。俺たちはまだ学生なんだから」


「……もどかしいわ。と言うか、約束は本当に果たしてくれるんでしょうね?」


「……も、もちろん」


「本当に?」


「……」


 そう、俺たちは一つ決めごとをしていた。それは、学生のうちになるべく多く大穴に潜る。その代わり、今通っている専門学校を卒業したらそれ以降大穴に潜らないというものだ。


 今俺たちはチーム螺旋の一人であり、今後は主戦力として奥深く潜ることがあるだろうからだ。そうすれば必然と潜る数も増えてくる。


 奏はそれで一生分潜れるだろうと言うのだ。


「だがよぉ、いくらなんでも少ないと思うんだが」


「だったら別れる?」


「うっ……」


「嘘よ。別に私は菅十が卒業してからも潜りたいって言うのならいいと思ってるのよ」


「え?」


「でも、私生活にもっと影響がでるでしょう?」


「……確かに」


 最近の俺はよく物を壊していた。それは成長スキルのせいだ。俺のスキルは大穴を出た後も作用する。まぁ1000分の一にまで効力は減るのだが、それでも下がり切らなかった力によってよく物を壊してしまっていた。


 最近ようやく力加減が分かってきたが、常日頃俺のスキルは成長する。故にその度に加減を調節していたらキリがない。その上、大穴ではその成長度合いが大幅に上がってくる。その為、一度調節した感覚のまま過ごしていると、諸いものだとすぐに壊してしまう。


 故に奏はこれ以上スキルを成長させないためにもここでやめようと言っているのだ。


 もしこのまま力が強くなってしまうと、いつか奏に触れただけで怪我をさせてしまうかもしれない。


 だけど、もっと深く潜って強いモンスターと戦いたい。


 この二つで俺は板挟みになっていた。


「……」


「ま、今答えを出さなくてもいいわよ。ゆっくり考えなさい」


「おう……」


 普通ならここでやめるべきなのだろう。すぐに学科変更届を出して一切大穴に潜らなければいい。だが、それで果たして俺は満足かと言われると、俺は絶対にNOと答えるだろう。


 燻っているのだ。あの一度死んだあの日から俺は、飢えている。


 力に。


「……」


 なんか今の中二病みたいだ。だが、強者との戦いに飢えているのは本当だ。もっと強い敵と戦って、あの日みたいに乗り越えたい。


 あの日のように。


「帰ろう」


「えぇ」


 そして何も答えが出ないまま、俺たちは大穴から出たのだった。

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